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昨夜のアレはなんだったのだろう。
瑠樺は授業が終わるとすぐに矢塚の屋敷に向かった。矢塚に昨夜の妖かしの影について教えてもらいたかったからだ。
話が終わると――
「キミもアレに気づけるほどの力がついてきたということかな」
矢塚はまるで喜んでいるようにみえた。
「矢塚さんはアレが何なのかを知っているんですね」
「もちろん知っているよ」
「教えてください。アレは何なんですか?」
「まず最初に教えておくけど、アレは害あるものではないよ。もし、害あるものだとしたらさすがに一条の者たちも放ってはおかないだろう」
矢塚は昨夜の雅緋と同じことを言った。
「一条の人たちも知っているということなんですね?」
「知っているよ。存在だけはね」
「存在だけ?」
「存在は知っている。けれど正体は知らない。一条家では何百年もの間、あれが何なんのかを調査してきた。だが、未だに解明は出来ていない。だからボクも正式には知らないということになっている。キミもそのつもりでいてくれ」
矢塚はわざとらしく含みのある言い方をした。
「どうしてですか?」
「大人の事情ってやつさ」
「同じ八神家なのに?」
「同じではないよ。八神家でも一条とボクとでは違う」
先日の矢塚の話を思い出していた。
陰陽師である一条家、そして、妖かしの血を継ぐ他の一族。根本が違っているのだ。しかも、自分の家も含め、なぜ他の家々が八神家から消えていったのか、なぜ一条家だけが大きくなってきたのか、そういうことを自分は何も知らないのだ。
「アレは何なんですか?」
「そうだね。あれを知っておくことはキミにとっても意味のあることだ。だが、せっかくの機会だから答えは自分で見つけるといいんじゃないかな。ただし、目立たないようにね」
「せっかくって――」
「アレはね、妖かしの血をひくボクたちの一族にとってすごく大切なものなんだよ。命の全てといってもいいくらいだ」
「命……」
「だから、アレらには手出しする必要はない。逆に手出しをしてはいけないものだよ」
「雅緋さんにもそう言われました」
「雅緋君?」
矢塚は少し驚いたような表情になった。
「はい、昨夜、妖かしを追っていて会いました」
「ふぅん、彼女、何か言ってたかい?」
「雅緋さんはアレを妖かしのあるべき姿って言ってました」
「あるべき姿……か。雅緋君がそんなことを? 他には何か言っていたかい?」
「一週間後に妖かしを追えばわかるて言われました」
「そこまで知っているのかい。まったく不思議な子だね。いったいどこまで知っているのかね」
矢塚は少し考え込むように腕を組んだ。だが、それもまた瑠樺の目にはどこかわざとらしく映るのだった。




