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不老不死を得たある男の一生  作者: ヴァレー
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生物たちの進化・男の能力の衰え

不老不死から300万年後。



海中生物が陸上に出てきた。


何かというと、一部の海中生物たちが長い時間を経て自らを「進化」させ、陸上で生息できるようになったのである。


地球生物の歴史を紐解くと、最初に生物が現れたのは水中だった。

生物が生きるためには酸素が必要になるのだが、酸素が発生するためには水が必要になる。何もない陸地でいきなり発生はしない。


(逆にいえば、もし地球から水がなくなってしまえば、酸素もなくなって生物は死滅するだろう)


最初に海中に現れた生物はプランクトンのような非常に小さいな生物で、これが膨大な時間をかけて魚類に進化し、また膨大な時間をかけて体が変化・進化し、陸上に出られるようになる。

そこから両生類、爬虫類と進化し、さらに鳥類、哺乳類へと進化した。われわれ人間も、もとをたどれば魚であり、さらにさかのぼるとプランクトンのような小さな生物だった。


以前のイエローストーンの噴火で陸上生物は死滅したのだが、男が生きている時間は300万年を越したため、海中の生物が陸上動物にまで進化したのであった。

このままもっと時間をかければ、いずれ彼らも更なる進化を経て鳥類や哺乳類にまで進化するかもしれない。



男は何もせずに過ごしている時間が長かったのでしばらく気づかなかったが、この見たことのない生物たちにある程度までは興味を持ったようであった。


ある程度まで、というのは、男はこれらにそれほど強い関心は抱かなかった、ということである。


長らく生物の存在していなかった陸上で、ようやく男にも仲間らしいものができたというのに、残念ながら男が持ちうる生物としての好奇心の能力は相当に衰えていた。


これがもし、不老不死になってから1000年程度の時なら、まだ男には孤立からくる寂しさが残っており、陸上生物としての仲間を見つけたことで夢中になるだろう。


しかし男は膨大な時間の孤独に適応するため、すでに本能のみによる非常に単純な生活パターンになっていた。

ほとんど思考せず、感情は薄く、原子生物のように動いたり食ったりしているだけである。

新しいものに興味を示し、ましてそれを研究するなどという能力は残っていなかった。


もともと好奇心というのは、ある種の生物だけに与えられた特異な本能である。

人間が非常に好奇心が強いのは、生きるためにたくさん知る必要があるからだ。哺乳類でも好奇心を示す種はたくさんいるが、人間ほど好奇心の強い種はいない。

人間は最も高い知力を必要とするから、その分持ちうる好奇心が高く設定されている。


男の生活には知力はほとんど必要なかった。生きるために必死でものを調べたり研究する必要が一切ないので、知力が衰えてしまったのだった。

さらに知力だけでなく、運動能力などもかなり衰えてしまっていた。不老不死なので破壊的な衰弱はないのだが、それでも筋力の低下や骨密度などがずいぶんと減ってしまっていた。



死の危険がないために、頭も体も鍛える必要がない。



そして知力も身体能力も衰えてしまったため、その分通常の人間たちが持つ「知ることの喜び」や「スポーツの楽しみ」などは一切なくなってしまっていた。



食事の楽しみは、餓えという危険を回避しようとするために得られる。

性の楽しみは、種の絶滅という危険を回避しようとするために得られる。



危険の一切ない生活ではこういう楽しみが得られない。


男にはすでに「食う楽しみ」や「性の楽しみ」というのは一切感じないようになっていた。

そういう欲求も全く起こらなかった。

ただなんとなく、そこにいるだけであった。


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