表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

12話

 小鳥の鳴き声が気持ち良い朝、体調を考えると明日からは学校に行かなければならないだろうと脳みその片隅で考えながら、のそのそと布団を出た。

 自室を出て向かう場所といえば俺はとりあえずリビングだった。朝食の確保と、パソコンの回収をせねばならない。リビングについてすぐに目に入ってくるのは、パソコンに顔面を押し付け心地良さそうに寝息を立てる優香。

 昨日は寝ずに何かをしていたということか。

 起こさぬように細心の注意を払い、パソコンを回収すると、念のため履歴を表示させた。

 プライバシーを侵害していると人によって見えるかもしれないが、それを言い出せば断り無く人の物を持ち出し使用しているグータラの神様も問題があるので気にしない。

 表示された履歴には『神様』という文字が散乱していた。しかしちょいちょい自分の名前や、『神 ニート』などと検索している辺り、もしかすると自分の偉大さを俺に見せつけてやろうという意図があったりするのかもしれない。

 これが単に本来の神の働きっぷりの調査の為ならば、優香にとってきっと素晴らしい勉強になったに違いない。

「ちょ、なにしてんの」

 まだ起きたばかりで言葉尻に迫力が感じられないが、まあ優香は怒っているらしかった。目をごしごしと擦りながら、立ち上がった優香は、パソコンへと手を伸ばしてきた。

「こっちの台詞だ」

 寝ぼけたままの繰り出される攻撃は、さらりとかわし、偉大さに欠ける神様の頬を指しながら一言お節介を焼いてやる。

「よだれ、付いてるぞ」

 ほんのりと頬を朱色に染めると、俺に一言のお礼も言わずにリビングを出て行った。洗面台で俺の言葉の確認を行なっているのだろう。

 自分で指摘しておきながら、今更のようにパソコンのキーボード部分に目をやる。

「よだれは――付いてないよな?」

 じっとキーボードとにらめっこを続けるが、至って不審な場所は見られない。大丈夫だった、ということで納得しておこう。

 確認を終えてから少しすると、まだ少し顔を赤らめた優香が帰ってきた。

「今から出かけるから、付いてきて」

「おいおい、怪我人連れ歩く気かよ」

「リハビリだと思って、付いてきて」

「いやいや、俺学校休んでる身だし」

「いいから来るの」

 どうやらまだ怒りが収まっていないらしい優香は、俺の腕を強引に引っ張って家を飛び出した。

 外に出ると、強い日差しが俺たちを焼き焦がそうと必死になっている。

 なんで休んでるのにこんな目に遭わなきゃならないんだ。というか、俺の寝巻きがそのまま外に出てもそこまでの違和感を見ている人に抱かせるものでなくてよかった。優香は、なぜだかついでに着替えてきている。

「どこ行くんだよ」

 俺の手を引き早足に進んでいく優香に問いかけた。

「神社」

 ぶっきらぼうに優香は言う。

 近所に神社なんてあっただろうか? 大して自分の住んでいる地域に詳しいわけじゃないが、しかし神社があったような記憶はない。近所で行なわれる夏祭りなどはもしかしたら神社で行なわれているのかもしれないが、そんな物に行ったことの無い俺にとっては、記憶をどれだけ掘り起こそうとも神社の面影が姿を現すことはなかった。

 優香に手を引かれながら歩いた時間は、割と長く、十分程度にはなるだろう。

 そして十分手を引かれた結果たどり着いた場所は、優香の宣言していた通りに神社だった。

 神社と言っても、有名な大きい神社というわけではなく、町の片隅にあるような少し寂れた神社だ。もしかしたらここで夏祭りくらい開かれているかもしれないな。

「で、ここでなにするんだ」

 社を見上げることが出来る場所は、木の陰が出来ておらず、思わず俺は退避してしまう。しかし、あえてその場に留まる優香に、俺は早朝からの散歩の理由を問うた。

「こんな神社を持つ神様になって見せるぜ! って言いたかったんだよ」

 呆然と神社を見上げている優香は、過去形を使っていた。

「はぁ、それで?」

 自分から続きを口にする雰囲気の無い優香に、続きを催促する。すると優香はゆっくりとではあったが、続きを口にしだした。

「いやぁ、来てみるとさ、正直今のままで良いかなーなんてね、思っちゃったわけですよ。ここ、神様居ないしさ」

「神様居ないのかよ」

「うん、居ないっぽい」

 真夏の神社。神不在の社。優香はそれらを見ながらなにを思っているんだろう。何を考えているのだろうか。

 これ以上、俺が何かを口にするのが良くない事の様に感じられる雰囲気に包まれている優香を、俺はただただ眺めていた。彼女の気が済むのをひたすらに待ちながら、セミの鳴く声と、風に揺れ擦れる葉の音、世界から隔離されたような静けさに包まれる神社は、とても居心地がよく、不思議と暑さも気にならなかった。

 しばらくすると優香が社を見上げるのをやめて、顔を俺に向けた。

「よし、帰ろうか」

 少しすっきりした表情で優香は微笑んでいた。

「もう良いのか?」

「うん、もういいや。よーし、家まで競争だー」

 嬉しそうに笑う優香は、俺を置いて走り出す。

 少し長めの坂道を抜けると、普通の歩道へと出る。そこからはほぼ一直線に続く道を走っていくだけ。ここに来るまでに覚えた道を、脳内で地図として思い浮かべ先に走り出した優香の後を追っていく。

 優香を追いかけ、歩道に出たところで人とぶつかった。

「すいません」

「あ、いえ」

 爽やかな青年が立っていた。俺の目線の先には後ろを振り向いて首を傾げる優香が居た。俺は手で先に行け、と合図を送るが、なにを勘違いしたのか小走りで寄ってくる。

「あれ? 御影君」

「秋人、どうしたの?」

 わざわざ小走りでやってきた優香の表情は、優香の声を聞いて振り返った朧を見て凍りついた。

「御影君、こちらの方は?」

 爽やかスマイルは依然崩さずに、優香を指して紹介を求められる。

 心臓がはち切れそうなくらいに激しくポンプの動作を繰り返す。心臓に激しい痛みを感じながら、俺は思いつく限りでもっとも自然な答えを口にした。

「遠い親戚です」

「ああ、なるほど。悪いけど、僕たちこれから遊びに行くことになってね」

 朧の爽やかな笑顔にも動じることなく、優香はひたすら固まっていた。

 良い解釈をすればイケメンを見て驚きのあまり動けない、そんな感じだ。しかし、実際はその真逆なのだろう。

「先帰ってろ、俺もそのうち帰るから」

 優香はコクコクと頷くと家のほうまで走っていく。途中で振り返った表情が、俺を心配するような顔だったのが嫌に、脳みそにこびりついていた。

「俺さぁ、仕事してんだよ」

 俺は首を縦に振った。

 声も出したつもりではいたが、そんな物はかすれてすら、出てはくれなかった。

「最近ストレスの溜まることが多くてなぁ」

 俺の肩に手を置いた朧は、そのまま神社内部へと俺を誘導していく。さっきまでは心地よかった静けさも、今となっては恐怖の対象でしかない。

「出来れば、安全確保のために何人か人は呼びたかったけど、もう良いや」

 そう言うと朧は俺を地面に突き飛ばす。何の因果かそこはさっきまで優香が立っていた場所だった。

「どうせこんなとこ人来ねぇよな!」

 振りかぶった握りこぶしが迫ってくる。ゴツゴツとした右腕が狙っているのは間違いなく俺の顔面。

 ヤバイ、顔面に殴られた跡なんて付いてたら誰になにを聞かれるか分かったもんじゃない。そこからバレたりしたら、朧が切れてなにをしだすか、言い出すか、まったくもって想像がつかない。

 それにあの石のように硬そうな拳が当たったら痛いで済むだろうか?

 そこまは俺の意思によって巡らされていた思考。しかし次の瞬間動かされた体は確実に、無意識の産物で、例の小人さん達の暴走といえそうだった。

「うわぁっ!」

 声を上げたのは俺でなく朧、声を上げた理由は、俺の腕が勝手に動き、俺の手が勝手に掴み放った砂が目に直撃したからだった。

「ふざけるなよぉ」

 震える声で朧は言う。充血した目に込められているのは悲しみなわけが無く、ただひたすらに怒りだった。

 その声は、俺の恐怖心により強く火を点し、体を不恰好にではあるが動かした。フォームなどぐちゃぐちゃで、リズムなど滅茶苦茶で、しかしなぜか視界からいろいろなものが流れて消えていく程度の速さで走っていた。

 決して朧が追ってくるということは無かったが、俺はひたすらに駆けた。自宅へ向け、安全地帯へ向けて足を動かした。

というわけで、12話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

なにか意見等ございましたらコメントお願いします。

本作に反映できるかどうかは、作者の時間しだいですが、次回作を書く際に参考にさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ