Stockholm syndrome 10
自分の子どもがもしも突然ふらりと姿を消してしまったら、心配しない親は恐らくいないだろう。
子どものことを愛している親なら、尚更のことだ。
今目の前にいるメルシーの両親だって、きっとメルシーのことを愛しているからこうして僕の家までわざわざ駆けつけて来ているのだ。
正直、はじめは非常識だとも思ったけれども、どんな親だって子どものことを第一に考え行動する筈だ。
僕の両親だって、いつだって子どもである僕のことを第一に考えてくれている。
今はメルシーの両親との事をなんとかしなくてはならないというのに、僕はぼんやりと僕の両親のことを考えていた。
「あのね、ママ。一応誤解を解きたいのだけれども、別に私この人に引き留められていたわけじゃあないのよ」
初対面の時から変わらず僕を快く思っていない様子でい続けるアレット。
そんなアレットの気を解こうとメルシーが僕の弁明に回る。
そもそも、メルシーがずっと僕の家にいたという嘘をでっち上げたのは他でもないメルシー自身だ。
僕だってメルシーに振り回された一人なのだから、そこは責任を持って僕の無実を証明してほしいところだ。
「じゃあ、貴女が望んでこのミッシェルさんのお宅に居座り続けていたのね?そしてミッシェルさんも、それを許していたという訳?」
僕とメルシーはこくりと頷いた。
すると突然エリックが椅子から立ち上がり、
「近頃の若者はなかなか情熱的でよろしいじゃあないか!共に暮らし、共に愛を囁き、共に愛を誓う!そんな素敵な恋人が君に出来てくれて僕は嬉しいよメルシー!」
雑誌のインタビューのそれよりも随分と熱のこもったスピーチに僕が圧巻されていると、慣れきった様子で妻のアレットが夫を無視して質問を続ける。
「けれどもメルシー、私達に何も話してくれていなかったのはどうして?貴女の恋人が貴女と同じ女性だったから?」
「ママが昔いた芸能界にだってそういう人達はいたでしょう?別に隠していたつもりなんてないわ」
「けど、何か後ろめたいものがあるんじゃないの?私達に反発して彼女に走ったとか」
「お言葉ですが、僕たちは勝手に惹かれ合い付き合いだしました。後ろめたい理由がなくては同性同士惹かれあってはいけませんでしょうか?」
何をムキになってしまっているのか、両者の間につい僕は口を挟んでしまっていた。
隣のメルシーも、少し驚いている様子だった。
「人が人を好きになるのに、どうして第三者が悪く言えるというんだい?」
思わぬ形で答えてくれたのは、今だに椅子から腰をあげたままのエリックだった。
「僕と妻は、娘の選んだ相手が問題のない良い人でさえあればとやかくは言わない方針だよ、ねぇ?」
小首を傾げて妻の同調を促す彼にアレットも、こほんと咳払いをひとつしてから、
「勿論そうに決まっているわよ。けれども、あんまり親を心配させないで」
と少しむくれてみせた。
ここ数日の間にメルシーと両親との間に何があったのかは把握しきれていない僕だが、なんとか丸く収まってくれたのだと、素直にほっとした僕だった。




