5-2
周防が選んだのは、10分ほど歩いた河原だった。
河原に人影がないことを確認すると、周防は振り返った。
「ここでいいな」
「いいわよ」
周防に続いて瑠樺たちも河原におりていく。
雅緋は周囲を見回すと落ちていた1メートルくらいの細い木の枝を手にした。周防が持つ六角棒とはまるで比べ物にならない。子供でもその気になれば真っ二つに出来る程度のものだ。
「これでいいわ。さあ、始めましょう」
「冗談のつもりか?」
周防は明らかに不満そうな顔をした。
「あなた相手に冗談を言う時間ももったいないわ」
「そんなもので俺と戦うっていうのか」
周防は怒りを隠すことなく眉をつりあげた。だが、そんな周防のことなど雅緋は一向に介そうとしない。
「あなた相手ならこれで十分よ。それともコレが怖い? 素手がいい?」
「ナメルな!」
周防が六角棒を振り回し雅緋に突っ込んでいく。その六角棒は周防の妖気によって武装されている。
雅緋の動きは軽快だった。
周防の攻撃を最低限の動きでギリギリのところで躱していく。そして、そのスキをついては枝で周防を打つ。
以前、雅緋が武道を習っていたと話していたことを思い出した。確かに雅緋の動きには無駄がない。まるで踊るかのような軽い脚さばきで周防を翻弄している。あの時は冗談半分で言っていたのかと思ったが、こうして見ているとその武道の経験が雅緋の強さの基本になっているのは間違いないのかもしれない。
それでも周防は果敢だった。六角棒だけでなく、その体にも妖気をまとわせているため枝で打たれていてもまったく平然と打ちかかっていく。
長期戦になることを瑠樺は予想した。だが、その予想はものの見事にハズレることになった。
5分もしないうちにその攻防に変化が現れた。
雅緋によって打たれるたびに、周防の体から武装していた妖気が弾け飛んでいく。まるでその鎧が一枚ずつ剥がされていくようだ。
最初は平然としていた周防も、打ち続けられるうちに次第にその表情が歪むようになっていた。
その二人の姿を見つめ、瑠樺は気づいたことがあった。
雅緋からはまるで妖気を感じない。つまり妖力をほとんど使っていないということだ。それにも関わらず、周防の攻撃をまるで寄せ付けない。
みるみるうちに周防の息があがっていく。
自分自身、覚醒してわかったのだが、術者がこれだけの動きで息が切れることはありえない。つまり、それだけ雅緋の攻撃によって周防の体力が奪われているということだろう。
そして、戦いが始まって10分後、勝敗は決したように見えた。
既に周防の体からは力が失われている。
戦う力が残っていないことは一目瞭然だった。
最後に雅緋の振るった枝がピシャリと周防の膝を打ち、周防は思わずガクリと膝をつく。
「さ、もういいでしょう」
雅緋は周防を見下ろし、冷たく言い放つ。
「ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう」
立ち上がることも出来ず、周防は悔しそうに拳で自らの膝を打った。
その時――
その周防の口から黒い煙が吐き出された。




