5-5
夜、瑠樺は一条家にいる斑目のもとを訪ねていた。
一条家はどこかいつもよりも慌ただしく感じられる。いつもと違って門はピタリと閉じられ、瑠樺が訪ねてもすぐに入れてもらえない。それでも屋敷の中で人が忙しく動き回っているのが伝わってくる。
こんなことは初めてのことだ。
門の前で待っていると、10分ほどして潜戸が開いて斑目が現れた。
「何の用だ?」
「何かあったんですか?」
「どうもしない。それより何の用かね?」
苦虫を噛み潰したような表情で斑目は言った。
「雅緋さんが危険認定されたと聞きました。本当ですか?」
その言葉にも斑目の表情は変わらなかった。
「そのことならば本当だ。今後、音無雅緋と関わらないようにしなさい」
「どうしてですか? どうして雅緋さんが危険認定を受けなければいけないんですか?」
「春影さまのご判断だ」
「そんな……ちゃんと理由を答えてください」
斑目は面倒くさそうに大きくため息をついてから――
「先日、六角周防と音無雅緋が果たし合いをしたのを知っているな。確かお前は立ち会ったのだったな。その結果、音無雅緋の力は危険だと春影さまが判断された」
「そんな……雅緋さんのことは私に任せてもらえていたんじゃないんですか?」
「自惚れるな。お前のような未熟な者に任せるはずがなかろう。全ては春影さまが判断したのだ。もう変えることは出来ん。音無雅緋は排除する。今後はおまえも協力しなさい」
「お断りします」
瑠樺はすぐに答えた。さすがにその答えには斑目も驚いたようだ。眉が上がり、ギョロリとした目で瑠樺を睨む。
「何を言っている?」
「雅緋さんは私の友人です。雅緋さんの危険認定を解除してください」
「二宮瑠樺、おまえは自分の立場をわかって言っているのか? かつて二宮は八神家の一つではあった。だが、今のおまえは一条家に仕える一術者の立場なのだぞ」
「それはわかっています」
「ならば――」
「雅緋さんは私を妖夢から護ってくれました。私は雅緋さんを信じます」
斑目はしばらく黙って瑠樺を睨んでいたが――
「そうか。その言葉、わしは聞かなかったことにしておく」
「斑目さん――」
「帰りなさい」
そう言って瑠樺に背を向けると潜戸をくぐった。
すぐに潜戸は閉じられ、瑠樺は閉ざされた門を見つめた。
いったい何が起こっているのだろう。そっと潜戸に手をかけてみるが、もちろん開けることは出来ない。
「おまえ、一条を敵にするつもりか?」
その声に振り返ると、そこに六角周防の姿があった。
「あなたが斑目さんに話したの? 雅緋さんを恨んで?」
「バカ言うな。そんなことするはずないだろ。あいつにあんな負け方をして誰かに言いふらすようなことするもんか」
「そもそも雅緋さんがあなたと戦ったのは、あなたが一方的に戦いを挑んだからでしょ」
「わかっている。けど、あれは俺の意思じゃない」
「何を言ってるの?」
「文鳩がきたんだ。音無雅緋をこの地から排除しろと」
「それって誰からの?」
「俺は春影さまからのものだと思ったんだ。でも違っていたかもしれない。さっき、斑目さんから叱られたからな」
先日、喜多村に届いた文鳩のことを思い出す。
「斑目さん、あなたと雅緋さんとのこと知っていたの?」
「ああ」
「どうして?」
「さあな。でも、そう驚くようなことでもない。斑目さんには常世鴉という目や耳がある。春影さまは式神を使えばさまざまな情報を収集することが出来る。俺が報告なんてしなくても、あの人達はそのくらいのこと知っているさ」
「私、そういうの好きじゃない」
「好き嫌いの問題じゃない。俺たちは八神家に仕えている」
「私、そういうのも嫌い」
そう言って瑠樺は歩き出した。
「気をつけろよ。斑目さんだって何を考えているのかわかったもんじゃない。俺たちが生きているのはそういう世界なんだ」
背後から周防の声が聞こえた。
何か得体のしれない悔しさを胸に瑠樺は歩き続けた。




