20.突然の訪問者
ギルド・メメントが第四城壁外に移って三年が経った。
あれから資金ぶりは悪化し、フィオナと他のメンバー達は依頼書をより多く回転させなければならなかった。だが、依頼書を多くこなすことで得た報酬と増えた寄付金で、今や財政は前を上回っている。
一般的なギルドに一層近づき、依頼者の指値で依頼を受けているのにかかわらず報酬は上がっていった。
それに大きな変化があった。
第四城壁の外、底辺の市民が暮らす市街の花壇には蒼月花が植えられている。一か所ではない、教会に向かう並木通りの隅はいつのまにか青で飾られるようになった。
三年前の市民が見たら火を放っていることだろう。実際、まだ青いバラやユリを持っていると敬遠されることがある。市民の中には薬草の蒼月花だから許している人が多くいた。まだ、青のイメージは完全には払拭されていない。
だが、城壁の門の前にあえて青の庭を造り、こんな垂れ幕を掲げている有志がいる。
『括目せよ。これが底辺の街だ!!!』
自虐に見えるが、垂れ幕の文字は誇らしげだった。
ギルド・メメントに入りたての頃は内心ビクビクしていたし、移転後はフィオナを見るなり輩が殴りかかってきたこともあった。
だが今は、かごいっぱいの青い花を持っていても殴られることは無くなった。フィオナに限ることなく誰であっても。
良いことばかりに見えるが、フィオナの内心は両親を失った悔やみを引きずっている。
ギルド・メメントに行く前のリリアの表情。リリアは怯えていた、ひどく怯えていた。結果的に両親を失った。あれが予知だとすれば、あの怯えを問いただしていれば、最悪の結果は免れたのかもしれない。
でも、両親が健在なら今の自分が同じようにあるとはフィオナには到底思えなかった。
失ったものは戻らない。せめて自分の周りは良いものにするため、ひたすら生きた。
*****
「フィオナねえちゃん」
少女は花束を持ってやってくる。手には色とりどりの花が摘まれている。
「やっと分かったよ、赤紅華と紅春花の違い。葉っぱが紅春花の方が大きいの」
「正解。よく覚えていてね、二つは使い道が全然違うから」
「は~い」
フィオナは十三歳、普通のギルドならようやく入れるという年齢だが、子供の保護を兼ねたギルド・メメントでは既にお姉さん役になっていた。それに『弟子』も一人いる。
フィオナは今日新たに来た依頼書を並べて眺める。
街中で済むこの市街に密着した依頼のみを選別し、あとは返す。とはいっても返すような依頼書なんて今はほとんどない。
ギルド・メメントはこの市街に知れ渡っている。子供が背伸びしてもできない依頼は出さない。これが暗黙のルールとなりつつあった。
「姉ちゃん~」
ギルド・メメントに新しいお客さんが来る。
「エレン」
エレンは息を荒げ、依頼書を差し出す。
「遅くなったけど、まだいけるかしら」
フィオナは依頼書の内容にさっと目を通し、答える。
「喜んで引き受けます、夕方でいい?」
依頼書は明らかにフィオナに向けてのものだった。
「いいよ、早過ぎるくらいだもん」
ツンツンとフィオナの体に誰か触れる。
リリアだった。リリアは外を指さす。
指の先にはフード姿の三人。明らかにギルド・メメントに向かっている。
「エレン下がって」
「どうしたのお姉ちゃん」
「いいから下がって」
エレンがギルドの建物に入ったことを確認して表に出る。リリアも一緒だった。リリアは抱きつくのではなくフィオナの前に立つ。リリアが正面に出るときは経験上ろくでもない。
フードの男はおそらく魔道士。二人の経験は魔道士イコール戦闘。嫌な予感しかしない。
男らはフィオナの前に着く。明らかにギルドではなくフィオナに用がある様子だった。
「何の用ですか」
フィオナは尋ねる。すると男らはフィオナの前で突如地面に膝をついた。今度は頭を大きく下げ地面につける。
「以前のご無礼、申し訳ございませんでした」
突然やってきて謝罪する魔道士三人の姿に、フィオナは目をパチクリさせていた。




