11.冒険の結末
二人は見張りに捕まり、城壁の中にある部屋に入れられた。部屋の中には檻がある。見張りは二人を檻に入れ鍵を閉めた。
「君は宝玉なしの奴隷階級。本件は不正市街侵入に該当し、まぁ処罰となる」
フィオナは覚悟を決めていた。
見張りは紙を取り出し、何かを書き始めた。
「君はどうやってあそこを抜けた、何をした。」
フィオナは見張りに通路を通りぬけた経緯を説明した。見張りは何も言わずに聞いているが、明らかに様子がおかしい。
「で、なぜあんな所を通った」
見張りの質問にフィオナは答える。
「帰れなくなったんです。私には宝玉がないですから市街へは抜け道で帰るしかなかったんです」
精霊契約の件や貴族に追われたことなど、一切言わなかった。
「そうか、名前はなんて言う」
「フィオナです」
「ほぅ、あっさり名乗ったな」
「で、君は?」
見張りは青いドレスの少女に手を向けて、たずねる。
彼には精霊が見えていた。精霊が見えるのは精霊契約者と魔力のある魔道士のみ。見張りはどう見ても魔道士でない。
「ふぅ。フィオナ、黙っていても分かっていたんだよ、この通り」
見張りの手元には白く輝くウサギの姿が見える。精霊だった。
「肝心なことをなぜ言わない。放っておけば、君を監獄にブチ込む調書を書いてもよかったのだぞ」
今、書かれている調書は二人にとって有利な内容のようだ。
「改めて聞く、君の名前は。答えなきゃ監獄行きだ」
「リリアといいます」
見張りは紙に追記していた。その後、鍵を取り出し、檻の鍵を開けた。
「出ろ」
その言葉に二人は檻から出る。
「出たら、テーブルの椅子に座れ」
椅子はちょうど三つ置かれていた。フィオナとリリアは奥の席に座り、見張りが出口側に向かい合って座った。やっぱり様子がおかしい。
「アハハハハハッ」
見張りは席に座った途端、堰をきったように笑い始めた。
「君はアホだ。俺より遥かに上の、神がかったアホだよ」
よっぽどおかしいのか笑いが止まらない。
「いや、俺も4年前に同じようなことをしたのだ。兵士が手薄なときに兵士用の通路に侵入してね、出口で見事に捕まった」
見張りは、饒舌な口調で話す。さっきとは別人だ。
「出口に兵士がいるなんて当たり前なんだけど、当時は頭が回らなかった。フィオナもそうだろ」
「はい……」
フィオナは認めざるを得なかった。
「めちゃくちゃ絶叫してたもんな。当然だぜ、あんなに危険な通路で大量に槍を出して、像に追われて……。初見で騒がない方がおかしい」
城壁の中での声は外に漏れていたようだ。だから当然捕まる。
「ちなみに、フィオナはもう少し楽に市街に入ることができた。答え合わせしたい?」
「したいです、気になります」
見張りは紙を出し、裏向きに置いた。
「まず、あの城壁の通路は貴族のお忍びのために作られたものなんだ。貴族はみな精霊契約をしている。だからあそこを通る人はみな精霊使いであることが前提になっている」
フィオナは黙って話を聞き、リリアは白く輝くウサギの精霊を触っている。
「要は精霊がいないと入ることすらできないんだ。君はまずこの条件をクリアーしていた。だから入ることはできる、ただその後の通り方を知らなかった」
「どう通ればよかったんですか?」
「先に精霊だけで行ってもらう。精霊だけなら仕掛けは反応しないんだ。それで精霊に奥まで行ってもらって、君が串刺しにした騎士像に許可をとれば、出口まで槍は出て来ないし、闇に入ることもなかった。それを果敢にも二人で突撃するから死ぬような思いをしたんだ」
フィオナは歯を噛みしめる。その横でリリアはウサギに噛まれている。
「さっきは一個目の正答例。こっちの方がショックだと思う」
見張りは手元にあった紙を表に返した。
「フィオナ、これを見たことはあるか」
紙にはこのようなことが書かれている。
仮階級授与書
名前 :フィオナ
年齢 :10
元の階級:なし
授与階級:十五等
期限 :アルフィリア歴313年6月13日から同年同月14日まで
授与事由:階級宝玉交付の待機
授与者 :エドラス/階級七等
書類には人相書きや精霊の容姿も書かれている。
「実は各城門にこれが配布されている。精霊を見れる精霊使いもね。リリアは人型で珍しい精霊だから、そこで判断するつもりだったんだろう」
「どういうことですか」
「こいつは最外城壁に入れる通行許可書になるんだ。実は君は堂々と城壁の兵士がいる門から入れたっていうこと。これで俺の言いたいことは分かるね」
要はさっきの危険な冒険は無意味だった。槍に怯え、騎士像に殺されかけた一切が無意味だった。
「まぁ、仕方ないよ。フィオナは知らなかったんだろう。俺のときも同じだった。だから兵士を避けてビクビクしながら通ったよ。悪い風習は変わっていないんだな。あのクソ司祭」
「クソ司祭?」
「あぁ、授与者の名前は契約の儀式を執り行った司祭の名前だ。あいつは比較的まともだが、抜けていて俺のときも堂々と城壁を通れることを知らせなかったんだ。わざとかもしれないけど」
「そうなんですか」
「でもな、運が良かった。あんだけ仕掛けに引っかかって死なずに出てきたんだから。今は喜べ、君は釈放だ」
その言葉を聞いて、フィオナは安心した。
「ありがとうございます」
「あぁ、礼はいらない。正式な書類があるんだ、罪はない」
「いたーい、いたいよぅ」
そのとき、リリアはまだウサギに噛まれていた。
「君の精霊は……。リト行くぞ!」
見張りはリトというウサギの精霊をリリアから離した。
「フィオナ、今日は遅い。明日朝まで泊まっていけ、俺は今から君らがやらかした分の片付けをする。君の無罪は守らないといけない」
「すみません。ありがとうございます」
「寝るときは奥の部屋を使ってくれよ。間違ってもこの部屋や檻の中で寝るなよ。他は好きにしていい。じゃあな」
見張りは外へ出て行った。
「あー痛かった」
「アハハハハ」
リリアの幼い言動に笑ってしまった。
二人は少し話をした。疲れがたまっていたのかフィオナは長くはもたなかった。そして、奥の部屋の余ったベッドを借りて眠った。
ベッドでの睡眠は初めてだった。まさか捕まった先で眠るなんて、フィオナは予想していなかった。それもこんなに良い待遇で。




