3.市街へ
昨日、兵士に捕らえられた場所。そこには階段がある。
上がった先は奴隷身分の居住区と市民の居住区を隔てる城壁の門。宝玉の無い者は階段の下で捕縛される。
フィオナは兵士に連れられ、共に儀式を受ける同じ年齢の子供たちと階段を登っている。
奴隷身分であれば市民以上の人に雇われない限り、この階段を上ることはできない。逆に雇われの身の者は下りることが許されない。
奴隷身分が労働目的以外でこの階段を使うのは一生で一回訪れる、儀式のときだけだ。
階段を登ると大きな城壁が目の前に立ちはだかる。城壁の向こうは正式な市街、市民が暮らしている。
フィオナは城壁の向こうに何があるのか知らない。越えようとしたことはあるが、実際に入れたことはなかった。
城壁の出入口となる門はせいぜい大人ひとりが手を広げた程度しかない。そこには多くの兵士が配備されており、階段をクリアしても突破するのは簡単ではなさそうだ。
「これより、各人検査を行う」
兵士が宣言した。すると門に配備されず脇に立っていた兵士が近寄り、検査を開始した。
見ている限り、手荷物の検査と身なりの検査だった。まず、刃物を持っている子は不合格となった。単純にバレた子は刃物を取り上げられただけで済んだが、少しでも反抗した子は容赦なく斬撃に遭い倒れた。怪しげな物体を持っている子もいた、彼らも不合格だ。そして、服の破れがひどく肌の露出が多い子や汚れがひどい子は市街に不相応として不合格となった。
フィオナの服は母が気合いを入れて用意したもの。所持品はなかった。
「チッ」
検査の終わり際に担当の兵士が舌打ちするのが聞こえた。合格だった。
結局、人数は半分に絞られた。不合格となった者は剣を突き付けられ、縛りあげられた状態で階段を下りていった。
兵士に刃向い倒れた者は、階段横の切り立った崖の傍に運ばれた。そして、昨日フィオナが受けたように兵士に蹴られ、崖から奴隷の居住区へと落ちていった。間違いなく死んでいるだろう。
フィオナ達合格者は処罰の一部始終を見ることを強要された。
一通りの処罰が終わると兵士が叫ぶ。
「これより、市街に入るが俺らに刃向った者は皆同じように罰する。生きて帰りたきゃ従え」
皆、沈黙だった。
門前の兵士の一人が門に自らの青緑の宝玉をかざすと、重厚な金属でできた門が開いた。
前後に多くの兵士が構えている状態で、フィオナ達は門の中へと通された。
城壁の中では前の兵士の半分が後ろ向きに歩き牽制している。後ろの兵士については剣を出した状態で監視している。緊迫とした雰囲気によってからか、家一軒分の厚みの壁を越える時間が長く感じられた。
城壁の向こうに光が射している。その向こうにどんな世界が広がっているのだろうか。そう期待していた。
城壁を出ると正面には大きな道があり、その向こうに教会がある。教会には家を出るときに聞いた鐘が吊り下げられている。奴隷居住区での話では儀式はあの教会の中で行われるらしい。
兵士たちは教会に向かって誘導する。道の左手には端材などではなくしっかりとした材質の家々が立ち並ぶ。右手には家々の他に市場が開かれている。一か所で物が揃うような市場は奴隷の居住区には存在しない。
ただ、その市場は仮設の屋台のようなものもあるが、大半は地べたに座り商品を売っている。一店一店は奴隷居住区と大差がなかった。店主も身なりはいいものの、今日門をくぐり抜けてきた合格者と比べれば大差がない。彼らは奴隷身分が持たない宝玉を持ってはいたが、みな底辺市民を表す黒色の宝玉だった。
残りの家々も形は整っているものの、ほぼ全て奴隷身分の家より小さかった。
フィオナにとっては羨ましい光景だったが、市民の生活は想像よりは現実的なものだった。
そうしているうちに、教会に着いた。
「君たちにはここで『契約の儀式』を受けてもらう。中に入ったら空いている席に座れ。教会は聖なる場所だが揉め事を起こせば、どうなるか覚悟しろ」
兵士はそう話すと教会の扉を開けた。フィオナ達は誘導に従い、中に入った。




