16話
その日の晩、俺の気分は最悪。
なぜ昼間にあんなことがあったのに、夜には顔を見合わせて晩御飯を食べなきゃならないんだ。
愚痴をこぼしながら俺はぼーっとフライパンを見下ろしていた。
「ちょっと焦げ臭くない?」
優香の声にハッと顔を上げると、フライパンの上でハンバーグが黒くなっていた。
焦げ臭さの正体を探るために台所までやってきていた優香は、顔をしかめながらハンバーグを見つめていた。
「焦げちゃったね」
「やっちまった、ごめん」
なにを思ったか、焦った様子で優香は腕をぶんぶんと振り回す。
「いやいやいや、気にしてないから。大丈夫、焦げたくらいで食べれなくなったりしないから」
「そうだな、まあ今から作り直すのも面倒だし、今日は我慢してくれ」
「へーきへーき」
にこにこと笑って力こぶを優香は俺に見せてくる。
なにを表現したいんだ?
苦笑いとため息を混ぜたような複雑な心境をなるべく表に出さず、顔面でクエスチョンマークをひたすらに浮かべ、そして俺たちはなんとなく流れで夕飯の用意を二人でしだした。
優香が皿をだし、俺がそこにハンバーグを載せ。
優香が茶碗を用意し、俺が米を盛る。
付け合せの野菜と味噌汁を用意するのは当然のごとく俺で、優香は気が付けば自分のハンバーグと茶碗を持って椅子に座っていた。
今度は素直に苦笑いをしながら残りの食事をお盆に乗せて運ぶ。
「いただきまーす」
優香は大きな声で言うと、俺の知らぬ間に手にしていたポン酢をハンバーグにぶっ掛け、それらを米と一緒にかきこんでいく。
ぱくぱく、むしゃむしゃ。
ぱくぱく、むしゃむしゃ。
二人の間に流れる音は、脳内で補填される咀嚼音とテレビから流れてくる笑い声のみ。
優香はどう思っているか分からないが、俺としてはすごくそわそわとする、落ち着くことの出来ない食事だ。ついでに気まずくもある。
これは俺からどうにかするために、何かしらのアクションを起こすべきなのだろうか。
俺がうだうだと考えている間も気まずい空気は、改善されるきっかけを待っている。意を決し俺は口を開いた。
「あのさ、なんで学校に来たんだよ」
直後後悔が俺を襲った。
どう考えても別のことを言うべきだった。なぜ、こんな自ら空気を重くするようなことを口走ったのかは、正直俺にもわからない。意を決して、考えなしに口を開いた結果がこれである。やはり口は災いの元、気をつけなければ。
「力になれるかなと思って」
その発言によって怒りが湧き上がってくるのを感じたが、グッと堪えて平静を保ちながらやはり口にするのは悪態だった。
「むしろ逆効果。つーか働かない神様じゃなかったっけ」
「別に働いてないもん」
「いや、十分労働に入るだろう」
「困ってる人、苦しんでる人を助けるのは働くのとは違うよ」
「は? 別に俺苦しくねぇし、困ってもいねぇから」
静かに少しばかり温かさを滲ませる優香の言葉に、俺の口調は荒さを見せだしていた。しかし、優香は臆すことなく言葉を続けた。
「強がりは止めようよ? 私は君がすごく辛そうに見える」
頭の中で何かが千切れる音がした。
「強がってねぇよ!」
一瞬のうちに何かを突き破って現れた怒りは、押さえが利きそうになく、このままでいれば必ず暴れだしてしまう。そんな気がしていた。
怒りに悶える俺を、冷静な俺が静かに見ている。そんな不思議な感覚に囚われた。冷静な俺が、体を自分の部屋へと移動していく。しかし、怒りに悶える俺が、足を強く床に打ちつけながら歩いている。
どうにか部屋までやってきた俺は、ベッドに潜り込む。そしてひたすら大声を上げた。意味も無く、わけもわからなく、ただただ怒りに身を任せ、どれほど怒りが散るのかも考えず、ひたすらに大声で叫び続けた。
ほぼ気を失う形で眠りに落ちるまで、俺はその行為を続け、その間優香は一度たりとも部屋に近づいてくることは無かった。
というわけで、16話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
なにか意見等ございましたらコメントお願いします。
本作に反映できるかどうかは、作者の時間しだいですが、次回作を書く際に参考にさせていただきます。




