7-1 傀儡使い
7.傀儡使い
傀儡師、そう矢塚は言った。
「呉明の家?」
その名は瑠樺も聞いたことがあった。今は失われた八神家の一つだ。
「そうだよ。キミと同じように一族の一つ呉明の家の一族だよ。『傀儡師』、または『人形使い』とも呼ばれていた」
「人形?」
「術士自らが戦うのではなく、人形や死人を操り妖気を注ぎ戦わせる。ちなみに以前、ここにやってきた雅緋君は本人じゃない。雅緋君の操る人形だったんだ。その人形に幻術を纏わせ相手を騙す」
「本当ですか?」
瑠樺は驚いて声をあげた。以前、瑠樺が雅緋に対して持った違和感、あれはそういうことだったのだ。
「人形を人の姿に仕立て、自らはそれを遠隔操作する。今は失われた呪われた力の一つだ」
「呪われたか……長い時を経てもそう言われるか」
巫女姿の少女は剣のある目で矢塚を見た。
「呉明の家は我らの中でも特殊なものだからね。確か呉明沙羅は禁術を使ったことで一族を追放されたんじゃなかったかな?」
「嫌な物言いをするものだな」
不快そうな表情で沙羅が言う。
「ああ、追放だけじゃなく封印も……だったかな。どうしてそんなキミがここに存在しているんだい?」
「我は霊体じゃ。霊体だから死ぬことはない」
「でも、霊体だからといって現世に永久にい続けられるわけじゃないはずよ。どうやって今の時代まで生き残っていたの?」
思わず瑠樺が口を出した。
「そのとおりじゃ。だが、人から人へ霊体となって移り変わることが出来れば生き続けることは出来る。死んだ我が『生き続ける』というのもおかしな話だがな」
「キミの場合は少し違うだろう?」
「そうじゃな。我は封印された存在じゃ。封印された者はそのままの姿で時を過ごすこととなる」
「封印ってどうやって?」
瑠樺が問いかけると、沙羅はジロリと矢塚のほうを睨んだ。
「それについてはその墓守のほうがよく知っているのではないか?」
「そう詳しいことまで知っちゃいないよ。なんせ昔々の話だからね。話も術も時間と共に廃れていくものだ」
「廃れたじゃと?」
「すでに呉明の一族は八神家からは消えた存在だ」
「それでもそういうものを記録するのが主ら矢塚の者の役目ではないのか?」
「もちろん、話には聞いているよ」
「どう聞いておる?」
「矢塚の土地のなかにはさまざまな墓がある。多くのものは命を亡くした一族のものだが、中には違う意味を持ったものもある。つまり、その墓の一つにキミは封印されていた」
「そうじゃ」
「その封印をこの子が破ったというわけだね」
「そういうわけじゃ」
「どうして雅緋さんが?」
「さあね。ただ、封印も時間とともに力を失う。長い時間の中、封印の力が弱まっていたのかもしれないね。本来、ボクが気づいてなんとかしなきゃいけなかったのかもしれないけど。そういう意味ではボクの怠慢ということになるのかなぁ。キミはどう思う?」
矢塚はそう言って沙羅のほうを見た。
「知らん」
沙羅は不快そうに顔をそむけた。
「冷たいなぁ。どんなに封印が弱まっていたとしても、キミにその気がなければ目覚めることはなかっただろう。つまり霊体として眠っていたキミは封印が弱まっていたところに彼女が現れたのをいいことに、彼女の体を傀儡として利用しようとしたわけだろう」
「我はただ契約をしただけだ。傀儡にはしておらん」
その言葉が瑠樺には引っかかった。
「傀儡? 人形使い? じゃあ、雅緋さんは――」
「私が何?」
雅緋がぱっと目を開く。
「え? 話せるの?」
「話せるわよ。当たり前でしょう」
「そ、そう……」
「何よ、私がこの子に操られているただの人形だとでも思ったのかしら?」
「あ、いえ……まあ……」
まったくそのとおりだった。
『傀儡』
その言葉を聞いて、まるで雅緋が沙羅の操り人形になっているのかと思ったのだ。
「もう我のことはいいだろう。本題に入ろうではないか」
待ちきれないという表情で沙羅が言った。




