乾いた唇
目の前には、すごく綺麗な新しいビルが立っている。
世の中ってホント、ズルイと思う。
「悲しいことなんか何もないよ」と、浮かれた景色が、悲しみをぼやかしている。
ホント、ズルイ・・・・。
私は、人ごみで溢れかえった街で、立ち止まる。
どこからともなく、陽気な音楽が流れてくる。
世の中ってホント、ズルイ・・・・
悲しい言葉でさえ、浮かれたリズムに変えている。
・・・・・・私が、弱すぎるだけ?
あなたが、欲しかったから、すべてをあなたに捧げただけなのに・・・・
私があなたの前で、いくらおどけて見せても、あなたにはきっと痛々しかったんだね。
あなたが去って、夢から覚めれば、待っていたのはつまらない現実だけだよ。
最近、この街は寒すぎて、そのせいか、なぜか淋しく感じないの・・・・
涙も、もう、出ないよ。
今ならきっと、「さよなら」できそうだよ。
心にとげとげしく刺さった別れの言葉さえ、今じゃ心地いい痛みだよ。
あなたにはわかるはずもないよね?とまどいながらも愛したあの日々も、いい思い出も。
あなたの携帯番号もとっくに消したよ。
世間が悲しみをぼやかしてくれるから・・・・・
世間が悲しい言葉を浮かれたリズムに変えてくれるから・・・・
でもね・・・・
でも・・・・
私の頭の中は、消してくれないの・・・・
あなたとの思い出も、携帯番号も消してはくれないの・・・・
“プルルル、プルルル、プルルル・・・”
「はい・・・・・」
世間より何より、あなたが一番、ズルイ・・・・
「もしもし、どうしたのー?あ、わかった・・・・新しい人とうまくいってないんでしょ?」
・・・・・私が、一番、ズルイの?