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眩い庭で  作者: みなと
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暗がり

湊は今年41歳になった。昨年末長く勤めた大学の非常勤職員を退職し、フリーのライターとして第二の人生を歩み始めている。しかし執筆はそう簡単に進まない。自分の部屋を出て、今は亡き祖父の書斎に座っている。

あれこれと思いを巡らしているうちに、思うこと考えることが多すぎて混乱してきてしまうのであった。


それにしても空気が乾きすぎている...セミと蛙の発する音にうんざりしながら思う。暑そうだな、今日も。湊は呟く。

昨日に続き今日も気温が高く、地元の消防車が火の用心と警告の鐘を鳴らして近所を走っている。音はやけに近くで鳴ったり、遠くになったりする。


しんとした冬に比べれば、5月も終わりを迎えている今の方が断然賑やかだ。

生命の活動に大気が揺れているのが見えるようだ。

どうしても立ち止まってしまいがちな頭と、つきまとう焦燥感に疲れを感じていた。そこから逃げ出したい思いに苛まれることさえある。


暗がりに一人。座って外を眺めたり室内の壁にぼんやり視線を投げたりしている。

一昨年亡くなった祖父の書斎。座り机のところから離れないでもう一時間はたつ。

今年41歳になる独身の湊は幼い頃からよく男性に間違われることが多かった。いまだにそれは変わらない。ツーブロックにした髪の毛を今日もピシッと整えている。毎朝鏡に向かって気合を入れている。まだ午前中にもかかわらず、猫背のためか覇気のない表情をしている。


昨年の冬、大学を卒業して以来勤めていた大学病院の医局スタッフを辞めた。

理由はいろいろあるが祖父母が相次いで亡くなったのと、それに伴って寺である実家が忙しくなったためだ。元気が出ないのはそのせいだろうか、湊の悩みの一つである。


土曜の昼近く。眩しさに耐えられず視線を室内に移す。最初眩んで何も見えない。壁に目をやっていると、海松色であることが分かるようになる。海藻の暗い黄緑。美術に詳しい訳ではないが先日なぜか気になってネットで検索したのだ。

何を見るでもなくぼんやりとしていたら、そのうちに何か白いものが上から下に落ちた。焦点を合わせる。活けてある花の花弁が落ちたのだった。母が数日前に活けた「コデマリ」だった。

暗い壁にその白い花はよく映えている。

もう数日たつからか、何枚かの花びらが花器の周りに落ちていた。

短い命なのだな、と思う。しかし、人の目に愛でられたのだから良いのか、とも考えたりする。

ようやくコデマリの花弁が何かきっかけとなったのか、湊の思考が回転しかける。

しかし回転は止まってしまったようだ。

ひたすら虚しい気分に包まれたまま外を見る。

家の近くの林で、キツツキの木を連打する音が聞こえてくる。

何故かはわからないが、涙が頬を伝った。


湊は混乱した頭でありながら、なんとか現状を打開しようともがいていたのだった。


あれこれ思いを巡らせた挙句、とにかく思いのたけを、頭の中にくすぶっているものごとを頭の中から外に出さなければいけないと気づいたようだ。


語り始めようとしている。

記憶の扉が開かれる。

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