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不老不死を得たある男の一生  作者: ヴァレー
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社会から振り落とされそうになる不老不死の男

不老不死の男は、人並みの人生設計ができないことを知った。



不老不死から10年後。

男、30歳。



男の生活は不安定だった。


仕事については、何度もやめてはまた就職するということを繰り返していたため、履歴書が汚れてきており、仕事を変えるごとに就職が難しくなっていった。


30歳になってから急に就職がうまくいかなくなってきて、男は焦り始めた。求人の条件の多くが29歳を上限にしていたためでもあった。


収入も低く、安定していなかった。


もちろん男の焦りというのは、普通の人たちに比べれば小さい感情である。

男は金がなくても、食料や住居がなくても、最悪の状況になっても決して死にはしないのだ。

死なないし、寒暖や空腹の苦痛も一切感じない。

生存の恐怖に脅かされているわけではないのである。

ただ、人並みの幸せが手に入らないことについて、いら立ちと焦りを感じている、ということである。


学生時代の友人たちの多くは安定した収入を得るようになっていた。

また彼らの半数くらいはすでに結婚してしまい、そのせいで縁が遠くなってしまっていた。

未婚の友人たちと遊ぶのが楽しみだったが、それでもなんとなく孤独感が増しつつあった。


そして男は、自分が死なないことに油断し、就職活動を真面目にしなかったことや、仕事を簡単にやめてしまったことを後悔しはじめていた。


不老不死という、生物としては絶対的に優勢な状態であるにもかかわらず、むしろそのせいで油断したがために平均的な人よりも苦しい生活を余儀なくされている。


はたして不老不死というのが本当に人を幸せにするのかとさえ、疑問に思うこともあった。


しかし人間はいずれ死ぬ。友人たちもそのうち歳を取り、病気をするようになり、やがて死におびえるようになるだろう。

自分はその恐怖に震えることはないのだ。男はそう自分に言い聞かせ、納得することにした。


また男にとって、もう一つ考えるべき問題があった。結婚ができないだろうということである。

結婚というより、他人とずっと一緒に暮らしていくことは不可能だろうと考えていた。


病気などはともかく、何しろ自分は20歳から一切歳をとることがない。

そんな状態を家族が見ていたら、それこそ理解不能である。

自分が不老不死であることを家族にばらしたらどうなるか?たぶん、あまりいい結果にはならないだろう。

仮に家族がとても信頼できる人間だったとしても、それが家族以外にばれて周囲に広がる可能性も十分にある。

そのうちどこかの研究施設の研究対象になったり、監禁させられる可能性もありうる。


そのようなことを考えれば、結婚というか、誰かとずっと一緒に暮らしていくことなど到底できるはずもなかった。

もし自分と同じ、不老不死である女性がいれば一緒に暮らすこともできたかもしれないが……それはありえないことだった。


もう自分には、普通の人たちと同じ人生設計ができない。


友人たちが結婚して子供を持ったりするのを見て、自分は彼らと全く違う存在なのだという自覚が芽生えてきた。

自分は20歳から時間が止まっており、周囲から置いてけぼりにされたような感覚さえした。

いや、自分はすでに人間ではないのではないか。人間ではない、別の生物として、どう生きるべきかという新しい疑問さえ湧いてきた。


不老不死など、どんな人間、どんな生物にも前例がない。

その生き方というのは、自分が新たに模索していくしかなかった。


男の年齢は30歳。

35歳の兄は、この年結婚した。


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