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青い紅~せめてあなたに花束を~  作者: 暁 乱々
祈り子編
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25.いざ、出陣

 翌朝、三人と精霊二柱は第二城壁の門に居た。最外城壁の門とは違い兵士の数が多い。とても低階級の者には突破できないだろう。そんな門を今日は軽々と抜けることができた。黄色の宝玉の力は恐ろしい程だった。

「フィオナちゃんがこんな所を通るなんて、想像できなかったッス。十五等のイメージがすごくて、成り上がり羨ましいッス」

 カイアスの宝玉は九等。それに対しフィオナの宝玉はラル小隊長と同じ七等だ。たった数日で上長と同じ身分になったのだ。仕方がない。

 フィオナが見る世界はこの数日で大幅に変わってしまった。今まで第三城壁の外までしか見たことがないのに、最上級の市民がやっと入れる場所に居る。食べる物も違う、着る物も違う、住む所も違う。彼らはいったい何をしているのだろう。フィオナはまだ夢物語の噂しか知らなかった。

 

「服変えておいて正解だったよ。昨日の恰好じゃ検問行きだ。リリアの恰好までは必要ないけど」

 フィオナの背中には青いドレスのリリアが抱き付いている。フィオナはここに来るまで、リリアのような服の人を見ることはほとんど無かった。でも貴族の女性にとっては普通の服装のようだった。

 リリアが抱き付くのはリトが時折、後ろを向き目を輝かせているからだろう。さっきまでおとなしかったのに。第二城壁内では精霊も多々あった、だがこんな精霊は見たことない。

 

 そうこうしている内に第三城壁を通過した。手続きは第二城壁より簡単だった。

「フィオナ、今日、ギルメメ寄るか?」

 ラルが突然聞いてきた。あまりの言葉に驚いた。でもフィオナの回答は決まっていた。

「今日はいいです」

「だろうな、俺もやめといた方がいいと思った。『今から戦場へ行ってきます』みたいな発言したら今のメンバーは泣くだろう」

「なら何で聞くんですか」

「心配してるからさ、フィオナのこと。お弟子さんみたいな子もいるし、顔合わせておいた方がいいと思っているかもしれないと思って。今は心理状態を良くするのが一番なんだ」

「そうですか、ありがとうございます」


「本当に行かなくていいのなら、最短距離で森へ入る。覚悟はいいか」

「はい! ただ……」

 即答の後に言葉が詰まる。

「どうした?」

「寄りたい所があります。構わないですか」

「いいよ。あそこならむしろ近道だ」

「へ?」

 ラルは知っているのだろうか。あの場所を。ラルにも教えていない場所なのに。

 戸惑っている間に一行は第四城壁を通過した。


 第四城壁を通過してラルが目指す先、そこはラルの前の勤め先だった。

「懐かしいだろ」

 フィオナが奴隷身分最後の日に上がり込ませてもらった場所。その横には例の通路がある。

 小隊長は剣を抜き、城壁を突き始める。

 三年前に一回通っただけの槍まみれの通路。城壁を突き終わると、入口が現れる。

「ここは嫌です、ちゃんとした道がいいです」

 フィオナはお願いするが、聞いてはくれない。

「行こう。絶対大丈夫だから。フィオナ神鏡を出して。カイアス離れるなよ」

 ラルは火の灯るランプを手に通路に入っていった。

「フィオナ、答え合わせの時間だ」


 入ってすぐ、リトが通路を通り抜ける。

 次にラルがリリアに剣を渡す。

「先に行って、向こうの通路を開けてほしい。やり方は君も分かっているはずだ」

 剣を持った、リリアが通路の奥へと消えてゆく。


「たいちょー。やっぱり変な魔法いっぱい知ってるッスね。剣がプカプカ浮いて勝手に行ってるじゃないッスか。精霊使いはセコいッス」

 カイアスは精霊が見えない。だからリリアやリトがしていることは全て魔法に映るのだ。精霊契約者にとっては大したことはしてないのに。

 しばらくすると、騎士像がひざまずく。

「通れるぞ。カイアス、通路を抜けるまで俺かフィオナのどっちかに引っ付いてろ」

 カイアスの選択はもちろんフィオナだった。


「汝、証を見せよ」

 ひざまずく騎士像が言う。迫力は皆無だ。フィオナとラルが割れた神鏡を騎士像に見せる。

「『祈り子』よ、通り給え」

 騎士像がそう言うと通路の闇は晴れ、騎士像の隊列が見えた。

「念のため、黒い点は踏むなよ。行こう」

 三人は騎士像の列の前を通る。今回は槍もなければ、騎士像が襲い掛かってくることもない。

 だが……。

 

 フィオナにとっては苦痛だった。カイアスががっつりと触れている。左手なんか胸元だ。

「カイアスさん、触るなら別の場所にして下さい」

 カイアスが次に触ったのは誰が見ても尻の方だった。フィオナはカイアスの左手をはたく。

「痛ってー」

 そんなことはない、カイアスはしっかりと籠手を着けている。痛いわけがない。

「カイアス、ふざけてると串刺しで死ぬぞ。このロリコンセクハラ野郎」

「たいちょー。すまないッス」

「フィオナに謝れ」

「フィオナちゃん、すまないッス」

 全く反省する気はなさそうだ。

 

 通路を曲がると外側の出口が見える、だが出口は開いていない。前も同じだった。壁の暗号を解くのにリリアは寸足らずだった。

 ラルがリリアから剣を受け取り、城壁をつつき始める。

 ラルの目線が外れると、カイアスの手がフィオナの胸に忍び寄ってくる。

「やめて変態」

 フィオナはカイアスの両手を握り離した。


 ガチャン、ガラガラガラ、ガンッ。


 下から突き上げる槍はフィオナとカイアスの横を通り抜け、天井に当たった。フィオナとカイアスは天井にある槍の先を呆然と見つめている。

「カイアス、いい加減にしろ! さっさとこっちに来い」

 フィオナは仕方なしにカイアスの右手を掴み、出口に引っ張った。

 幸い最後の槍スポットで、すぐに手を放すことができた。

 ラルが城壁を叩き終えると、出口が現れ、外に出た。


「カイアス、これは恥ずべき行為だ。君も直属小隊員なんだから品のある行動をしてくれ。ああ触られたら俺でも嫌だ」

「フィオナも、今後は多少我慢してくれ。嫌なのは分かるが、命を守る行動を考えろ。怒るなら安全な場所で怒れ、いいな」

 この通り二人とも説教を受けることとなった。

 今のラルは直属小隊長のラルだ。もう、気を引き締めなければならない。だから危険な道を通ったのだろうか。

 

 説教の後、一行は森に沿って歩く。

 この道は憶えてる。リリアに会って初めての日に通った道、あのときは逆向きだったけど。いつもトンネルを使っていたフィオナにとってこの道は三年ぶりだった。

 最外城壁への橋を通り過ぎしばらく歩くと、あの場所が見えてきた。

 ラルには教えてないはずなのに、どうして。ラルはすんなりと辿り着いてしまった。

「これが行きたい場所だろ」


 目の前には青い花園が広がっている。

「たいちょー。ここは不気味ッスね。ゲフェ」

 ラルがカイアスを殴る。

 リリアもカイアスの体をよじ登りつねる。

「いててて、痛い。たいちょー、変な魔法使わないで下さい」

 頬を歪ませ、喚くカイアスを無視してラルが言う。

「ここがフィオナの原点なんだろ。ここに花を摘みに行く姿を何度も見てきた。黙っててすまない」


 ラルは知っていた。リリアと二人だけの秘密の花園を知っていた。知っていたのに隠していたのだ。

「隊長さん、秘密を守ってくれてありがとう」

 リリアがつねるのをやめてペコリと礼をする。

「ラルさん、ちょっとの間摘ませてもらっていいですか。薬の準備をしたいのです」

「大丈夫だ。ただ半刻くらいで済ませてくれ。今日で森の大半を抜けたい」

「分かりました」


 フィオナはリリアを連れて蒼月花を採る。フィオナは居住区と市街しか知らない、この先、何があるか分からない。だからリリアが許す限りの大きなものを採った。

 加えてほんの少しばかり花を採る。戦いには役に立たないだろうけど、とびっきりの花を採った。誰の手向け花にもならないことを祈りながら。

 リリアは相変わらず手で目を塞いでいる。

「もう終わったよ」

 フィオナの言葉にリリアは手を下した。そこにはほんのちょっぴり涙が浮かぶ。

「今度こそは約束守るから」

 ここで結んだリリアとの約束。ここを出たらすぐ森に入る。試される時が来た。

 遠くで男二人が騒いでいる。フィオナは摘んだ物を鞄に入れ、二人のもとへ向かった。


「なら行こう。森に入るぞ」

 ラルの先導により一行は森の中に入る。フィオナ達は戦いの場に足を踏み入れた。

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