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4-3

 ベッドに寝転び、矢塚に言われたことを思い出していた。

――キミが一条に仕えることは辰巳さんの意思ってことになるのかい?

 自分はただ父の背中を追いかけてきただけだ。

 それは今も変わっていない。ただ、亡き父の姿を探してこうしているだけだ。

――彼ら『陰陽師』にとって、ボクたち『妖かし』は式神と何ら変わりがないんだよ。

 何の覚悟も持っていなかった。自分が人間とは違うものだという認識も持っていなかった。

(このままじゃいけないんだよね)

 そっと目を閉じる。

 いつも矢塚の道場でやっている稽古の時のように周囲の気を静かに測る。

 その時――

 瑠樺はハッとして起き上がった。

 今、異様な妖気を感じた。

 どこだろう。

 この街のどこかに不思議な気が動いている。

 瑠樺は立ち上がると窓際に立って暗く染まった町を眺めた。

(やっぱり――)

 何か不思議な妖気が街を動いている。

 一瞬、妖夢のことを思い出したが、それがそれとは違うことは間違いなかった。そして、妖夢が現れた時のものとはまるで違うどこか暖かみを感じるものだった。

 今のは違うものだ。

 瑠樺は部屋を出た。

 妖夢に襲われた日以来、夜中に出歩くことは避けていたが、今はそんなことを考えている場合じゃない。この気がどういうものなのか知りたい気持ちが瑠樺を後押ししていた。


*  *   *


 部屋を出てすぐに一つの妖気を見つけることが出来た。

 だが、それはさっき感じたものとは違っている。

 包み込むような暖かみのあるものではなく、寂しく何かを訴えるような小さな気。

 林の奥に黒い気が感じられた。

 その妖気を放つものはすぐに見つけることが出来た。

 黒い気の塊がフラフラと動いている。

 人の目では見ることが出来ない存在。

(あれは……)

 妖かしだ。

 だが、瑠樺がこれまで見てきたものとは少し様子が違っていた。

 この一年の間、妖かしを見る機会は何度かあった。だが、それらは皆、異形の姿はしていても獣のような生きた存在感があった。

 今、目の前にいる妖かしからは妖気は感じてもどこか意識を持った生きた存在感がない。

 すでに形すらまともに留めていないただの妖気の塊、いや、妖かしの影と言ってもいい。

 どこへ向かうともなく、ただ何かを求めるように何かにひかれるかのように歩みを進めている。

 すぐに人に対して害を成すものとは思えない。だが、このまま放っておいていいのだろうか。もし、見逃してしまって誰かが傷つくことがあったりしたら――

 瑠樺はポケットから呪符を取り出した。

 それは妖かしの動きを止める力を持ったものだ。今はとりあえずこれで対処をしておき、誰かに相談したほうがいいだろう。

 瑠樺は手にした呪符に気を送る。

 その手首を突然背後から掴まれた。

「止めなさい」

 振り返るとそこに雅緋の姿があった。

「雅緋さん?」

「いきなりそんなもので攻撃するなんて物騒ね」

 雅緋は瑠樺の握っている呪符を見て言った。「大人しい顔して結構好戦的な人だったのね」

「戦いたいわけじゃありません。とりあえず動きを止めようと思っただけです」

「それだって攻撃の一つよ」

「そうかもしれませんけど……でも、アレは――」

「妖かしよ。でも、アレを倒す必要はないわ。アレが人に害をなすことはないから大丈夫よ」

「どうしてそんなことが言えるんですか?」

「あっちを見て」

 雅緋はそう言って妖かしがいるのとは少し違う方向を指さした。暗闇のなかに確かに誰かの気配が感じられる。

(術者?)

 それは一条の術者だった。

 栢野が率いている九頭竜と呼ばれる陰陽師だ。暗闇に潜み、その気を抑えながら妖かしの様子を伺っている。

「彼らだってただ見張っているだけよ」

「あれはいったい?」

「アレはね、妖かしのあるべき姿」

「あるべき姿?」

 雅緋の言っている意味がわからなかった。「雅緋さんは知っているんですか?」

「一週間後の満月の日、もう一度妖かしの姿を追いなさい。そうすればわかるわ。一条の術者には見つからないようにね」


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