リスタート
——夢を見た気がした。
途方もなく、どうしようもなく、抗いようのない夢。
詳細はまるで覚えていない。
しかし、ただ一つだけ。ここに、この心の中に、今でも残っている言葉がある。
『……リスタート』
酷く淡々とした男の声。無機質で、無頓着で、無表情で、抑揚のない声。
脳裏に燻る言葉を思い出しながら、体をゆっくりと起こす。
枕の代わりにしていた左腕が痛い。せき止められていた血が再び流れ出し、左手の指先がじんじんと痺れてくる。
(——生きている)
そんな当たり前で、何でもないことを実感する。
「ちょっとシュウ! 会議の途中で寝るとか、いったいどういう神経してるわけ?」
寝起きには辛い甲高い声で、赤髪の美少女——ミサが問いつめてくる。トレードマークのポニーテールを揺らし、さらに言えば二つの見事な双丘も揺らしながら。
「ああ、悪い悪い。ちょっとばかり、ミサとランデブーした夢を見てたもんで」
「なっ……!!」
シュウと呼ばれた青年は、お返しとばかりに口撃を一つ。ミサはみるみる赤面していき、平手打ちの構えをとった。
「はいはい、二人とも。痴話喧嘩はそこまで。シュウも起きたことだし、今日の会議を再開するよ」
眼鏡の位置を直し、理知的な顔立ちの男——クロウは場を取り直す。男とは思えないような綺麗な手に、肩に届かない程度のサラサラの金髪。クロウ様ファンクラブなるものが組織されるほどの、王子様系男子である。
「痴話喧嘩って……。まぁ、分かったわよ。それで? 今日の議題は?」
「もちろん昨日までと同様、新人部員の勧誘についてだ」
クロウは王子スマイルと共に言葉を放つと、壁際にあるホワイトボードへと向かった。
第一高等学園、世界研究部部室。
——ここから再び、彼らの物語が始まっていく。