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7-2

「本題? ああ、キミの知りたいことか。キミが知りたいのは八神家の歴史だったっけね」

「正確には陸奥神家の歴史じゃ。我が封じられた後のな」

 腕組みをして矢塚を見下ろすように沙羅は言った。

「そうだね。せっかくだから瑠樺君にもわかるように順番に話そうか。陸奥神家の歴史について」

「待ってください。陸奥神家って?」

 瑠樺は思わず口を出した。

「今、八神家といわれる我らの前身、陸奥神六家」

「六家?」

「そうだよ。かつて、この地には妖かしの一族である陸奥神六家が存在していた。和彩、美月、詩季、呉明、六華、七尾。いや、そもそも陸奥神という呼び名も平安時代の頃であり、それ以前である沙羅君が生きていた時代には『陸奥の神守り』と呼ばれていたんだよ。そして、その全ての中心にいたのが『神の巫女』の宮家だ」

「宮家? それって一条家ですか?」

「いや違う」

「じゃあ、一条は?」

「一条家は当時、この地に存在していなかった。そして、このことこそがどんな書物にも書かれることのない重要な話なんだよ」

「どういうことなのか……」

 頭が混乱している。

「大昔の話しだからね。順を追っていかないとなかなかわかりにくいだろう。一条家はもともとこの地の者ではないんだよ。沙羅君が生きていた時代より少し後、坂上田村麻呂の蝦夷征伐によって奥州の豪族たちが西の都によって平定されるのと同時に、妖かしの一族である陸奥神六家も西の都の陰陽師たちである『西ノ宮』に抑えられることになった。妖かしだけでも戦うという選択肢はあった。だが、無駄な血を流すことは避け、西ノ宮と和を結ぶことを選択した」

「愚かな選択じゃったな」

 沙羅があざ笑うように言った。「結果、この有様じゃ。いたずらに和を結んだことにより、一条家の支配を受けることになり多くの一族が消えていった。全ては西ノ宮の策略じゃ」

 矢塚はその言葉を受け止めるかのように頷くとさらに続けた。

「そうかもしれない。しかし、陸奥神などと言われていても、それぞれの一族は決して一枚岩ではなかった。特に呉明の家は他の家々とはかなり仲が悪かったと聞いているよ。それをいつも和彩の家の者が宥めていた。違うかい?」

 沙羅は少しバツの悪い顔になり――

「……それでも今の状態を見れば、西ノ宮に従ったことが正しいとは言えんじゃろう」

「結果論でならなんとでも言える。当時、我らの先祖はそれでも悩んで答えを出した。そして、一族は考えた。和を結んだといっても、西ノ宮にとって我が一族は当然の脅威だ。特に『神の巫女』がいる宮家の血は絶やされることになるかもしれないと。それだけは避けなければならないと。そのため身代わりをたてることになった」

「身代わり?」

「今の時代と違って西ノ宮も我らのことの全てを知っていたわけではないからね。それでも『陸奥神六家』と『神の巫女』の存在だけは知られていた。そこで、陸奥神家筆頭であった和彩の家が宮家の身代わりになることに、そして、空いた席を埋めるために和彩の家に仕えていた我が矢塚の家が陸奥神六家の一つ、筆頭と謀ったわけだ」

「そんなことをしたら和彩の家の人が殺されてしまうんじゃ――」

「その可能性はあった。それでも宮家の『神の巫女』だけは守らなければいけないと考えたんだ。しかし、幸いにも宮家は命まで取られはしなかった。だが、全ての一族は一条家に仕えることとされ、宮家は二宮と呼ばれるようになった。この場合の宮家は和彩の一族、つまり、それが瑠樺クンの先祖だ」

「じゃあ本来の宮家は?」

「宮家は立場を隠し、矢塚に仕える茉莉家として身を隠すことになった。もちろん一条家がやって来てすぐにその指示によって、斑目、蓮華、そして、茉莉の家は一条に仕えることになったわけだ」

「茉莉? それじゃ穂乃果ちゃんは?」

「そうだよ。彼女こそが我ら陸奥神家が崇める『神の巫女』の末裔なんだ」

「……穂乃果ちゃんが『神の巫女』。そんな……誰もそんなこと――」

「教えてくれなかった? 当然さ。このことを知っているのは一族の中でもほんの一部の者たちだけだ。茉莉穂乃果自身、まだこのことは知らない」

「一部の? 一条の家の人は?」

「教えるはずがないじゃないか。何よりも隠さなければいけないのは西ノ宮であり、一条の家に対してなんだからね」

「どうして?」

「さっきも言っただろ。一条は陸奥神を従えさせるために西ノ宮から遣わされた一族だ。そして、一条は今でも西ノ宮の者で、我ら陸奥神家の一族を見張るために存在しているからだ。八神なんていうのはね、一条が一条のために作った偽りの形なんだ」

「本当は陸奥神六家」

「沙羅君はその一つ呉明の一族の者だ」

「呉明?」

「呉明という名も実際、我には似合わぬがな。我の祖先はもともとこの地の者じゃない。元は九怨というのが我らの名じゃ」

「九怨? そうなのかい?」

「何じゃ? 知らんのか? 我が父が呉明の婿に入ったのじゃ」

「でも、沙羅さんはどうしてこんなことに?」

 沙羅は答えにくそうに視線をそらした。代わりに答えたのは矢塚だった。

「禁術によって肉体を捨てた……んだよね?」

「禁術?」

「肉体を捨て霊体になる術だよ」

「何のために?」

「肉体を捨て霊体になれば、それは肉体的な痛みや死を乗り越え不死身とも言える。さらに霊体となることによって妖力は何倍にも大きくなる。結果、強大な敵を相手に戦うことが出来るということだ。だが、それは呉明の一族にとって禁術とされていた。よって、その戦いの後、封印されたんだ。それが時を経て今の時代になってなぜか封印が解かれ、彼女のなかに復活した」

「契約じゃ」

 ムスッとした顔で沙羅が言う。

「どうしてあなたが音無さんに? 雅緋さんはどうしてあなたと契約を?」

「それについて話す必要はないわ」

 今まで黙っていた雅緋がふいに口を開いた。「それは私の問題。あなたに話すつもりはないし、あなたがそれを知っても何の意味もないでしょう」

「それはそうですけど……それじゃ、やっぱり雅緋さんは初めから八神家のことを知っていたんですね」

「そうね。でも、私が知っていたのは沙羅から聞いた昔の八神家、つまり陸奥神の時代のことよ。今の八神家のことを知る必要があったのよ。そして、何よりも『魔化』のことをね」

 それは瑠樺にとって初めて聞く言葉だった。

「キミが知りたいのは魔化のことなのかい?」と矢塚。

「当然じゃ」

 と今度は沙羅が答える。「我は魔化を倒すために禁忌を犯してまでこの姿となったのじゃからな」

「魔化って何なのですか? 妖夢の同種のもの?」

「いやいや、魔化は妖夢とは比較にならないくらい大きな存在だよ。と言っても、ボクだって実際に魔化を見たことはない。かつて、それがハッキリと存在していたと言われるのは数回しかない。そして、それは沙羅クンが生きた時代が最後なんだ」

「最後? つまり我が封印された後、現れておらぬということか?」

「そういうことだ。キミが倒した魔化こそが伝えられている最後の魔化だ」

「しかし、我は感じたぞ。封印される直前、我は改な魔化の存在を感じ取った。あれがそんな簡単に消えるはずがない」

「さて、そう言われてもね。キミはその時のことを直に知っているのだろうが、ボクは言い伝えを聞いているだけだからね」

「そんな……バカな。墓守、お主、何か隠しているのではないだろうな」

「いいや、信じるかどうかはキミ次第だけどね」

 少し挑戦的な口調で矢塚は言った。

「沙羅、止めましょう」

 雅緋が沙羅を止める。「これ以上話したところで意味はないわ」

 小さく舌打ちをして、沙羅の姿がスッと消えていく。

「信じてもらえて助かったよ」

「いいえ、信じたのとは違うわ。嘘も本当もここで言い争っても答えは出ないわ。そんな無駄な時間を過ごしたくないだけ」

「なるほど、合理的だね。さあ、そろそろ我々もここを出ようか。続きは歩きながら話そう」

「続きって――」

「キミも行くんだろう?」

 矢塚は当たり前のように言った。

「どうして私が? もう魔化については聞いたわ」

「彼女が戦った魔化がどうなったのかは知りたいんじゃないかい?」

「沙羅が倒したんじゃないの?」

「その点について話しておいたほうがいいことがあるんだよ。妖鬼のことだって、キミも興味があるんじゃないかと思ってね。なんといってもキミがたてた作戦なんだから」

 一瞬、雅緋は不満そうに矢塚を睨み――

「言っておくけど、私は手を出しませんから」そう言って立ち上がった。


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