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不老不死を得たある男の一生  作者: ヴァレー
9/25

核戦争・そして人間社会に戻れない不老不死の男

不老不死から100年後。

男、120歳。



山で過ごすようになってから40年が過ぎた。

男はすでに、人の世界からはすっかり遠のいていた。

山に来たばかりのころは、たまに市街地へ出たりしていたが、それも面倒になってくると、山小屋に引きこもるようになった。


外へ出るといっても、たまに狩りをしたり釣りをしたりするくらいのものであった。

人間社会がいまどのようになっているか、全く知らないでいた。


このような生活を数十年も続けていたので、男の価値観は以前とはかなり変わっていた。

すでに人間の社会というものに価値を見いだせなくなっており、どうでもよいことになっていた。自然との生活を適度に楽しんでいた。


さらに当時は孤独感にもさいなまれていたが、今ではすでに孤独にも慣れてしまい、もう苦痛でもなんでもなくなっていた。



しかしちょっとした事件が起きた。人類が核戦争を起こしたのである。


ある夜突然、山のずっと向こうで強烈な光が確認された。一瞬、まるで真昼のように明るくなった。

次にすさまじい爆音が辺りに響き渡った。ただ事ではないのは明らかだった。


男は知らなかったが、この戦争によってかなりの死者が出ていた。

核ミサイルが付近の市街地に落下し、爆破したとき、数十万人の死者が出た。

それも一発では終わらず、何発か落ちたようだった。きっとほかの、遠くの場所にも落ちていたに違いない。


ただよくSF映画であるような、核戦争によって人類絶滅というような悲惨な事態とは程遠く、被害はごく局所的なもので済んでいた。


戦争による日本での死者は3百万人程度に収まった。

もちろんこれでも十分すぎるほどの被害ではあるが、日本人が全員死滅するような惨事とは程遠く、実際には経済が混乱してその建て直しのほうに人々は注力していた。


すでに人間の社会と縁を切った男であったが、この事態にはひどく心を動かされた。

もう自分を知っている人間がいないとはいえ、故郷の町はまだ存在するし、昔の友人や家族たちの子や孫はそこに住んでいるのである。


男は故郷の町へ出た。町は核ミサイルの被害を受けて形が変わっていたが、まだ原型を十分に残していた。

男は郷愁に駆られた。この故郷に何かしてやりたい、助けになってやりたいと思った。


しかし町の混乱のほとんどの問題は経済的なものであり、ずっと人間社会から遠ざかっていた男が力になれることは何一つなかった。

しばらくして男は自分が何もできないことに気づき、失意の中、再び山に帰っていった。


そして男は一層、孤独感を強めていった。もう自分が人間社会に関わることはできないのだと。

核戦争を起こすなどという人類の愚行にあきれつつも、ひそかにまだ人間社会に戻りたいという思いが残っていた。だがどうしようもなかったのである。


そしてまた山の生活に戻り、時間が過ぎていった。

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