1-2
瑠樺は学校から少し離れたコーヒーショップに雅緋と共に入った
そこまでの道のり、雅緋は何も話そうとはしない。瑠樺もどう時間を埋めていいかわからなかった。
異様な緊張感が全身を包んでいる。
瑠樺がカウンターに並んで二人分の注文している間、雅緋は窓際のテーブル席に座って窓の外を眺めている。
瑠樺がレジで買ったカフェオレを持って雅緋のいるテーブルに運んだ。
「改めて自己紹介させてください」
席につくとすぐに瑠樺は話しかけた。だが――
「いえ、その必要はないわ」
あっさりと雅緋は断った。
「え?」
「二宮瑠樺さんだったわね」
「ええ、名前、憶えていてくれたんですね」
「もちろんよ。クラスメイトでしょ。それと、敬語は必要ないわ。確かに私はあなたより一つ年上だけど、今は同じ学年なんだから気を使わなくて結構よ」
そう言ってカフェオレに口をつける。
「はぁ……」
どちらかというと、タメ口で話すことのほうが気を使わなければいけないように思える。
「それで? 話っていうのは何かしら?」
雅緋は表情を変えず、しかし、少し期待がこもっているかのような眼差しで瑠樺を見つめている。
「どう説明したら……ちょっとこんな話をすると驚かれるかもしれないんですが……」
思わず敬語になりそうになる。「あ、いえ、驚かれるかもしれないけど、実は私には妖力ががあるの」
そう言って瑠樺は雅緋の表情を伺った。笑われるかもしれない、呆れられるかもしれない、変な宗教への誘いと思われるかもしれない。だが、雅緋の表情は何も変わらなかった。
それどころか――
「それで?」
「驚かない……んですか?」
「驚いてるわ。まさか正面きってそんな言葉を聞くなんてね。もう少し上手に話を持ち出すと思っていたわ。でも、そんな告白だけじゃないのでしょう?」
「え、ええ……」
その冷静な雅緋の声に、瑠樺は次の言葉を慌てて探した。「私の家は二宮と言って、この街にある八神家の一つなんです。八神家というのはこの街を古くから護っている妖力を持つ人たちの一族です」
「面白い話ね」
「面白い? 冗談だと思ってます?」
「いいえ、信じるわよ。続けて」
本心なのかどうかわからないが、少なくても雅緋は瑠樺の言葉を頭から否定することはなかった。
こうなればとことん正直に話してみるしかない。
「私もそう強いものではないですけど妖力があります。もちろん、こんなこと皆には内緒ですけど。あなたには……その……私達と同じような妖力を微かに感じるんです」
「そう」
やはり雅緋の表情はまったく変わらない。
「やっぱり驚かないんですね」
いつの間にかまた敬語に戻っていることに気づかないままに瑠樺は言った。そして、雅緋もそれについて指摘しようともしなかった。
「驚かしたいの?」
「いえ、そんなことはないんですけど。ひょっとして八神家のこと知ってたんですか?」
「噂でちょっとね」
「ひょっとして雅緋さんも八神家に何か関係している人なんですか?」
一条家には多くの陰陽師をはじめとした術士が存在している。瑠樺もその全てを知っているわけではない。雅緋がその一人だとすれば、妖力を持っていることも不思議なことではない。
だが――
「いいえ、何も関係はないわ」
雅緋は即座に、そしてキッパリと否定した。
「雅緋さんは自分の力について理解しているんですか?」
「いいえ、あなたに言われて初めて知ったことよ。驚いているわ」
決して驚いているようには見えない表情で雅緋は言った。
「でも――」
「それで、あなたは私に何をしてほしいの?」
「え?」
瑠樺は思わず聞き返した。「何をって……」
「何の目的で私に話しかけたの? え? まさか何も考えてないの?」
そう言われて愕然とした。まるで何かを目的になど考えていなかったからだ。ただ、単に自分と同じような力を持っている可能性のある雅緋の存在に気づき、仲間を求めるような思いで話しかけたのだった。
「はぁ……」
「驚いたわ」
「ごめんなさい。こんな話はあなたにとって迷惑かもしれないけど――」
「そんなことはないわ。八神家、すごく興味があるわ。よかったらもっと教えてもらえるかしら」