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孤高の龍  作者: エルフェリア
第2巻【学園】
26/30

第8章ーチェレッチェ迷宮ー中編

   2.


「…………」

 あちこちから響いてくる、魔物の叫び声。手を握ったり開いたりして、辺りの魔物の数を確認する。

「ディメンション」

 右耳に付けた、転生魔法ディメンションが内包された魔道具を発動させる。隣に出現する亜空間からアルミスティアの代わりとなる武器を幾つか取り出す。

 刀を左側に、片手剣2本を右側に提げ、伸縮可能の(こん)をチェーンに繋いで後ろに提げておく。更に右手にガントレットを嵌めた所で。

「ガアアアァァァッ!!」

 石で出来た虎の魔物が、咆哮と共にその石の爪を振り下ろした。

「……まったく」

 振り向く事なく、その場に座り込んでやり過ごし、無防備になった背中目掛け、炎を纏わせた拳を突き出した。

業炎波(ごうえんは)

 接触と同時に魔物を飲み込む業火が瞬く間にその生命(いのち)を絶った。

「……今回は運がいいな」

 地面から植物の弦が現れるが、左側に提げた刀を抜刀し、両断する。奇声を上げて悶える植物の女性となった魔物を炎の刀でもって1撃で葬り去る。

 ……そこで、そう遠くない場所から悲鳴が聞こえてくる。

 ――この声、ユニアか……?

 悲鳴の方へと駆け出しながら、次々と現れる多種多様の魔物を薙ぎ倒す。数分と経たない内に、見えてきた。

「水流となりて裁きを、アクアゲイザー!――ひゃっ!?」

 魔法で必死に応戦しているが、いかんせん数が多すぎる。捌ききれず、掠り傷を作りながら逃げ惑っている状態だ。

 刀をしまう傍らで後ろに提げた棍を掴んで伸ばし、その切っ先を銀髪の少女へ向ける。

魔廊(まろう)よりいずりし煉瞑(れんめん)の微笑みを最後の笑みとなりて討ち果てよ。ダークネスレインド!」

 ケタケタと笑うドクロの顔が施された闇色の鎌が銀髪の少女を襲わんとする石の巨人を縦に切り裂いた。地面に突き刺さると、闇が広がるように床を染めていく。

 目を瞬かせる少女へ、飛びかかった石のゴブリンは、そのテリトリーに侵入した瞬間に闇色の手に絡み取られて飲み込まれていった。

「っと……」

 ダークネスレインドによって少女を護りつつ、棍術で石の魔物達を吹き飛ばしていく。無論、1体たりとも生かしはしない必殺の1撃を浴びせながら。

「あらかた片付いたか」

 ものの数十秒で50はいただろう魔物達を一掃した所で、ようやく少女の方へと向き直る。

「レックス君……怪我はありませんか!?」

 放心状態でその名を呼ぶと、頭が冴えたのか勢いよくレックスへと突っ込んできた。

「清涼なりし癒しの守護を。リジェネレイト」

 そんな少女の頭をむんずと掴み、抱きつかれるのを阻止すると少女に回復力を増幅させる回復魔法リジェネレイトをかけてやる。

「自分の傷を癒してから言え、ユニア」

「あ、ぅ……ごめんなさい。レックス君」

 掴まれた頭を擦りつつ、小さくなるユニア。そんなユニアを見て少しだけ安堵するが、すぐに頭を切り替えて魔物の襲来に気配を散らす。

「ま、すぐに見付かって良かったというべきか」

「――!そうです、キアちゃんたちは!?」

 思い出したように顔を上げたユニアはやはり不安そうな顔をしていた。

「…………とりあえず、近くで戦闘が行われている気配はない。足で探すしかないだろうな」

 目を閉じてより遠くの気配を探ってみるも、それらしいものはなかった。

「そんな……どうして…………ひゃうっ」

 再び視線を床に落とすユニアの頭に容赦なくチョップを食らわせる。

「文句なら強行策に出たアルフォンスに言え。それと、考えなしに魔層(ダンジョン)の中へテレポートさせたあの魔法士たちにな」

 アルフォンスの案内の下、別荘へやって来たレックスたちは、最初の提案通り、昼食を振る舞われていた。しかし、食事もそこそこに突如アルフォンスご自慢の魔法士たちが乱入。いきなりレックスたちを転生魔法テレポートで魔層『チェレッチェ迷宮』の内部へと転移させたのだった。

「アルフォンスの思惑通りなら、今頃お前はアルフォンスと2人きりにさせられていただろうな。まぁ、魔層をナメた考えだったがな」

 ユニアは顔を強ばらせるも、レックスの苛立ち混じりのため息に、首を傾げた。

「魔層をナメる……?」

「魔層が存在する理由を考えれば、すぐに解るはずだ」

 魔層とは、魔素(マナ)が他より多く集まり、魔物達の根城と化した地。それは授業で散々習ってきた事だ。

 集まっている元素と同系統の魔法を使えば、通常より威力は上がるものの、その他は別段変わった点はないたずだ。

「大抵の魔法には元素がある。だが、転生魔法には無い、というより不明だろう?」

 レックスの説明に、ユニアは理解したように頷いた。

「元々魔層には通常より魔法の影響を受けやすく、反対に及ぼす特性がある。だから魔法の威力が変動する事態になる。なら、転生魔法の威力はどうなる?」

「えっ、と……変わらない?」

 元素の影響を受けないのであれば、威力は変わらないはずだ。そう答えたが、レックスは首を振って否定する。

「いいや。変動はする。最も、他の魔法とは異なる変動の仕方になる」

 転生魔法に縁がないユニアは、ただただ首を傾げるだけ。

「簡単に言えば、能が無ければ暴走しやすい。今回のテレポートで全員がバラバラに飛ばされたのがいい例だ」

「私は運が良かったんですね……」

 もしあのままレックスが来なければ、遠くない内にユニアは魔物によって殺されていただろう。その未来を想像してしまい、ユニアはゾッとした。

「さて、近くにあいつらはいない。最深部に行くか、入口に向かうか、お前が決めろ」

 この場所に留まっていてもキア達に会う可能性は低い。魔層の主がいるだろう最深部へ行くか、魔層の入口へ行くかを決めなければならない。

「私が……?」

「付き合いが長いほうが解るだろ、多分」

 そんな風に言われ、ユニアは左右を見比べた。一方は上へと続く道。もう一方は下へと続く道。レックスが来たのは下へと続く道からだった。

「……下へ。最深部を目指しましょう、レックス君」

「分かった」

 レックスは1つ頷いて、前衛を務めるようにユニアの前を歩き出す。

「ところでユニア。お前、苦手な魔物はいるのか?」

 魔物に遭遇する事なく道を進んでいると、ふとレックスがそう問いかける。

「苦手な魔物……?えーっと、サラマンダーとかウォーレット、です」

 サラマンダーは火の蜥蜴のような姿をしており、異様にすばしっこい魔物である。

 ウォーレットは先ほどレックスが倒した石の巨人であり、魔法が効きにくい魔物というので有名である。

「なら、そいつらが出たらお前に回すぞ」

「そんなっ!?……え、でもサラマンダーは火属性、ウォーレットは地属性の魔物なら、遭遇しない、はず?」

 軽い悲鳴を上げるが、不思議そうにレックスを見返した。

 魔層『魔境の森』のような特異な魔層であれば2種属性以上の魔物が生息している可能性はある。だが、チェレッチェ迷宮にそのような特異な魔層ではないことくらい、ユニアも知っていた。

「通常はな。だがここはチェレッチェ迷宮。この魔層は他とは違う特性がある事を理解しておけ」

 レックスが言い終えると同時に、視界が開けた空間に辿り着く。

「え………うそ…………」

 右手には燃え盛る火の魔物。左手にはまるで巨大な壁のように立ち塞がる地の魔物。

 今しがた話していた魔物達が、待ち構えていた。

「チェレッチェ迷宮の特性――"物理幻象(ぶつりげんしょう)"。来訪者の意識を読み取り、来訪者にとって苦手な存在を具現化させる特性だ」

 レックスは左に提げた刀に手をかけて、僅かに腰を落とす。殺気を放ち、魔物達の注意を引く。

「流石に両方同時は厳しいだろうから、どっちか選べ。もう片方は相手してやる」

「はうっ!?」

 既に逃げ腰であるユニアを一瞥して、レックスはため息をついた。

「……か、数が多いです」

 ユニアの言う通り、魔物は1体ずつではない。先ほどと同じように十数体の群れと化している。

「この程度、許容範囲だ」

 常日頃からその倍以上の魔物の――しかも更に多様な種族が入り交じった状態の――群れを相手にしているレックスにとっては肩慣らしにならない。

 だが今はアルミスティアで戦えない状態。どちらを相手にするにも、先程のように数十秒の時間を要してしまう事になるだろうが。

「レックス君基準で考えないでください」

 プクッと頬を膨らませてあくまで選ばないつもりのユニアをジィッと観察し、勝手に決める事にする。

「……分かった。お前はサラマンダー担当だな」

「え……?」

 抜刀、2つの魔物の丁度境目めがけ、振り下ろす。

「――地裂抜刹(ちれつばっさつ)

 振り下ろした刀が地面に触れた瞬間、そこを起点として槍状の地面となって、見事にサラマンダーとウォーレットを分断させる。

「どちらも知能が低いから、この壁を乗り越えられない。安心してサラマンダーをやってこい」

 そう言い残して、レックスは壁の如く聳え立つウォーレット達へ迷いなく突っ込んだ。

「はぁっ!!」

 無謀にも正面突破をせんとするレックスへ、ウォーレットの1体が石の巨腕を振り下ろす。それを紙一重でかわしながら風の刃で腕とその先にあった片足もついでとばかりに斬り落とす。

 ウォーレット達の間をジグザグに駆け抜け、その間もきっちり巨腕や足を斬り落とし続けた。

 オーク種に分類されるウォーレットの弱点はクロイド遺跡にいるオークと同様の機動力の低さであること、目を潰されると敵味方問わずに暴れまわり、最後には自滅する弱点がある。

 半数程のウォーレットの足を斬り落とすと、残された足や腕を伝って頭上へと、そのままウォーレットの頭を踏みつけて、ウォーレット達を見下ろすように高く跳躍する。

 身体を回転させながら、刀をしまうと、右側に提げておいた剣2本を引き抜いて。

「時雨円舞」

 まるで舞うように。レックスは無傷のウォーレットの頭から頭へと飛び移る。その一瞬でレックスは足を付けたウォーレット全員の目を潰していく。

「終わり、だな」

 暴れ始めたウォーレットの脇をなんなくすり抜けて、最初の位置へと舞い戻る。背後を振り返れば、暴走状態になったウォーレット達が足を斬り落とされて動けない仲間を襲っている光景が目に入る。

 剣をしまって、いつでも魔法を放てるようにと魔力を高めて、取り出した(こん)の切っ先をウォーレットの1団へと向けておく。

 そんなレックスの魔力の塊に、偶然にも感付いたのは、1番レックスに近い位置にいたウォーレット1体だけだった。

「焼き尽くせ焔の(つるぎ)、バーニングセイバー」

 そのまま自滅するまで無視してくれればよかったが、やはりこちらへと向かってきたウォーレットに、レックスは詠唱し、焔の剣を出現させる。それを一薙ぎさせると、ウォーレットは避けられる事ができずにその一薙ぎによって生命(いのち)を終えた。

「………………」

 ウォーレット達の仲間討ちや自滅による全滅を確認したところでレックスは隣で戦闘中であるだろうユニアの様子を見るために、地の壁の反対側へと向かった。

「はううぅぅぅ!!」

 反対側を見て、レックスは暫し考えるようにこめかみを押さえて1度目を閉じる。

「…………」

「はううぅぅぅ!!」

 目を開けても同じ光景が広がっていた。つまり、ユニアはサラマンダーの連携に怯えて、あちこち逃げ惑っていた。時折魔法を放ってはいるようだが、サラマンダー達の素早さの方が上なので、ことごとく避けられている始末だ。

 事態を把握し、疑問が解決したところで、レックスはユニアに加勢する。

「何やっている」

「レックス君!無理です、助けてください!」

 実に潔く助けを乞われるが、レックスはそれを無視して棍を構える。

「魔法が無理なら護身術で対処しろ」

 見本とばかりに、レックスに向かって跳躍した1体のサラマンダーに棍でその顎を強打するカウンターを見舞わせる。ちなみにそのまま頭を貫通させて元素解離させておく。

「わ、私、護身術を習っていないです!ひゃっ」

 振り返れば、なおもサラマンダーに追われたユニアがそんな告白をしていた。それに脱力感を覚えながら、レックスはどうするかと思案する。

「なら、見て覚えろ。5体だけ相手してやる」

 こっちに来いと手招きしながら、レックスは棍をサラマンダーへと向けた。

 ユニアがレックスの脇を通り抜けてから数秒。背後で踵を返した音を聞いて、レックスは棍を振るった。

 まず、(こん)を真横にしたまま身体半分右に避け、棍を半回転させると、空振りしたサラマンダーの身体にヒットして、そのまま上へと持ち上げていく。そこで半歩後ろへ下がりつつ、突きの要領で、目の前に迫るもう1体の開かれた口に目掛けて、落ちてくるサラマンダーをねじ込んでやる。ねじ込まれた方は仲間の牙を身体に食い込まれて絶命、身動きの取れなくなったサラマンダーには縦回転させた棍で首をへし折って終わり。

 左右正面から同時にサラマンダーがやってきたので、へし折ったまま強く押し込んで貫通、棍を軸にさせてレックスは上空へ身体を逃がす。相手がいなくなった代わりにサラマンダー達は軸となっている棍に頭からぶつかった。

 片手1本で逆立ちした状態で正面から来ていたサラマンダーの頭上に身体を傾かせ、棍から手を離して踵落としを食らわせる。

 棍にぶつかった残り2体は既に回復しており、棍を引き抜いている時間が無いほどその牙が迫っていた。

氷彗陣(ひょうすいじん)

 レックスは焦ることなく、棍術を発動させる。刹那、地面から幾つもの氷の槍が現れて、サラマンダーの牙が届く1歩手前でその生命(いのち)を完全に絶つ。

 元素解離を起こしたのを確認してレックスは立ち上がり、ユニアの方へと振り返る。

「はううぅぅぅ!」

「…………」

 デジャヴが、目の前に広がっていた。

「氷彗陣」

 今度は思案する前に棍を投擲(とうてき)し、丁度ユニアとサラマンダーの間に突き刺さった瞬間、再び棍術を発動。棍の周りにいたサラマンダー数体が氷の槍に貫かれて絶命する。

「最後の1体くらいは倒せ」

 棍を回収するついでに2体ほど体術で倒した所でレックスは闘気を霧散させた。

「ふぇっ?」

 必死に逃げていたのか、サラマンダーの数が減ってきていることに全く気付かなかったユニアは、レックスから言われ、後ろを振り返る。

「えっ……あれ?――って、ひゃぁっ!」

 目を丸くしてスピードが遅くなった事でサラマンダーに追い付かれ、ユニアは慌てて横に移動して牙から逃れる。

「サラマンダーは魔力探知が高い。術じゃなく、接近戦で対処しろ」

 棍を縮ませてしまいつつ、腕を組んで傍観する。

「接近、戦……」

「サラマンダーの弱点は首や背中。尾は異常に硬い上に振り回せるから背後を狙うな。さっきみたいに横に逃げれば充分狙える」

 ユニアはまだ震えているが、サラマンダーが跳躍して襲ってきたので言われた通りに横に回避。両手でしっかりと水晶杖(アクアリウム)を握り、サラマンダーの首に思いっきり振り下ろした。

 ボキッという骨が折れた音と共にサラマンダーは地面に激突し、元素解離を起こした。

「は、はぅ………」

 危機を脱した安心感からか、ユニアはその場に座り込んだ。

魔層(ダンジョン)で気を抜くな」

 そんなユニアにチョップを食らわせて立ち上がらせる。

「とりあえずお前は護身術を学べ。前衛が常にいると思うな」

「ぅ、はい……」

 軽い説教をし、辺りを改めて気配で探る。

「…………これは」

 レックスがポツリと呟いた時、階下へ続く道から3人の悲鳴が響き渡った。

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