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青い紅~せめてあなたに花束を~  作者: 暁 乱々
精霊契約編
13/48

12.市民の証と

 翌朝、フィオナは昨日儀式が行われた教会にいた。教会に着くと、問題の司祭が待っていた。

「これを渡しておこう」

 司祭からは昨日見た仮階級授与書が渡された。書類にはこう書かれている。


 名前  :フィオナ

 年齢  :10

 元の階級:なし

 授与階級:十等

 期限  :アルフィリア歴313年6月14日の日の出から日没まで

 授与事由:階級宝玉受取

 授与者 :エレシア・アルフィリア/階級一等


 昨日とは違い階級が上がっている。しかも授与者の一等というのは王族の階級だ。

「君にはこれから第二城壁の中まで入ってもらう。そこで宝玉を渡され、正式に市民となる。では行こうか」

 司祭の後についてゆき、まず第四城壁に向かった。

 最外城壁の中の市街は昨日と変わりがなかった。今日も質素な路上市が行われていた。

 今日の朝まで泊まった城壁の詰所では、大きなパンを出してもらえた。この市では、そんなパンが手に入るか微妙だった。


 第四城壁に着き、兵士に仮階級授与書を見せた。すると兵士はすぐさま門を開けた。

 だが様子がおかしい。三人はなかなか門を通ることが許されない。兵士の動きがバタバタしている。

 しばらくすると兵士が数人フィオナのもとへ来る。

「君には申し訳ないが、一時的に拘束させてもらう」

 そういって、兵士は背後から黒い何かをかぶせ、目隠しした。

 次にフィオナの腕を引っ張り上げ、縄できつく縛り上げる。昨日のナイフの傷が痛む。

「君はまだ、第四城壁より内側の市街を見ることは許可されていない。今回は宝玉授与に行くことだけが目的の入場許可だ。もちろん与えられた階級により、拘束なしとなる可能性もあるが」

 いきなりのできごとにフィオナはただ従うのみだった。


「それじゃ誘導はエドラスさん、よろしく。我々も監視としてつくが」

 兵士の言葉の後、司祭に引かれ城門くらいの位置で左に曲がった。

「どこへ向かうのですか、左に曲がって」

 ご法度かもしれないが、フィオナはたずねてしまった。

「詳細は言えないが、原則市街を通らず第二城壁の中まで行く。堂々と市街を通ったら犯罪者と誤認される」

 三人と兵士が歩くのは城壁の中。拘束したが故の配慮だった。


 あれから一度門を通過し第三城壁に入ったあと、また同じように城壁の中を歩く。外周から中央に向かっても城壁はあり、門付近以外、外に出ることはなかった。

 内側の城壁の方が曲がる回数は多いが、歩く距離は短かった。結局、第三城壁は第四城壁の半分くらいの時間で門の所に着いた。

「ここから市街を歩く。君の名誉のため、やむなく拘束を外すことになる。我々は君を犯罪人とは扱っていないが、逃亡したり逆らったりした場合は処分が下される。よいな」

 兵士はそう言って、フィオナの目隠しを外し、手首の縄を切った。


 目隠しを外されたフィオナの目の前には見たことの無い光景が広がっていた。先ほどまでいた第四城壁の外とは比べ物にならないほどの邸宅の数々。街は純白に染められ、真ん中に建つ教会には、黄金に輝く鐘が吊り下げられていた。

「授与式はあの教会の中だ。行こうか」

 三人は桃色の花が咲く並木の道を通り、教会に向かった。


 教会に着くと司祭は外で待機となった。今回は誘導役ということだった。フィオナとリリアは兵士の監視のもと、教会に入った。

 教会内は昨日の儀式とは違って、祭壇や暗幕は無い。ステンドグラスや壁の装飾がはっきり見え、まだ誰もいない席を陽光が照らしていた。

「後から貴族が来る。後ろの席で座って待て」

 兵士の指示に従い、フィオナは最後尾の席に座った。


「ねぇ、フィオナ。昨日からすっごく扱い悪いけど、いつもこんなの?」

「う~ん。毎日ではないけどね……この二日はひどかったかな」

 フィオナが答えると、後ろから兵士が近づいてきた。

「気味の悪い独り言はやめろ」

 兵士には精霊の姿は見えない。兵士にとってリリアとの会話は全て独り言だ。人前で精霊と話すと精霊を見ることができる人でない限り、独り言となってしまう。

 結局、長い沈黙の時間となった。


 鐘の音が鳴る。

「これから騎士階級、貴族階級の方が来られる、無礼なきように」

 兵士の言葉の後、教会の扉が開き騎士階級の契約者とその家族が入ってくる。身なりはよく、取り繕った白い服のフィオナとは比べものにならない。

 また連れている精霊は巨大な犬や熊、豹の姿をしていて、みな精悍で強そうだった。

 騎士階級の契約者が入り終えると、貴族階級の番となる。騎士階級の人たちは座らず敬礼している。フィオナも真似して同じ姿勢をとった。

 貴族階級の人が入ってくる。騎士階級よりも各家は大所帯で来た。貴族の服は家柄を示す装飾が設けられ、黄金に輝いて映る。

 契約精霊は獅子のような動物型もいたが、翼の生えた馬や銀白の光を放つ一角獣もいる。みな騎士階級以上に華やかだった。


「アール様、大丈夫ですか」

「僕は平気ですが、ガルーが教会に入れないかもしれません」

 チラッと前の席を見ると、貴族階級の人は席に座らず入口を見つめ。騎士階級は敬礼をやめてしまい、どよめいている。

「ガルー頭を下げて、もう少し」

 そのときフィオナは巨大な黒いものを見た。

「よし、前に進んで入れるから」

 黒い何かは教会内に入ってくる。その姿は黒龍だった。巨体が頭を戻すと入口の高さをゆうに超え、体で通路は塞がった。

 契約者の少年が黒龍の横にきたあと、男が一人後ろから叫ぶ。

「アステア家はこの通り、精霊が大きい。授与式の迷惑になるから最後尾の席にさせてもらう」

 アールの父の声だった。

 その声を聞いて、立ち上がっていた騎士や貴族は座った。フィオナも座る。


 アステア家の人々が席に着くと、ステンドグラスの下の床が輝き始めた。そして光の紋様が現れる。

 貴族や騎士がみな揃って立ち上がり敬礼する。フィオナも合わせる。

 紋様の中から数人が湧き出るように現れる。全員の全身が見えるようになると、紋様は消えた。


「皆さん、待たせました。これから階級宝玉の授与式を執り行います」

 重厚な衣をまとった女性が間髪入れずに宣言する。

 フィオナはただ驚くばかりだった。リリアの方を向くとフィオナを見るなり、顔を横に振っていた。リリアも分からないのだろうか。

「家格順に授与を行う、授与後は契約の証をこの場で示しなさい。では呼ばれたものは前へ」

「契約の証って何?」

 フィオナの問いにリリアは首を横に傾げている。

 リリアは知らない。それなら、前の人の様子を見るしかない。

「ルシア・コルデル!」

 前方の席から女の子が立ちあがった。その子は天馬の精霊を連れ、中央の女性のもとに行く。

 女性はオレンジ色の宝玉を手に取り、女の子に差し出す。

「貴殿に階級四等を与える。第三王女エレシア・アルフィリアより」

 女の子はエレシア王女から宝玉を受け取ると、宝玉は自然に首元に収まった。

 次に王女から茶色い丸い何かが手渡される。ルシアはそれを受け取ると精霊に見せつけた。するとルシアの手元が光を放ち、精霊は白く光り輝いた。次第に光が収まるとルシアは手元の物を掲げた。鏡だった。だが、ただの鏡ではなさそうだ。

 鏡を掲げたルシアは盛大な拍手を受けて席に戻った。


「アール・アステア!」

 王女が名前を読み上げると、左の方に座っていた男の子が立ち上がる。黒龍の精霊を連れていた子だ。アールの方に向かって精霊も動こうとするが、制止を受けた。

 アールが王女の前に着くと、朱色の宝玉が差し出された。

「貴殿に階級三等を与える」

 アールは鏡を受け取ると、黒龍の前まで来た。鏡を黒龍の顔に向けるとルシアと同じように鏡と黒龍が白く輝いた。そして、ルシアと同じようにアールは鏡を掲げた。

 教会中が拍手に包まれる。アステア家は全員立ち上がっての拍手だったが、コルデル家の人間はアールの姿をただ見つめていた。その視線は冷え切っていた。

 アールが席に戻ると、王女は授与式を進めていった。みなルシアやアールがしたように淡々と授与を受けていた。

 見ていると、コルデル家とアステア家のように階級が逆転していることはあったが、みな元の階級に近い宝玉が渡されていた。騎士階級の子では七等以上はいなかった。


「フィオナ!」

 ついにフィオナの番が来た。立ち上がり、リリアとともに王女の前に行く。

 市民以下でただ一人の契約者、歩く姿はみすぼらしく浮いている。精霊リリアはフィオナとは逆に浮き上がり、貴族や騎士達の視線は、みな少女の形をしたリリアに集まっていた。

 王女の前に着くと、王女が宝玉を取り出す。

「ん?」

 フィオナに、はっきりと王女の発する声が聞こえた。王女の取り出した宝玉の色は今までと明らかに違う。

 群青色。リリアの服の色より濃く暗い青。

「貴殿に、階級十七等を与え……」

 王女は明らかに動揺していた。元は奴隷身分とはいえ、ここまで低い階級は事例が無かった。精霊の格と比べ、予想の斜め下を行く階級に驚いていた。周囲から、どよめきも聞こえる。

 フィオナは与えられた宝玉を受け取ると、渡された瞬間に手元から消え去り、首元に移動していた。

 次に王女から鏡を受け取る。紋様が施された木製の枠縁に鏡がはめ込まれている。フィオナは他の人がしたように、その鏡をリリアの方に向けた。鏡は白銀に輝き始める。リリアも鏡と同じ輝きを放つ。


 カチッ、バリーンッ!


 音の後、教会は沈黙に包まれた。フィオナの手元の鏡は木端微塵に割れていた。鏡だった部分はいつしか消え去り、手元には紋様が施された木の枠縁のみが残された。

「こいつは偽物の契約者ですぞ、今すぐ宝玉の剥奪を」

「階級が低いなと思ったが、市民の価値もないな、こいつは」

「いや精霊の服、真っ青だよな」

「そいつは災厄を呼ぶ精霊だ。邪な契約に聖なる罰が下ったんだ」

「不吉だ。さっさと外に出てゆけ」

 貴族や騎士達は二人の後ろで指差し、思い思いの罵声を浴びせてくる。家付きの兵士や魔道士が前に出てきた。


 その状況で、王女が口を開いた。

「戻りなさい」

 それだけだった。

 フィオナが席に戻ると、付き添った兵士にすぐさま縄で縛り上げられた。その姿を見て、周囲はさらなる罵声と嘲笑を二人に浴びせかける。そして兵士に外へ放り出された。

 フィオナは教会を出る間際に中を振り返る。

「これにて、階級宝玉授与式を終了いたします」

 王女の言葉とともに床に紋章が現れ、王女をはじめ数名の補助官は一瞬にして消え去った。


  *****


「君は正式に市民階級となった。階級十七等では第四城壁から中へ入れないが市街に居ることができる。授与式の揉め事は階級に影響しないから気にしないように」

 第四城壁の外、昨日契約の儀式が行われた教会にてエドラス司祭から言われた。

「私はこれからどうなるのですか?」

 フィオナは不安な顔で聞く。

「残念だけど、私には分からない。君はこれから市民として生きる、それだけだ。君は元奴隷身分だ、貴族や騎士身分のようにバックアップは期待できない。親元に帰ることはできるけど、どうなるかは君の方が詳しいだろう」

 フィオナの中で親の回答は想像がつく。

 

「最後に神鏡の裏を見てごらん。君が割った鏡のことだよ」

 フィオナは鏡の裏を見る。今までバタバタしていたから見ることは無かった。鏡の裏に紋様があり、文字が見える。

 鏡の裏には『リリア』と書かれていた。

「契約の証だ。鏡を使えば精霊を支配できるが、割れた鏡ではその力はない」

 司祭はフィオナの肩にそっと触れる。

「君は市民として、本当(・・)の祈り子として生きてほしい。どうなるかは分からないけど、精一杯生きてほしい。私は手伝ってあげられないけど応援する。では、行きなさい」

 司祭の手は暖かく、優しかった。

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