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孤高の龍  作者: エルフェリア
第1巻【始動】
12/30

第4章ー還誕祭(かんたんさい)ー 中編

   2.


 錬金を終えて、再び街中に繰り出したレックスたちはリオンの案内の下、とある料理店へと入っていった。

「早く試したいわね」

 目的以上の錬金が出来たことがよほど嬉しかったのだろう。キアは随分とご機嫌だった。

「でも、お金は……」

 結局、リートは先に済ませていたために自腹となったが、キアとユニアはレックスの奢り、という形で支払ってもらっていたのだった。

 断る余地なくいつの間にか支払われていた代金について、ユニアは必死に抗議をしていたが……。

「レックスの常識に従っとけ!がっはっはっ!」

 とまぁ、こんな調子である。ちなみに、レイナから教わったというその常識についても、ユニアは諦めずに訂正を繰り返している状態だ。

「健気だね。そう思わない?レックス」

 料理を待つ間も抗議するユニアに付き合っていると、不意にリオンが割って入る。

「……とりあえず、これは後でレイナに問いただすつもりだ」

 肯定でも否定でもない言葉で肩を落としたレックスは、頬を膨らませるユニアをどうするべきかと悩んでいた。

「で、本命はどっちなんだ?」

「んなっ!?」

「はうっ!?」

 反対側に座るゼウスが身を乗り出してそう尋ねると、女の子2人は一気に赤面する。

「本命?」

 何の話か全く分からないレックスは反芻する。

「どっちの方が気に入ってんだよ?」

 その言葉でレックスは意味をようやく理解する。

「キアはまだよく分からないが、少なくともユニアは"気に入られている"」

 ゼウスの求めた答えとは斜め上の答えに、ゼウスは机に突っ伏した。

「誰もアルミスティアの好みなんざ聞いちゃいねぇよ……」

「好みではない」

 律儀に訂正するレックスに対し、リオンは口元を押さえてクスクスと笑う。

「またその話?レックス、武器は武器だよ?」

「……アルミスティアはアルミスティアだ。何度も言わせるな」

 じろりと睨まれてもどこ吹く風。

「あの、それってどういうことですか?詳しく教えてください」

 が、意外にも食い付いてきたのはユニア。思わず顔を見合わせるリオンとゼウスだが、レックスはため息を溢した。

「そのままの意味だ」

「やっぱりまだ納得できないんです。あの日のこと」

 両手を握りしめて抗議する様はまるで小動物のようで可愛らしい。

「正直、キアちゃんたちにどう説明すればいいのか、全く分からない状態なんです。だから、教えてほしいです」

 間近でそんな風に詰め寄る女の子に、ときめくのが普通なのだが、レックスは打開策について頭を捻る。

「やっぱレックス、おめぇズレてるぞ……」

「ほんと、レックスは面白いね」

 落胆するゼウスと面白がっているリオンはさておき、レックスはアルミスティアを呼び出した。

「持ってみろ」

「ふぇっ?」

 ダガー状のアルミスティアを両手を広げて受け止める。その軽さに、ユニアは驚き、確かめるように手を上下させる。

「すごく軽い……」

「何っ?」

 素直な感想を呟くユニアに、ゼウスは目を見開いた。ユニアからアルミスティアを取り上げて、今度はゼウスへ差し出した。

「……いいのか?」

 そう言いながら手を差し出したゼウスの手にアルミスティアを落とす。――瞬間。

「ぐっはああぁぁぁ!?」

 ガツン!という手痛い音と共にゼウスは絶叫した。

「ま、こういう事だ」

 早々にアルミスティアを回収し、回復魔法ヒーリンをお詫びにかけてやる。

「?……??」

 目を点にして、事態を把握しきれていないユニアに、もう1度説明する。

「アルミスティアは誰にでも扱えるわけじゃない。というより、基本俺以外には使われたくはないらしい。現状、俺以外にまともにアルミスティアを扱えるのはレイナとユニアだけになる」

 その言葉に、キアたちも目を丸くする。

「嫌な奴には、ゼウスのように重くなってテコでも動かせないようになる」

 武具錬成により、自身の武具を造り出すことは可能である。そしてそれは、付与した魔昌石の数により多少上下するものの、重さは基本変わらない。つまり、自身の武具でなくとも他の人の武具であっても才があれば扱えるのが常識だ。

「そんなの、聞いたことないわ……」

 ようやくキアから出た言葉は、これだった。同時に、ユニアが隠し事をした理由に納得がいった。

 無理もない。この言い方ではまるで、武具が"自我を持っている"ように聞こえるのだから。

「俺にとっては普通だ」

 アルミスティアをしまいながら、レックスはそう言い捨てた。

「そういえば、先ほども痛いから錬金はやらない、と言っていたな。それも関係あるのかね?」

 アクルがキアに連れ去られた後の短い会話での事を思い出し、ついでとばかりに聞いてみる。

「確か、初めて町に着いた時の出来事だよね」

「あぁ、あんときは大泣きしやがったなぁ!」

 レックスが答える前にリオンとゼウスが互いに笑い合う。

「ルシルド大戦で兄さんを殺されてから、レイナたちが

村にやって来たのはそんなに時間は経っていなかったと思う。全滅された村に留まっていても、『魔王』は殺せない。だから、レイナたちと一緒に行動することにしたんだ」

 ポツリ、ポツリとレックスは過去を話し始める。

「で、最初に着いた町に錬金士はいた。そこで錬金を知って半ば強引にやらされたんだが……」

 レックスは思い出して、深いため息を溢す。

「アルミスティアの状態を見るためにハンマーで叩いた瞬間だね」

「いきなりレックスが飛び跳ねて、アルミスティアを呼び戻しながら逃げちまったんだったな!」

 2人は笑いながら、更に話を進めていく。

「慌てて追いかけたら、レイナの後ろでアルミスティアを抱えて震え上がっていやがったなぁ!」

 がっはっはっ、と豪快な笑いをあげるゼウスを一瞥する。

「……まぁ、その時に"痛い"と分かって以降、錬金は一切やっていない」

 気恥ずかしそうに後ろ髪をぐしゃぐしゃとかきあげながら、話を終わらせる。

 と、ここで料理が次々と運ばれてきて、レックスは内心ホッとした。

「美味しそう」

 アクルの前にピリリとした辛さが鼻を(くすぐ)るパスタが運ばれて、アクルは思わず呟いた。

 リートの前にはクリーム色のソースをよく絡めているパスタとグラタンが。キアとユニアは仲良くオススメのミートソースがたっぷりかかったパスタが。

 ゼウスとリオンは2、3人前はあろうかと思えるどんぶりの中に山となった刺身がその下のご飯を覆い隠す、いわば海鮮丼だ。

「す、すごいですな……」

「身体動かすからね」

 元々身体が大きいゼウスはともかく、細身の優男ようなリオンまで同じものを食べるというのだ。驚くリートの言葉に笑いながら受け流していると、最後にレックスの料理が運ばれてきた。

「いい匂いですね」

 鼻を擽る香ばしい匂いに、ユニアは自然と笑顔になる。

 レックスが選んだのはステーキ、だった。しかしながらパスタでのオススメがミートソースのパスタであるならば、こちらは肉部門のオススメ料理。表面をじっくりと焼いており、今もなおジュウジュウと音を立てている。添えられた野菜たちもほどよい焼き加減で甘辛いソースと絡めれば更に旨味を増すこと必死だろう。

「……食べるのか?」

「へっ!?いえ、確かにどんな香辛料使ってるのかなとかどんな風に焼いているのかなとかどこの部位を使っているのかなとか色々気になるけど、平気だよ!?」

 レックスからの思わぬ提案に早口で申し立てるが、それはかえって逆効果だった。

「いただきます」

 レックスは一言口にすると、まず真ん中をナイフで切り裂いた。途端に湯気と共に肉汁が溢れ出す。

 それを見てホッと油断したユニアは自分も食べようとフォークに手を伸ばす。

「ユニア」

 呼ばれ、振り返ると。

「ふぁっ!?」

 熱い。だが、口内に広がる肉の旨味に、ユニアは2度驚いた。

 口を両手で隠してホロホロと崩れてしまうお肉の味を何度も噛み締めた。溢れた旨味と絡めてあった甘辛いソースの邂逅は、さらにユニアを驚かせた。

「ふわぁ……」

 言葉が出ない。正直、先ほどまで考えていた事が一気に飛んでしまいそうだった。

「足りないのか?」

 そのお肉を食べながら、レックスは尋ねた。

「とても美味しいです……じゃなくて、いきなり何するんですか!?」

 素直な感想を言った瞬間、我に返ったようにレックスに問い返した。

「あそこまでまくし立てられたからな。てっきり食べたいのかと……」

「だからって、いきなり口に放り込まないでください!」

 プクッと頬を膨らませてユニアは再び抗議の声を上げる。

「はいはい」

 錬金士の所からずっと抗議されており、流石のレックスもうんざりしていた。軽い返事と共にユニアの口にまた肉を放り込む。

「はうぅぅ……」

 満足げに肉を堪能するユニアをよそに、レックスは黙々と食べ続ける。ユニアの抗議が始まる前に肉を放り込ませ、黙らせる。

「……ユニア、気付いてる?」

 それを何度か繰り返し、見かねたアクルが声をかける。

「ふぇっ?」

 目を瞬かせるユニアへ、アクルは衝撃の告白を告げる。

「レックスは1つしかフォークを使ってないよね」

「………………」

 レックスはなおも黙々と食べ続ける。その手元をユニアはじっと見つめる。

 レックスの持つ手にはナイフとフォークが1つずつ握られている。無論、1人分なので、他に予備などあるはずもない。

「~~~~!!?」

 それが決定打となった。

 ユニアはキアに隠れるように移動して、ミートソースパスタにようやく手を付けた。

 レックスはそれを横目に見つつ、いつの間にか張っていた気を霧散させる。

 ――?

 その時、チクリ、とした痛みに似た気配を感じて辺りを見渡す。

「どうしたの?」

「…………いや、何でもない」

 それは辺りの喧騒に紛れ、消えてしまう。アクルの問いかけに、レックスは頭を振って気のせいだと思い込んだ。

 それ以降、特に会話も弾むことなく、一行は昼食を終えたのだった。



「レックスはあんまりお金を倹約しないんだね」

 リオンが紹介したあのお店は中々の値段だった。それをレックスが奢る形でまたしても支払った。リオンに言いくるめられたのだが、レックスはあまり気にせず、2つ返事で了承していた。

「貯めていても、『魔王』を殺せるわけじゃないだろう」

「というか、レックスは超金持ちだぞ?」

 そこへズイッとゼウスが割り込む。疑問を浮かべるアクルへゼウスはどや顔で自慢する。

「あの店どころか、ミッセリアのあらゆる店の商品を買い占めても、雀の涙ほどしか減りはしねぇ」

「え」

「は?」

 それに、アクルとリートは顔をひきつらせる。

「下手すりゃ、世界中の店を買い漁っても余るんじゃねぇか?」

 さらに投下される発言に、アクルとリートは顔を引き合わせる。

「どう思う?リート」

「流石に世界中は有り得ないと思えるがね」

「いやいや、キアに渡してた魔昌も、別格の品物だったよ。あれだけでどれほどのお金になるか」

「…………それで、お前たちはいつまで付いて回るつもりだ?」

 2人からはぐれない程度の距離を取り、レックスはゼウスを睨み上げる。

 ゼウスは肩を竦め、リオンを指差した。詳しくはリオンに聞け、とゼウスは行動で示した。

「……"豪雷(ごうらい)戦斧(せんぶ)"が聞いて呆れるぞ」

「えっ!」

 ため息まじりに呟いた言葉は、意外にもアクルたちにも聞こえてしまっていた。

「ルシルド大戦に活躍した英雄の1人ではないのかね?確か、迫る魔王軍を雷を纏った大斧(おおおの)で叩き伏せたという偉業を成し遂げたはずだが?」

「いやぁ、照れるじゃねぇか」

 顔をにやつかせ、気持ち悪く身体をくねらせるゼウスを冷めた瞳と共に距離を取るレックス。

「ルシルド大戦以降は"無閃(むせん)の双剣"と共に魔層(ダンジョン)攻略に挑み続けているって噂だけど……」

 チラリ、と少し後ろをユニアとキアと共に歩く栗色の髪の男性へ視線を送る。目敏く気付いたリオンは、軽く手を振って応えた。

「……レックス、本当に君、何者なの?」

「俺としては、その質問の方がなんなんだと聞きたい」

 アクルは慌てて目線を反らして、代わりにとばかりに疑り深そうな眼差しでレックスを見定める。それを真正面から受け取りつつも、何度目かのため息を溢した。

「やっぱり、珍しいなぁ」

 レックスたちのやり取りは、周りの騒ぎにかき消されてしまい、聞こえない。しかし、レックスの表情を見る限りそれなりに楽しんでいるのだろうと分かる。

「先ほどもそう仰っておりましたわね」

「同年代って、やっぱり大切なんだなぁと思う。あんな風に楽しむレックスは初めて見たよ」

 キアは改めてレックスを凝視する。レックスはうんざりした表情をしており、とても楽しんでいるようには見えない。

「レックスが目を輝かせるのは決まって、新種の魔物や変異種との戦いとか新しい戦い方を閃いたり教えてもらった時くらいだからね」

 変異種という言葉に、ユニアはハッとして思い出す。

「あの、フリージングの泉にいた変異種は、あれからまた現れたのですか?」

 自分とレックスを苦しめたウンディーネの変異種。色々とごたついて別れてしまったがために聞けなかった話を、ユニアは気になってはいた。

「あれ以降、新たな変異種は現れていないし、フリージングの泉も正常に戻りつつあるよ」

 その事実にひとまず胸を撫で下ろす。

「でも、これは機密事項になるかもしれないから、これ以上の追及はなし、だよ?」

 人差し指を口に当てながら、不敵な笑みを浮かべるリオンに、ユニアは思わず口を塞ぐ。

「うん、ユニアは良い子だね。レックスにはもったいない」

「ユニアは渡しませんわ。危険ですわ」

 クスクスと赤くなるユニアをからかいながら、キアからの宣言を軽く受け流す。

「そうだね。レックスが本気を出せば、この辺りは確実に焼け野原にはなるけどね」

 本気か冗談か分からない口調で、リオンは続けた。それに息を飲むユニアと、脱力するキアを見て、更にリオンのイタズラは拍車をかける。

「だいたいの魔層は1人で行けるし、前中後衛もこなせるオールラウンダーだし、まさに無双だね!」

「嘘を教え込むな、リオン」

 意気揚々とするリオンの目の前に来ていたレックスが止めに入った。

 ――嘘、だったんだ。

 そう安心するユニアだったが、それは的外れだと知る。

「魔層は1人で充分過ぎる。最近は弱い奴しか相手にしていないから、1000体以上の魔物の群れでも来ない限りはアルミスティアを使うまでもない」

 ピシッとユニアとキアの動きが不自然に止まる。

「……その事実は、この子たちには刺激が強すぎるんじゃないかな?」

 あえて濁した言葉を一刀両断にされて、リオンはやれやれと肩を落とした。

「ま……」

 フルフルとキアの身体が小刻みに震え始める。

「ま、負けないわ!絶対に!」

 ビシッと指差され、キアは宣言する。が、レックスは一瞬唖然として。

「あぁ、頑張れ」

 キアのテンションに付いていけず、月並みな言葉で返す。それは勿論、キアの神経を逆撫でする行為であった。

「その前にキアちゃん。この間のお礼を返さなくちゃ、だよ?」

「うっ……」

 ユニアの指摘に、キアは一気に勢いを失っていく。人差し指を突き合わせながら、もごもごと口ごもる。

「お礼?」

「レックスの欲しいものを買ってあげようか、って話していたんだよ」

 キアの宣言が聞こえていたのか、アクルは笑いを堪えつつ首を傾げるレックスに提案する。

「クロイド遺跡で助けてくれたお礼もせずに流れてしまったからね。さっき会計してもらっている間に話していたんだ」

 とりあえず頷いてみるが、どうすればいいか、レックスには何も思い浮かばない。

「その前にレックス、欲しいものってあるの?」

 リオンからの質問に、レックスは答えない。いや、答えられないのを知った上で質問しているのだと分かる。

「アクセサリーとか、どうですか?」

 ユニアからの助け船に素直に感謝するが、しかし、アクセサリーなら足りていた。

「いや、魔道具なら足りている」

 レックスの両耳に付けられた紫色の宝石。腰にチェーン状のなっている同じ形状の宝石もまた、レックスの持つ魔道具だった。

「あ、えっと。魔道具じゃなくて、普通のアクセサリー……だよ?」

 ユニアが間違いを訂正する。その違いに、レックスは首を傾げる。

 魔物から採れた魔昌(ましょう)を内包し、特定の魔法を発動させるための魔法陣を刻み込んだ道具を、人は"魔道具"と名付けた。

 これに魔力を込めれば、誰でも容易に魔法を発現できるという優れもの。だが、1つの魔道具に付与できるのは1つの魔法だけ、魔道具にできる魔昌もそこそこの純度でなければ魔法陣を刻めない。攻撃、防御魔法の定着はしやすい反面、才能を有する転生魔法は定着が難しい。魔道具のその実用性は思いの外、浸透していないのが現状だ。

「レックスって、魔道具を使うんだね。意外」

 魔道具を使うメリットとしては、不得手な属性をカバーするための補助道具のようなもの。クロイド遺跡で見ていた限りでは不得手な属性など無いはずだ。

「クロイド遺跡で言ったはずだ。転生魔法は扱えないと。チェーンの方はともかく、耳に付けているのは転生魔法の『ディメンション』が付与されている」

 転生魔法を扱う上で最も最初に覚えると言われている、空間掌握の魔法。亜空間を作りだし、物質を入れるための魔法であり、いわゆる無尽蔵に物を入れられるポーチのようなもの。無論、出すことも出来るので、レックスが得た戦利品(ドロップアイテム)は基本この中に入れられる。

「それに、戦うのが面倒な時に詠唱無しで発現できる」

 ――なるほど、目眩ましや誘導に利用できるのか。

 魔法発現に必要不可欠な詠唱は、刻まれた魔法陣が代わりを務めている。発現させる魔法の名だけは唱えなければならないが、それだけなら最小限の動きで済ませられる。

「……それじゃ、他に欲しいものは無いのかしら?」

 魔道具について、意外な活用法にアクルが目を輝かせていると、キアが本題に戻してくれた。

「欲しい…………もの…………」

 いきなり魔層(ダンジョン)に行けと言われても大丈夫なように、数日分の食料はある。一応の着替えと野宿用の必需品も足りている。『魔王』に関する情報は端から期待していない。

「ならば見たいものとかは無いのかね?」

 リートの言葉に、レックスは更に頭を悩ませる。

「それなら、パレードが良いんじゃないかな?」

「パレード?」

 初めて聞く単語に、レックスは悩ませていた頭を上げた。

「もうすぐ、この中央をパレードの団体が通り抜けていくはずだ。有名なサーカス団も多いから、見ているだけで楽しいよ」

 そんな話をしていると、遥か遠くから明るい音楽の音色が流れてくる。

還誕祭(かんたんさい)を堪能するんなら、見ねぇと後悔するぜ?」

 ニカッと白い歯を見せて笑うゼウスは、聞こえてくる音楽の方へと身体を向ける。

「それなら、とっておきの場所がありますわ!」

 向かおうとするゼウスを止めて、キアは得意気に胸を張った。

「あっ……でも、レックス君は――」

「何も浮かばないからな、それで構わない」

 それでいいのか、訊ねようとしたユニアに、降参したように両手を上げてその提案を受け入れる事を示した。

「レックス、もし何か気になる事があったら言ってくれると嬉しいな」

「ああ」

 逡巡(しゅんじゅん)するユニアに代わり、アクルはそう伝えた。レックスはそれに頷き、またはぐれてしまわないようにユニアの手を掴んだ。

 ……チクリ、と。

「……?レックス君?」

「もう、行くわよ。2人とも」

 一瞬動きを止めたレックスをいぶかしぶより早く、キアが2人の間に割って入り、2人の腕を両手で掴む。

「……ああ」

 短く答えるレックスの声は、先ほどよりも低く聞こえた。

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