7-3
山道を三人で足早に歩く。
山を下り、山裾にある社へと向かう。思えばこの街には古びた社が多く点在している。そして、その多くが今は使われておらず、廃墟と化している。
今、向かっているのもそんな一つ。そこが蓮華と約束した場所だ。
全ては妖鬼を捕らえるためだ。
自分もその計画のなかで大事な役目を負っている。だが、本当にそんなことが出来るのか、瑠樺は未だに不安だった。
「瑠樺君、もう少し急ごうか」
矢塚が振り返りながら瑠樺に声をかける。
「あの――」
と思い切って口を開く。「雅緋さんの力なら妖鬼に対抗する十分の力になるんじゃないでしょうか」
しかし――
「無理よ」
矢塚が答えるよりも早く、いつものような冷静な口調で雅緋が答える。「捕まえるんでしょ? じゃあ、私は無理」
「どうして?」
「さっき、あなたも聞いていたでしょう? 私の力はね、魔化に対応するためのものなのよ。私の力は強すぎるのよ。そして、『破壊』に特化した力なの。たかが妖鬼、私が手を出せば殺してしまうかもしれないわ」
「でも、この前は――」
「あれは妖夢の使い魔だったから。殺してもいい相手だったから手を出したの。強過ぎる力を持っていると、生きて捕らえるのは殺すよりも難しいのよ」
「周防君の時は?」
「あれは彼が弱すぎたのよ。あそこまで弱い相手なら手加減可能よ。それに最終的に彼を封じたのはあなたでしょ。でも、相手が妖鬼で、さらにその本能を封印するのなら手加減は出来ない。それに妖鬼くらいの相手ならあなたで大丈夫よ。というか、そのくらいの相手、捕まえられなきゃダメでしょ、あなた」
「私に出来るんでしょうか?」
「出来るさ」
矢塚が言った。「いや、キミにしか出来ない。キミは二宮の生まれだ。つまりは陸奥神筆頭の和彩の出。血が全てだというつもりはないが、それでも妖かしの血を引く陸奥神家にとって血で受け継ぐものも大きいのは紛れもない事実だ。これまでは訓練もされていなかったから妖力の近い方もままならなかっただろう。だが、私の屋敷で妖力の使い方を学んだ。キミの妖力は以前の何倍もの強さになっているよ」
覚悟を決めるしかなかった。
「周防君たちは大丈夫でしょうか」
「うん、あの二人、今のキミと比べたら妖力はさほど強いわけじゃない。けれど、幼い頃から鍛えられてある。きっとやってくれるさ」
「そんなことより続きはどうした?」
いつの間にか再び沙羅が現れていた。雅緋の後ろをフワリと浮かぶようについてくる。
「続き? なんだっけ?」
矢塚が振り返りながら言う。
「恍けるな。我をバカにする気か」
「まさか、そんな恐ろしいことはしないさ。すでにここは矢塚の土地じゃあない。キミがその気になればボクなんて一撃だろうからね」
そう言いながらも、矢塚は決して沙羅を怖がっているようには見えない。
「ならば早く話せ」
「魔化の話しだったね」
「そうじゃ。魔化はどうなった?」
「消えたよ」
「消えた?」
「そうだよ。言い伝えによれば、キミが霊体となり魔化と戦いを繰り広げた。そして、魔化は消えた……とされている」
「バカな。ごまかすつもりか?」
「いいや。これは陸奥神の歴史だよ。それについて嘘をつくことはない。ボクが本当にそういうふうに伝え聞いているんだ。不思議なのは『消えた』と表現されていることだ。キミが『魔化を倒した』ではないことだ。曖昧な表現だろう。しかし、こう言い伝えられているんだ。そもそも、キミこそ戦いを繰り広げた本人だろ。キミは覚えていないのかい?」
その言葉に沙羅は渋い表情になった。
「憶えている……我は魔化と戦った。そして勝った……そう思っていた。だが、魔化を倒した直後、もともとの契約のとおり、我は封印された」
その話に瑠樺は違和感を憶えた。
「戦いの直後に封印を?」
「正確には戦う前に封印の術をかけられておった。戦いが終わってすぐに発動されるようになっておったのじゃ。そういう契約だった。霊体となった我は一族から追われる身だった。封印されなければならない身だった。だが、魔化を倒すという目的を果たした時、封印されるという契約をたてさせられたのだ。だから、戦いの後、この世界がどうなったのか、我にはわからん。しかし、魔化を葬ったと思った場所にさらに大きな魔化の妖気を感じた。あの気はいったい何だったのじゃ?」
誰もその沙羅の問いかけには答えられなかった。




