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不老不死を得たある男の一生  作者: ヴァレー
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青春の絶頂・不安と恐怖からの完全な脱却

不老不死から1年後。

男、21歳。



男は大学3年生になった。

不老不死になったことは大変幸運だったと、男は確信していた。


まず非常にありがたかったのが、一切病気にかからないという点だった。

冬に大学内でインフルエンザが流行し、多くの欠席者が出たが、自分はウィルスに感染することがないため、全く平気であった。

常に体調は万全で、大学のレポートも問題なく終わらせることができた。


男の友人はインフルエンザにかかってしまったため、レポートの提出がぎりぎりになってしまい、ひどく苦労していた。

男は以降、このように病気によって学業や仕事に悩まされることは永遠にないことだろう。


しかしそれ以上にありがたかったことは、肉体が決して破損しないことだった。

少し前に男は交通事故に遭っていた。自転車で大学に通学する途中、交差点で乗用車にはねられたのである。

運転手はあわてて車を停め、男の方へ駆け寄ったが、男は全く無傷であった。

運転手はほっとして「幸運だった」と思ったのだが、もし男が不老不死でなければ死亡していたかもしれない事故であった。


全く健康に心配するところがなく、疲労を感じることもない。

勉強していても眠くはならず、アルバイトや大学のサークル活動でも全く疲れを感じなかった。


夜は寝ることもできたが、睡眠をとらなくても全く問題はなかったので、夜中は街へ遊びに出かけて浪費していた。


男は青春の絶頂を楽しんでいた。


男は考えた。友人たちはそのうち歳を取って死んでいくが、自分はずっとこのままなのだ。

死なないだけでなく、年老いることもない。老人たちのように、外見が醜くなることもなく、健康を害して病院通いすることも永遠にないだろう。


また将来の生活設計に関しても不安がない。


この世の中にはたくさんの社会的に重大な問題がある。


たとえば労働。3年生の秋ごろから就職活動が始まった。

男は友人たちが必死で就職活動をし、毎日くたくたになって帰ってくるところを見ていた。

自分もそれなりに就職活動をしていたが、そこまで必死になってすることもないと考えた。

何しろ自分は不老不死なのだ。極端な話、一切仕事をせず、山にこもって暮らすこともできるのである。

寒さに関しても平気なのだから、いざとなれば住居すら必要ない。野原で過ごしても死ぬことはなく、苦痛さえ感じない。


この世の大きな不安や恐怖というものは、根本的には生存の欲求からきているものと、男は考えた。


働かなければ生存できないので、仕方なく働かなければならない。

病気を放置すれば生存できないので、仕方なく病院に行ったり介護の世話にならなければならない。

将来お金がなければ生存できないので、派遣社員ではなく正社員へならなければならない。


就職活動で失敗し続けていた男の友人の一人が、その失意のあまり自殺した。

男はショックを受けると同時に、自分の不老不死という立場に改めて感謝した。

その友人の亡骸を見て、自分にはこのような苦しみとは生涯縁がないのだと。


介護施設や病院にいる年寄りたちを見て、自分はああならないのだと、喜んだ。

年金に怯えている派遣社員を見て、自分は怯えなくてもいいのだと、喜んだ。


不老不死は、重大な、あらゆる社会的不安からの脱却が可能であった。

そしてあらゆる不安は死から来ているのだと思った。


死さえなければ、どれほど不安に悩まされずに気楽に生きられることか。

男は一種の哲学的な悟りを得たような気持にさえなった。

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