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18話

 その日、いつものようにぼーっとテレビを眺めていた。

 ぼーっと、ぼーっと、今日は麻婆豆腐が食べたいな。

 朝の情報番組の途中で料理コーナーが始まり、わたしのお腹に合わせて麻婆豆腐を作り出したおばちゃんに感謝しながら、しっかりと作り方を見ている最中、インターホンが鳴らされた。きっと回覧板かなにかだろう。無視しちゃえ。

 なるほどなるほど、麻婆豆腐はわたしには作れない。

 確信しちゃったよ、神様の確信は絶対だからね。もう作れないね。やっぱりここは家事全般担当の秋人に頼んじゃおう。

 わたしの夕ご飯が決定した直後、再びインターホンが鳴らされた。今度は三連打。

「ぐぬぬ、出ろと、出ろというのですか人間様」

 わたしは床を這いずりながら玄関まで行き、ようやくそこで立ち上がった。そして鍵を開けて顔をのぞかせる。

 そこにいたのは明らかにおばちゃんではなかった。制服は秋人と同じで、少し厳つい感じの顔。

 わたしの手は考えるよりも先に扉を閉めようとするが、しかし扉に手を掛けた男の力を振り切ることは出来ず、あっけなく再びの対面。

「ど、どうもー」

「ちょっと来てもいますよ、朧君からの命令でね。あ、騒いだらなにしても良いって言われてますんで」

 にやにやとわたしの体を嘗め回すように見た少年は、わたしの手首を掴み小走りに歩き出した。

 頭がこの状況にまったく追いつかない。なぜわたしは誘拐されているのか、なぜわたしはあの男元につれられていくのか。

「ちょ、なんでわたしを連れて行くの」

「あんたの親戚のせいですわぁ」

 親戚と聞いてわたしの全身に、ビビビと電流が走る。

 そしてすぐさま脳内に浮かび上がるのは、作戦その二。

 このまま捕まって、きっとやってきてくれる秋人とあの男のやり取りを、全て神様パワーで学校に映像として送りつける。

 学校に行ったおかげで、少しばかり学校の構造はつかめているもんね。生徒の集まりそうなところに映像で送ってやれば悪者はやっつけられる。これは誰かのためであり、わたしの仕返しでもある。

 少し危ないけど、いざというときの神様パワー。

 ふふふ、神とその身内に手を上げたらどうなるか思い知らせてやる。

 ちょっぴり生まれた不安はココロの奥底にしまいこんでみないフリ、「そろそろで着きやす」と小物感たっぷりに言われ近づいていた場所は神社だった。これまた神様が活躍しそうな舞台。あとは秋人が来てくれるのを待つだけ。

 来てくれるよね?

 着いた神社で待っていたのは、三人の人間(男)そのうちの一人はとっても嫌なやつ、そして今回のある意味主人公。

「おい、手足と口、縛っとけ」

 にやにやと気持ち悪い笑みでわたしを見下げている朧とかいう人間を、思いっきり睨んでやる。しかしすぐに鋭い視線でにらみ返してきた。

 か、神にその態度……ただものじゃない?

 わたしは静かに手足を縛られた。すこしゆるめに縛ってくれた下っ端君たちには少し、刑が軽くなることを願っていよう。

 朧が手足を縛られたわたしに、携帯を向ける。そしてパシャリと乾いた音とフラッシュを焚いて、今のわたしをカメラに収めた。

 きっとそれを餌に秋人を呼び出すのだろう。

「いやー京介君、始業式に決行するなんて大胆すね」

「あぁ? そうか? サボれてラッキーじゃねぇか。そうっすよね、朧さん」

「おい、始業式じゃなくて終業式だぞ。朧君、今日なら生徒が全員体育館に集まってて会長がでしゃばれないからすっよね」

「お前ら、黙ってろ」

 この不良集団の会話から、わたしは中継先を体育館一箇所に減らすことが出来た。おかげで多少楽になる。しかし、その分大画面で、最大サイズで生徒の諸君にお届けしなければならない。まあ、その分効果が大きくなるし、よしとしよう。

 どうやら、というか当然っぽくもあるけれど、リーダーの言うことは絶対であるらしく、『黙ってろ』と言われて以降誰一人として口を開くことは無かった。

「とりあえずこいつ、賽銭箱の上にでも乗せてきましょうか?」

「わざわざそんなことする必要ない」

「いやいや、朧さんこういうのはインパクトが重要っす」

「わかった、好きにしろ」

 朧の口調と目からは面倒くさいから仕方ないな、見たいな感じが滲み出ている。

 それに気付かないのか、気付かないフリをしているのか、下っ端たちはわたしの肩と足を二人に分かれて持ち上げると、そのまま賽銭箱まで運んでいく。ついでとばかりについてきた朧と、もう一人の下っ端は、日陰に腰掛けたり、この場所へと続く坂道の直線上に立ってボス感を演出したりしている。

「京介君、タイムリミットくらい指定しておいたほうが良かったんじゃないですか?」

 下っ端Aの指摘に、一理あると思ったらしく朧はダンマリ。わたしはニンマリ。

 おかげさまで秋人の遅刻でわたしの身に危険が及ぶことはたぶん無い――はず。きっとそうだと思いたい。

 賽銭箱の上に乗せられてから経った時間はそんなに長くないはずだけど、腰骨の辺りが賽銭箱の硬い材質とぶつかり合って少しばかり痛む。

 うぅ、早くこーい!

 そんなわたしの声が届いたのか、足音が近づいてくるのが分かる。

 増援くらい連れてきているのだろうか、と僅かに頭を過ぎる心配事はある意味見事に的中し、たった一人での登場だった。せめて綾乃か綾乃のお兄さんを連れてくるべきだったんじゃないかな?

 そんな意味合いも込めて、賽銭箱の上に神様が転がっているという状況も含めて、照れ笑いでわたしは秋人をお迎えした。

 一応神様がいる場所だから、お迎えする立場のはず。

 秋人は少し引きつった顔で、大胆にも大声で、ハッキリと挑発の言葉を口にする。

「朧京介! 今日はお前が地に落ちる日だ、今日までの分、全部まとめて返してやるっ!」

 と。

 直後朧は遠慮など忘れて思いっきり拳を秋人の右頬にめり込ませた。朧の渾身の一撃を食らった秋人は耐え切れず後ろに吹き飛ばされ、地面に即頭部を強打する。

 一瞬目を逸らしそうになってしまうが、わたしは目を逸らさずに直視する。目を閉じることすらも許されない。

 それはもちろん、わたしの見ている映像を、そのまま体育館に映し出しているからでもあるけれど、そもそもわたしがいなければこうはならなかったのではないかと思える今の状況を、見ないでやりすごそうだなんていう考えは、神様として失格な気がするから、わたしはしっかりと見届ける。

 人に対して神が出来ることなんていうのは、本当に小さなことだけなのだと思い知らされているようなこの状況に、わたしは手出しをすることを禁じられているような気になってしまう。

 わたしの意識の端には学校側の状況もぼんやりではあるが伝わっていた。

 生徒も教員も、これが現実なのか理解できていない様子で今起こっていること呆然と見ていた。一部教師は映像を止めるための様々試してはいるようだけれど、あまりに直接的すぎないレベルで出来るわたしなりの人助け、人間がいくら頑張っても悪いけれど止めることは出来ない。

 次第にこれを現実と理解したのか、泣き叫ぶものや喚き散らすもの、それでもやはり黙り目を見開くことしか出来ないもの、様々いる。

 しかし綾乃は、口を真一文字に結び、毅然とした態度でことの終わりを見届けようとしているようだった。

 もう良いだろう。

 もう良いだろう。

 もう良いだろう。

 三回呪文のように唱えたところで、わたしは下っ端と朧、ついでに秋人にのみ聞こえるようにパトカーのサイレン音を鳴らす。

 本当に彼らの元に警察がやってくるのは、全てを見終えた綾乃の、生徒の、教師の判断に任せよう。まさか彼らを野放しにしておこうとはすまい。もしそのときは、わたしがしっかりと責任を持って天罰を下そう。

 神様として。

 同居人として。

というわけで、18話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

なにか意見等ございましたらコメントお願いします。

本作に反映できるかどうかは、作者の時間しだいですが、次回作を書く際に参考にさせていただきます。

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