フラグメント・メモリアム 〜始まりの物語〜
初めて彼女を見たのは、彼女がこの村に来た、最初の日だった。
その日、いつものように二階の書庫の窓から外を眺めていた俺は、門の前に立つ男と少女に気が付いた。初めて見る顔だ。
(新しい人間が来たのか…)
どうやら領主である、この屋敷の主人に挨拶に来たようだ。しばらくすると一人の九女が、二人を招き入れ、屋敷へと案内した。
何気なく見ていると、ふと少女がこちらの窓を見上げた。
(……)
「……っ…」
(………目が…)
目が、合った気がした。
「…まさかな」
ありえない。あり得るわけがないのだ。
なぜなら自分は、精霊だから。
長い長い年月をこの屋敷で過ごして来たが、今までも一度たりとも自分に気付いた人間はいなかった。
そう、一度も。
(………俺は一生、この書庫で一人きりだ…)
それはきっと永遠にも等しい、気が遠くなるような時の流れ。誰にも気付かれない、誰にも分かってもらえない、それは酷く寂しい孤独。
(人間は、嫌いだ…)
一人でないことを、当たり前のように思っている。それは自分にとって、酷く羨ましく、妬ましい考え。
(…人間は嫌いだ)
誰もいない部屋で、誰にも聞こえることの無い言葉を、俺はもう一度、心の中でそっと呟いた。
それからというもの、俺は時々窓越しに彼女を見かけるようになった。
彼女は明るい性格だったらしく、すぐに村に馴染んでいった。いつも村の子供達に囲まれて、幸せそうに笑っていた。
そんなある日だった。いつものように子供達と屋敷の前を通りかかった時、女の子が一人転んだ。膝をすりむいたらしく、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「大丈夫!?痛かったね?」
「うっ…うっ……」
「……よし!おねぇちゃんが治してあげよう!」
「…っう…ほんと…?」
「うん!少しじっとしててね」
彼女が少女の足に手をかざす。
すると彼女が手をかざしたところに微精霊が集まる。微精霊とは、精霊になる前の小さなマナの塊だ。その一つ一つは小さな光の粒でしかない。おそらく子供達には淡く光っているようにしか見えていないだろう。
「汝と汝の内なる精霊に命ず。その内なるマナを糧とし、この傷を癒したまえ…ヒール…」
微精霊の淡い光が一瞬だけ強くなったが、すぐに消えてしまった。彼女が手を離すと傷は綺麗に消えていた。
(精霊の加護………あいつ、精霊使いだったのか)




