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Stockholm syndrome  作者: かも
第2章
8/32

Stockholm syndrome 6


歪な関係を要求してくる君。

君をそうさせたのは他でもない僕。


だって、君を攫ってしまって救いだせたのは僕しかいないのに、僕はそれをしなかった。








「え?帰るの?」


早朝から間の抜けた声で思わず聞き返してしまい、その直後に、その言い様ではまるで帰ってほしくないみたいではないか、と僕は自分の失言を自覚した。


「本当は貴女の期待に応じて居座り続けたいところなんだけど、パパとママには何も言わずに来ちゃったからね。一度、とりあえず帰らなきゃ」


案の定、僕が彼女を引き止めたくて言ったかのように思われてしまったが、律儀に説明をしてくれるあたり、こちらの言いたいことを本当は分かっているのだろう。


パパということは、あのエリック氏、ということか。


改めて、彼女はとんでもない社長令嬢なのだな、とつくづく思う。


新たな商品が出るたびに、時にはニュースで、時には雑誌のインタビューで。

経済にあまり関心のない人間でも、誰でも一度は彼女の父の顔を知ったことがあるだろう。

彼はさながら芸能人のようでもある。

50を超える年齢にも関わらずいつも若々しく溌剌とした人物で、いつも白い歯を輝かせ飄々とメディアからの取材に応えているので、チャーミングさに惹かれファンとなる世の女性も多いそうだ。


ついでに言うと、メルシーの母親の方も、父に劣らず有名でオーラのある美しい女性だ。

彼女の方は元々本職がモデルという本物の芸能人なだけあって、なるほどそんな二人の間に生まれたメルシーも抜群の容姿とオーラを兼ね備えているというわけだ。



女学校時代から、彼女はとにかく目立ってい

た。


家柄、両親、容姿と、彼女には本当に何から何まで揃っている。


一応は私立だが、なんでこんな特別な子がうちの学校なんかに通うのだろう?と在学時に疑問に思った生徒は数知れず。

僕だって、漏れなくその内の一人だった。


どう考えても一般人が肩を並べられる存在ではないスペックの違いすぎる彼女に、はじめは誰もが距離を置いていた。


黙って佇んでいると華のある美少女にしか見えなかった彼女が、想像もつかなかったほどの我の強い性格と金目で人を釣るという悪い癖を披露すると、生徒達は一気に距離を縮める者、さらに距離を置く者とに二分されていった。


そのどちらにも属しきれずに、ぽつりと取り残されたところをメルシーに目をつけられたのが、僕だった。


この時僕が悪目立ちさえしていなければ、昨日今日とでいきなり彼女に金で雇われ"恋人"にされることだってなかったはずだ。


恋人とはいっても、メルシーにとってはきっと女学校時代僕らが行なってきた攻防戦の延長のようなものなのだろう。


昨夜だって、結局二人で数本あったワインのストックを全て空にしただけで、それ以上のことは何もなかった。


もちろん、いきなり何かあってもらっても困る。僕はまだ仕事内容すらきちんと教えてもらっていない新人以前の研修生だ。



新しく仕事をはじめる時というのは、これから上手くやっていけるのだろうかという不安や責任が付きまとうものだ。


だがそれ以上にこの不誠実な仕事内容に、僕は罪悪感で強く押しつぶされてしまいそうだった。





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