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karate girl  作者: 小田 ヒロ
4/6

 とうとう…………玲司が稽古に来てしまった。お互い卒業式まであと一週間、何もかも終わって引っ越し済んでから落ち着いてくればいいのに、わざわざ新幹線でやってきた。草加せんべい土産に持って。


 匠も受験以来ようやくの登場だ。けれど匠がこれから通う私立中学は片道1時間以上かかり、道場に通う時間はなくなる。寂しいけれど今日で一旦引退だ。夏休みに顔を出すとは言ってくれるけど。玲司のいなかったこの三年、私と匠は反発しあう年頃は過ぎて、二人ぼっちの同級生として協力し励ましあってきた。寂しい。寂しい。


 玲司に今の私の実力を見せるのはキツイ。でも今日は通常稽古だからざっと20人はいる。久しぶりだしみんなに構われて私どころではないだろう。私はそう思い、いつも通りちびっこ達の柔軟や、基本の面倒を見る。小学校高学年になったら教える側にも足を突っ込むのだ。私も渚ちゃんや先輩達が大好きだったように、チビッコたちも『あやかちゃん、あやかちゃん』とひっついてきてくれてカワイイ。


 でも普段は人気絶大な彩佳ちゃんも今日はみんな見向きもしない。みんな新しいお兄ちゃんに夢中だ。颯爽と現れ、大先生と親しげに話すイケメンのお兄ちゃん。メガネは今日はしていない。コンタクトも持ってるんだ。当然黒帯。チビッコ達も猛者に囲まれて目が肥えてるからなんとなく強そうだと気づく。後は突撃ーーー!!!


 気づけば玲司は園児3人をおんぶして、走らされていた。匠はゲラゲラ笑ってる。


「おーう!玲司モテモテね。じゃ、チビッコは玲司に任せて、大会出場組は試合形式で真剣にやるよ。ストップウォッチ持ってきて。枠線作って。」

 小先生が指示を出す。


 〈組手〉組は大先生、〈形〉組は小先生の元に集まり、本場さながらに、名前を呼ばれ、コートに入るところから稽古する。


 私の番になり、視線を感じる。玲司が壁に寄りかかり腕を組んでジッと見つめてるのが目の端に入る。

 どーしよう。本番より緊張するよ!ケガさせて、玲司の代わりに優勝も出来なかった私の三年後。なんの成果も出せてない私の〈形〉を見て、玲司、やっぱり失望する?呆れられたまんま?

 やば、聡子先生睨んでる。集中集中……………

「形の名前!」

「バッサイダイ!」



 いつも通り、先生や先輩方にバンバンダメ出し食らって、フラフラになって座り込み、冷たいお茶を飲んでると匠が横に座った。


「仕上がってきてるじゃん。年末見たときより全然迫力あった。脚がいい。上がってる。」

「そうかな………でも相手もずっと上手くなってるしね。」

「俺は彩佳、アリだと思うぞ、今回。でも、なんつーか………相手をビビらせる怖さみたいのが足りない。」

 ハートかよ。技術よりムズイ。


「匠はスゴイね………受験のプレッシャー打ち勝って。」

「まあ、頑張ったから。彩佳も頑張ってる。俺達同級生3人の代表としてずっと。」

「………………」

「今回も一人だけエントリーさせてゴメン。応援行くから。」

「いいよ、今回会場遠いし、入学準備忙しいんでしょ?終わったら結果お母さんのスマホからメールするし。」

 私立は入学してからが大変だって聞いたことがある。匠には万全の準備で夢のドクターに向けて突っ走って欲しい。私は大丈夫の意味を込めてニカッと笑った。


「彩佳!」

 いつのまにか私達二人の前に玲司が立っていた、眉間にシワがよってる。やっぱり怒ってる。

「彩佳、組手も出るんだろ?」

「うん。」

 先生の方針でうちの道場は小学生のうちはダブルエントリーだ。


「俺と試合しよう。大先生、彩佳とやる。審判して。」

「うそ、待って!ダメ!」

「俺くらいの身長のやつも女子にいるだろ?」

「いるけど、でも!」

「出るからには勝ちに行くよね?」

「そうだけど!」


「彩佳、経験だ。初見の相手と思って当たれ。玲司、埼玉の道場の成果見せてみろ。」

「大先生…………」




「始め!」


 デカい、先輩達なみにデカい。デカいから足長い。思った以上に入り込んでくる蹴りを必死に〈受け〉でガードする。くそ〜歩幅が広いから懐も深い。飛び込んでもミゾオチに届かない!小さい私は脚を止めず動きまくって体ごと潜りこむしかない。玲司の上段をかわしてカウンターのタイミングが来た!今だ!私は体制を思いっきり低くして右脚を深く踏み込んだ!

「!」

 玲司の………爪先が視界に入った。私が壊した指、足首。

 脳がフリーズした。中段狙いの右腕が……前に出なかった。


「っこのバカ〜!!!」

 玲司の叫びとともに、見つめていた爪先が消えた。その途端、玲司の裏まわしがキレイに私の後頭部に炸裂した。


「彩佳ーーーー!」

 渚ちゃんの通る声を聞きながら、私は吹っ飛んでドサっと落ちた。

「玲司ーーー!反則だ!!!」

 大先生の声を遠くに聞きながら……………私は堕ちた。




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