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2-2

 春影のいる奥座敷から離れると、その威圧感から解放される。

 初めて春影に出会った時はもっと柔らかく心地よい空気を身にまとった人だった。

 あの頃と今とではまったく変わってしまった気がする。

(それにしても――)

 さきほどの斑目の言葉を思い出す。

 昨日、喜多村に届いた指示はなんだったのだろう。

 いつも厳しい斑目ではあるが、斑目が嘘をついているとは思えない。もちろん喜多村にしても、瑠樺を騙す理由は何もない。誰かが騙したのだとしたら、いったい何のために? 昨夜、あの公園に妖夢が現れたことと何か関係があるのだろうか?

 長い廊下を歩きながら考える。だが、どんなに考えたところで答えに辿り着くことはなかった。

「瑠樺さん」

 長い廊下を抜け奥の院から出た時、一人の少女が話しかけてきた。「春影さまとのお話はもう終わったんですか?」

 茉莉穂乃果まつりほのか、彼女も一条の家に仕えている一人だ。茉莉家ももともと一条に仕える家柄のため、穂乃果は子供の頃から一条の家に出入りをしているそうだ。ただ、茉莉家は元々術者の家柄ではないため、一条家の裏方の仕事を手伝っているらしい。

 中学生である穂乃果は瑠樺にとって妹のように思える存在だった。瑠樺が一条の家に仕えることになって以来、穂乃果も瑠樺を姉のように慕ってくれている。

「昨夜のこと聞きました。大変でしたね。でも、瑠樺さんが無事で良かった」

「ありがとう」

「無理はしないでくださいね」

「ええ、斑目さんからも叱られちゃった」

「斑目さん、怒ると怖いですよね。でも、あの方はきっと私達のことを本気で想ってくれているのだと思います」

 微妙な気持ちを持ちながらも瑠樺は頷いてみせた。

 一条家に仕えると決めた日、この屋敷に訪れた時のことが今でも忘れられない。

 斑目の人を射るような視線。その目は決して瑠樺を歓迎しているとはいえないものだった。どうしてそんな目で見るのだろうと悩んだものだ。

後日、聞いた話では、瑠樺が一条家に仕えることを最後まで反対していたのは斑目だったらしい。そこを春影の一言で許可が降りたのだそうだ。

「穂乃果ちゃんも怒られるようなことがあるの?」

「しょっちゅうですよ。最近、私は奥の院への出入りを禁止されています」

「何かあったの?」

「さあ、私にはよくわかりません。一条に仕えているとは言っても、皆、私には多くを話してはくれませんから」

「私も同じよ。まあ、私はまだまだ役に立たないからだけど」

「それは違います。皆、瑠樺さんには期待をよせています。斑目さんだって――」

「ああ、斑目さんの話はいいわ」

 瑠樺は笑ってみせた。穂乃果はきっと本気でそう思っているのだ。『純真無垢』という言葉がこれほど似合う人も珍しい。

「瑠樺さん、もう帰られるんですか?」

「これから学校に……でも、もう今日は休もうかしら」

 瑠樺は腕時計をチラリと見てから言った。すでに昼近い。「穂乃果ちゃん、学校は?」

「休むように斑目さんから言われました。最近、ちょっと熱っぽいし」

 そう言った穂乃果の顔は確かに少し赤らんで見えた。

「大丈夫?」

「ええ、でも、どうしてこんな毎年この季節になると体調が悪くなるのか」

「もうすぐ誕生日だったわね」

「そうなんです。また今年の誕生日も寝込んで過ごすのかしら」

「病は気からって言うじゃないの。弱気になっちゃダメよ」

 瑠樺の言葉に、穂乃果は素直に頷いた。


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