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絵の中の花火

作者: バ凛カン


「ねえねえ、おじいちゃんはどうして絵を描いてるの?」


少女は目をきらきらと輝かせてそう聞いた。


「そうだなぁ、好きだったからかな」


「絵を描くのが?」


「うーん、いや──


これは昔の話、ある日一人の少年が道を歩いていた。学校からの帰り道である。少年は帰り道に毎日向かうところがある。それは少年の隣の家、そして好きな女の子の居る家だ。その子の家の前に着き、少年は扉をたたいた。


「ふぅちゃん、来たよ、今帰ったぞー」


少年がそうしてからしばらくすると一人の女の子が扉をそっと開けて出てきた。


「秋くん、いつもありがとう、わざわざ来てくれて」


そう言った少女は髪はきれいな黒髪で長く、肌は驚くほど白く、笑った顔はこの世の誰よりも思いやりのこもっている、そんな少女だった。


「何を言ってるんだ今さら、家も隣じゃないか」


「うん、そうだね、でもありがとう。ほらほら中に入って」


少年と少女は家の中に入っていった。

少年はいつものように話し出す。


「今日はすごいことがあったんだぜ! 山田がついに立川さんに告白したんだ!」


「わぁーそうなの! それで、どうなったの?」と言いながら少女は筆をとり、絵をかき出す。


「そうだなぁ、なんか良い感じだったよ」

──しばらくして少女が「はいっ、できた!」と自身の描いた絵を少年に渡した。


「相変わらずうまいね」


それは坊主の男の子が眼鏡の女の子に手を伸ばして頭を下げている絵だった。


「ずっと絵を描いてるからね、私は外に出られないから」少女は少し悲しそうに、しかし笑いながらそう言った。「だから秋くんがみんなの話をしてくれてすごくうれしい」


そう、普通ならば学校にいっているはずの少女が家に居る理由、それは少女は体が弱く、長く外に出ていられないからだ。だからこそ少年は毎日少女の家をたずね、外での話をする。もちろん少女のことが好きという理由もあるが、それだけではない。


「こんなことで良いならこれからもずっと、毎日話にくるよ」


「うん、ありがとう」


少女は笑う。


「あっ、そうだ! 今日秋くんが来る前描いてた絵がねっ......」


──少女の家から帰った後、少年は自分の部屋で悩んでいた。話を聞かせてくれるだけで良いとふぅちゃんは言っていたが、本当にこのままで良いのだろうか、少年は外の世界を自分の目でみてほしいと思っていた。それがとても難しいことだと知っていても、やはりそう思わずにはいられなかった。最近少女の調子が悪そうなのも気になっている。少年は悩みに悩み、一つの結論にたどり着いていた。


数日後、少女の家


「ふぅちゃん、何か欲しいものある? 見たいものとか 」


少年は結果、自分に出来ることを、出来るだけしようと考えついた。


「うーん、そうだなぁ、秋くんが来てくれるだけで良いんだけど」


「それだけじゃなくてさ」


「そこまで言ってくれるなら……花火が……みたいかな」


花火か…昔、少年と少女がまだ幼かった頃、親に連れられて一緒に花火を見たことがある。


「それって、花火大会のこと?」


「そう、花火大会、すぐそこの御崎川でやってた」


「でもそれってもう──」


「なくなっちゃってるね」


そうなのだ、あの幼い日にみた花火はその年からもうみれなくなってしまっていた。花火大会の終了という形で。


「ごめんね、わがまま言って」


「いや、こっちこそごめんな…今日はもう帰るね」


少年は泣きたくなる気持ちを抑えて、悲しい雰囲気に包まれた部屋を出た。少年は自分の家にに入るとまた悩んでいた。


「さっきは謝ってしまったけど、何かできることはないかな」


花火大会を見たいと自分の気持ちを言ってくれたあの子に対して、好きな女の子に対して花火大会は無理でも何かできることはないかと、自分にできることをできるだけやろうと決めてしまっていたのだから。少年はもうその日から行動を開始していた。何が自分にできるのかはわからない。だから一生懸命周りの大人に話してまわった。先生にも相談した。しかしやはり十代の若者の話など誰も相手にはしてくれなかった。


自分の無力を思い知った少年はせめてもと思い、手持ち花火を手に扉をたたいた。


「ふぅちゃーん、花火買ってきたよ、一緒にやろうぜ」


──しばらくすると扉が開いた。そこにいたのはふぅちゃん──ではなかった。


「あら秋くん、いつもありがとう」


出てきたのは少女の母だ。


「あっいえ、あの、ふぅちゃんは?」


「あの子はちょっと、体調が良くなくてねぇ」


「そんな…昨日は普通にっ…」


「そうなんだけど、今日の朝から急に」


確かに最近調子の悪そうな素振りははあった。でも気のせいだとおもった、いや、気のせいだとおもいたかったのかもしれない、彼女はきっと心配を掛けないように無理をしていたのだ。そうに違いない。少年は自分に対しての怒りと後悔で押し潰されそうになりながら


「じゃあ今日は帰りますね」


と言い、隣の自分の家へと足を向けた。すると


「ちょっと待って秋くん、上がっていきなさい」


と少女の母が呼び止めた。


「でも、ふぅちゃんが」


「あの子秋くんが来るとすごい喜ぶから顔見せていって、お願い」


「はい、わかりました」


部屋に入ると少女が弱々しく笑っていた。


「だめじゃないか、寝てないと」


そう言いながら少年は少女の身体を横にさせ、布団をかけた。


「もうっ、そんなに心配しなくていいのに、秋くんが来て元気でたし」


少し頬を膨らませながら話す彼女が少年にはとても美しく、絶対に守らなければならないもののようにみえた。


「心配くらいかけさせてくれよ、他に何もできないんだからさ」


「そんなことないよ、秋くんはいつも私に言葉で言い表せないくらい素敵なものをくれるんだから」


少女はいつもの優しい笑顔でそう答える。

絶対に失いたくない─少年はまたそう思った。


「ところで秋くん、その袋はなに?」


少年が持ってきた袋を指さして言う。


「ああ、手持ち花火だよ、今日やろうと思ったんだけど、できなくなっちゃったな」


少年は花火を一緒にできないことを悲しく思ったが、今笑って話してくれているのならそれで良いと感じていた。しかし少女は目を見開いてこう言う


「花火!? やりたいっ! いや、絶対やるっ! 」


少年は困ってしまった。一度こうなると絶対曲げないのを少年は知っている。それに元々花火を見たいと言ったのは少女だ。花火大会の花火でないとしても見せてやりたい、やらせてあげたいという気持ちもあった。


「でもお前、体、辛いんだろ?」


「もう大丈夫! 花火見ないと逆にだめかもっ! 」


「なんだよそれ」


少年は頭を抱えて考えた。


「あーもうわかったよ、ちょっと聞いてくるな」


少年はすっと立ち上がると部屋をでた。


結論からいうと許可がでた。そういうことならと少女の母がちょっとだけよと許してくれたのだ。だから今、少年は花火に火をつけて輝かせながら部屋の中にいる少女に見せている。そして少女はその様子を絵に描きながら見守っている。一つ、また一つと花火が輝きをみせながら、そうして減っていく、最後に残ったのは線香花火だ。


「ふぅちゃん、これならできるんじゃないか、ほらそこに座ったままでもさ」


「そうだね、できそう」


少女は少年から花火を受けとると火をつけた。

「私、線香花火が一番好きかも」


「そうか? 少し地味じゃないか?」


「確かに他のに比べたら地味かも、でもね最初は小さかった光が段々大きくなって、そして最後に大きな光をパチパチさせて、役目を終えたかのようにぽとりと落ちる、それがなんかとてもきれいだなって、私もこんな風に短い間だけでも輝けたらなって」


そう言った彼女の横顔が今手に持つ線香花火より、先ほどまで輝いていた花火より、また、幼い頃みたあの花火大会の花火と同じくらい、いや、あの花火よりも輝いていて美しい─と心の底から少年は思った。


「そんなお前、すぐいなくなっちゃうみたいに言うなよ」


少女は何も言わなかった。少年もそれ以上何も言えなかった。


花火も終わり玄関の前、少年は帰ろうとしていた。それを少女は見送っている。少年は少女の体を想って止めたがどうしてもと聞かなかった。


「今日はありがとうね」


「いや、小さい花火で悪かったな、大きな花火も見たいだろ?」


「ううん、すごい楽しかったよ、ほんとにほんとうに楽しかった。確かに秋くんと二人でまたあの大きな花火も見てみたいって気持ちはあるけどね、でもこれで十分…もう…満足だよ」


「楽しかったならよかっ──

そう言いかけた時、少年は少女の顔を見た。月の光に照らされて、息をのむほど白く美しい、優しく笑ったその顔を、その瞬間少年は小さな焦りを感じた。いや、元から感じていたのかもしれない。それをただ気づかないように、気づかないようにとしていただけなのかもしれない、ただ確実にその焦りは大きくなっていく、その焦燥の中、少年は少女の話を思い出していた。線香花火の話。少女は線香花火のように輝きたいと言っていた。そして彼女の、目を背けんばかりの輝きを放つ顔を──その瞬間少年の焦りは途方もなく大きく抑えられないものになっていた。──もし本当に彼女が線香花火のようになりたいとおもい、もし本当にあの横顔が線香花火のように少女の最後の輝きなのだとしたら──そんなことを考えた時、絶対このまま帰ってはいけない、一人にしてはいけない、そんな気がした。何かしなきゃ、何か言わなければ、と必死に頭を動かした時、もうすでに少年の口は動き始めていた。


「あのさっ俺っ」


「どうしたの? 秋くん」


少女は少年の顔を不思議そうに覗きこむ。


「俺はっ、お前が、ふぅちゃんのことが──」もう少年の口は止まらない、止められない「──好きなんだ、ずっと…ずっと前から」


少年は遂にその言葉を口にしていた。今日のこの日まで言ってこなかったその言葉を、今まで言ってこなかっただけというのはすでにわかっている。少年は少女が好きで、少女は少年が好きで、そんなことは二人とも理解していた。少年と少女はまるでその場に二人以外何も無いかのように互いに、互いだけをみつめていた。


「だから、ずっと一緒にいてくれ、絶対にどこにも行かないでほしい」


少年の想いを聞いた少女は少し驚きながらも何かを察し、そして何か覚悟したかのような表情で答えた。


「うん、ありがとう──」少女は続ける。「──でもね、ずっと一緒にはいられないよ、だって私は──」


そう言いかけて、少女は下を向いた。涙が止まらないのだ。涙を少年に見せたくないのだ。きっと少年の心を苦しめてしまうから。そして今にも声をあげて泣き叫びたい気持ちをぐっとこらえ、逃げるように自身の部屋に戻っていった。少年は引きとめられなかった。少女が泣いているのに気づいていたから、自身の視界も涙で何も見えなかったから。


数日後、少年は学校で椅子に座っていた。あれから少女とは普通に話している。告白したその日の翌日、少女の家にいったのだが、少女は何もなかったかのようにけろっとしていた。だから少年もいつも通り話している。学校ではクラス中が他愛もない話で盛り上がっていた。次の休みどうしようとか、誰々がかっこいいとか、そんな話を聞きながら、ぼーっとしていた時、大したことのない話の中から耳を疑う言葉がはいってきた。


「花火大会またやるらしいぜ」


「まじで! いつ? 誰から聞いたの?」


「なんかもうちょっとしたらだって、急にやることになったらしい」


少年はすぐにその男子に駆け寄り話を聞いた。どうやら本当らしい。少年は奇跡だとおもった。ずっと自分の体と向き合い、がんばってきた少女への神様がくれたご褒美だと。というのも花火大会が中止になっていた理由が花火大会を取り仕切っていた町のお偉いさんが体を壊しちゃって数年間できなかった。でもちょっと休んだらなぜかはわからないけど回復したし、息子も成人になったしということで今年から再開だ! ってことになったらしい。そしてどうせやるならサプライズだ! ということでギリギリまで町のみんなには知らせてこなかったというのだ。少年はこの奇跡を、神様がくれたご褒美を

すぐさま少女に知らせにいった。


「ふぅちゃん! 花火大会やるって! 再開するんだって! 一緒にみれるよ!」


「ほんと? 秋くん? 本当ならすごい楽しみ」


「本当だよ本当! 今日学校で聞いたんだ」


少年は少女の手を握りながら、少女は少年に手を握られて布団に横になりながら喜んでいた。


「ここで一緒に二人でみようぜ!」


「うん、二人でみようね」


それからの数日間、少年はとても花火大会を楽しみにしながら過ごしていた。毎日少女の家にいき、色々な話をする。そんな日々を過ごした。ただその嬉しさのあまり忘れていたのかもしれない、あの日見た少女の横顔をそしてその後の、優しく儚い笑顔を──

花火の当日、約束の時間に少女の家の前に少年は居た。


「ふぅちゃん、来たよ」


反応がない、いや、なんだか家の中が騒がしい。少し嫌な予感がしたと同時に扉が勢いよく開いた。


「ふぅちゃ──」


「秋くん!? 良かった、来てくれたのね!」


出てきたのは少女の母だった。それにとても焦っている。


「どうしたんですか? もしかして──」


少年が言いきる前に少女の母が答えた。


「あの子が急に倒れてっ…もうどうしたらいいか…とりあえず今お医者さんを呼んでて…」


視界が真っ白になった。何も考えられなくなった。ただ大好きな女の子のもとに行かなければとおもい、家の中に入った。いつもの部屋につくと少女が苦しそうに倒れている。少年は必死に話しかけた。返事は──ない。そうこうしている内に救急車が到着した。ふぅちゃんは──運ばれていった。


少年は自分の部屋で泣き崩れていた。あまりに酷すぎるこの結末に打ちひしがれていた。そんな中、少年に母から一つの報せがとどいた。どうやら手術をするらしい、とても難しい手術だそうだ、少年は少女が意識を取り戻したと聞いて少し町からは遠い病院へ向かった。


病室には一人の女の子が窓の向こうを見ながらベットに横になっていた。


「秋くん、来てくれたんだ」


少女は振り向き、体を起こす。


「当たり前だろ、体起こさなくていい、無理するな」


少年は少女を寝かす。


「花火……見れなかったね」


「そうだな」


「二人でみたかったなぁ」


「そうだな」


二人の中に沈黙が流れる。

沈黙を破ったのは少女だった。


「手術…するんだって」


「うん、聞いた」


「元から話はあったんだけどね、怖くて断ってきてた、でももう待てる段階じゃないんだって」


そんな話は初めて聞いた、と驚きながらも少年は耳を傾ける。


「すごい大変な手術らしいんだ、成功する確率のほうが低いって」


「そっか」


「もし成功したとしても後遺症が残るかもって」


少年は必死に涙を堪えた。一番泣きたいのは自分ではないから。


「私、手術がんばるよ」


それ以上少女は口を開かなかった。二人の間に静かな時間が流れた。


手術当日、もうこうして顔を合わせるのも最後になるかもしれない日、一人の男の子と一人の女の子は話す。


「いよいよだな」


「うん、そうだね」


少女は笑顔だ。


「私ね、前は手術受けようと思ってなかったんだ、秋くんに好きって言われたあの日も」


少女は続ける。


「もう十分かなっておもったんだ、秋くんがあんな風に花火をみせてくれたし、確かにそれは小さかったけどすごく、すごくきれいだった」


少年は少女から目を離さない。


「でもね、花火大会がまたやるって聞いてまた見たいとおもったんだ、小さな頃に見た花火を、私が秋くんを好きになったときに見たあの花火を」


少女は一つ一つ、言葉を繋いでいく。


「だけど倒れちゃって、秋くんが病室に来て、結局花火は見れなくて」


少女は今にも泣きそうな顔をしている。しかしとても強さを感じる、そんな表情だ。


「だから次こそは見てやろうっておもったんだ、秋くんと一緒に、二人で」


病室の中、二人は目を合わせる。


「だから私、がんばるよ」


少年と少女は互いに体を寄せあい、誰にも決して邪魔されることのない抱擁をした。


「私、秋くんが好き…ずっと、ずっと前から、だから…ずっと、一緒にいたい! 前は断っちゃったけど、もうそんなこと絶対にしない! だからね秋くんずっと一緒にいて!」


「当たり前だろ、もう離さない」


さらに強く抱きしめあう。


「でもね秋くん、もし…もしだよ? 私がもう戻って来れなかったりして絵が描けなくなったりしたら──」


「うん」


「──秋くんが代わりに絵を描いて欲しいんだ、私まだ…全然まだまだ描き足りないの、これからのこと、この世界のこと、秋くんと一緒にいたこの町のことを──だからお願いね、秋くんがこれから見ていくであろう空も、人も、そして花火も、私の代わりに描いてね」


「──わかった」


少年はその時、音を聞いた。暗闇の中で小さな光の玉が地面に落ちる、そんな音のような気がした。


──その日から、少女の絵を見ることはなくなった──最後の一枚を除いて──。


少年が少女の描いた最後の一枚を見たのは少女を手術へと見送った後だった。少女の病室をふと見渡していると、枕の下から何かはみ出しているのが見えた。取り出してみると、それは絵だった。きれいな夜空に光輝く花火とその下で手を繋ぎながら笑いあっている二人の男女、これは一人の少女が叶えたかった願い、見ることを望んだ景色。──少年は絵を──描き続けた──。



「ねえねえ、おじいちゃんはどうして絵を描いてるの?」


「そうだなぁ、好きだったからかな」


「絵を描くのが?」


「うーん、いや、見るのがだよ」


「じゃあどうして絵を描いてるの?」


「約束しちゃったのさ、大事な人と」


「大事な人? それはばあちゃんより大事な人なの?」


「ははっ、それは困ったな、比べられないよ」


「えぇーー」


少女は口を尖らせている。その時後ろから声が聞こえてきた。


「おやまあ、春ちゃん、なんの話をしてるんだい?」


「おじいちゃんの大事な人の話! ばあちゃんと比べられないくらいなんだって」


「あらあら、そうなの」


「それよりばあちゃん、お荷物持つよっ、左手だけじゃ大変でしょっ」


「まあ、春ちゃんも成長したねぇ」


「春、おじいちゃんも半分もつよ」


「大丈夫だよ!春、もう大人だもん! 」


少女は荷物を奥へと運んでいく。


「冬、いつも無理するなと言ってるだろ、もうちょっと頼ってくれ」


おじいさんは困りながらそう言う。


「ごめんなさいねぇ、でもそんなことより何の話をしてたの?」


おじいさんはまた少し困ったように


「からかわないでくれよ、わかってるんだろ? 昔の話さ」


「そうですか、大事な人ねぇ」


おばあさんは少しからかうように、しかしこの世の誰よりも思いやりのこもっているような笑顔でそう言った。

二人は話す。


「もうすぐ夏だな」


「そうねぇ」


「今年も花火を見に行くか」


「二人で?」


「ははっ、それはもう何回も行ってるだろ、今年はみんなで行こう、やっと春も大きくなって来たんだし」


「そうねぇ、そうしましょうね、秋さん」


──夏の予感を感じさせる風が木々の隙間を通り、家の中へと入っていく、そんな風に揺らされて一枚の絵がふわりと舞い落ちる、夜空の花火の下で笑う、幸せそうな家族の絵──だった。





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