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青い紅~せめてあなたに花束を~  作者: 暁 乱々
精霊の巫女編
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36.本当の『精霊使い』

 王城に着くと、兵士の案内で部屋に向かった。そこは見たことのある部屋だった。

「入りなさい」

 兵士は扉を開けて、フィオナとリリアの背中を押した。手首にはまだ縄がついている。兵士は縄を切ることなく、扉を閉めた。


「また会うことができましたね」

 窓際に立つ女性がゆっくりと振り返る、その姿は見たことのある顔。フィオナに六等の宝玉を与えた女性に間違いなかった。女性は中央の椅子を指差し、座るように指示した。

 椅子の数は三つ。リリアの分も用意されている。

「今回、来てもらった訳をお話ししましょう。その前に自己紹介をしておきます。私の名はエレシア・アルフィリア、アルフィリア国の巫女であり、祭事を担当しております。もちろん、契約の儀式も含まれます。実はあなたに会うのは三度目です」

 十七等の宝玉を差し出した王女、あの日のことはうっすら覚えている。装飾をまとって威厳ある王女だった。フィオナだけ不当な階級宝玉が与えられ、鏡が割れたとき、罵声から守ってくれた人だったことも思い出した。

 

「いきなり本題ですが、あなたは巫女について知っていますか」

 唐突な質問に口を開こうにも動かなかった。直属小隊のメンバーから聞いたことはあったが知らないふりをした。

「そうですか、当然ですよね」

 エレシアは立ち上がり窓の方を見る。そして窓の外を指さす。

「巫女の本当の仕事は、市街には知られておりません。祭祀を執り行っていることは『巫女』という名称から推測できますが、それが限界のようです」

「本当の仕事は別にあると」

「そう精霊を尊び、荒天や戦を避け、民を守ること。それが巫女の役割です。」

「それをどうして力も何もない私に」

 エレシア王女は静かにフィオナに近づき、胸元の鏡無き神鏡を手に取った。

「この仕事を為すには精霊使いであってはならない(・・・・)のです。鏡の割れた精霊契約者が必要なのです」

 手に取った神鏡を降ろし、横に座っているリリアに触れる。

「そして十分な力。あなた達は適切な訓練を受けられない立場にあった。良き祈り子としては生きることはできても、良き精霊契約者にはなれなかった。だから些細な困難も大きく立ちはだかり、剣持つ兵士に生身で抗うような日々だった。違いますか?」

 フィオナは何も言えなかった。ただその言葉に頷いた。

「ですが大丈夫です。黒龍が解放されたときの光景を憶えているでしょう。あなた達は力があります、適切に鍛えさえすれば本当の『精霊使い』となれます。未だ精霊使いの教えに染まっていないあなたなら、間違いなく」


 さっきから巫女になることが前提のように話が進んでいる。エレシア王女は重大なことを隠している、巫女の儚き宿命を。

「申し訳ないですが、いくら教育があろうとも私には荷が重すぎます。辞退はできないでしょうか」

 耐えきれずに口にした辞退の言葉。まずかっただろうか。

「残念ながら辞退する権利はありません。祈り子で人型の精霊を持つあなたはもう既に唯一の巫女継承者なのですから」

 エレシア王女はフィオナの手を握る。だが、フィオナの感情など全く見ていない。

「巫女の継承はもはや、あなたの運命です。あなたが巫女となったときに困らないよう、天命を全うできるようアルフィリア王室が支援します。そして巫女となった日にはフィオナとリリア、二人の願いを叶えます。一度に限らず予算の範囲で何度でも」

 エレシア王女から伝えられた待遇に不満は無い。だが、間違いなく巫女の座に、果てしない代償が潜んでいるように思えてならない。もう進んだ話の流れは止まらない。

「訓練は明日からして頂きます。今日は宿題を一つだけ。契約の儀式における詠唱の意味を思い出すこと。以上」

 エレシアは扉の前で立ち止まる。

「あなたがなるのは本当の『精霊使い』です。ただの精霊使いではありません。(たが)えることないように」


 結局、聞かされていた巫女の運命に触れることなく、さんざん光の部分を言い連ねた挙句、宿題まで言い残してエレシア王女は部屋を去った。入れ替わりに兵士が入ってきた。彼らは縄を切ると、すぐに去っていった。扉が閉まった瞬間、ガチャリと音がした。

 慌てて扉を開けようとするが、鍵が掛かっていた。おまけに内側には鍵がない。ここは軟禁用の部屋だったのだ。フィオナはただ崩れ落ちた。

「何で、こんなこと……」

 歯を食いしばり、拳が強く握られる。顔から涙が線を描いて滴り落ちる。リリアが心配そうに肩を触れる。

 リリアの目に映るフィオナは怒りに燃えている。本当に熱が発せられているかのような形相だった。そのフィオナがリリアに顔を向ける。

「リリア、逃げられないならやり切ろう。利用するなら利用し返してやる。だからお願い、力を貸して」

「もちろん! 私だって見返してやりたい」

 そして、巫女となった暁には……。

 二人は顔を突き合わせ、エレシア王女に与えられた課題に取り組んだ。その答えは皆が忘れていることだった。

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