意外な繋がり
「いただきます。」
まな板を犠牲にできた親子丼はなんだかんだ美味しい。
イライラしてもお腹は減るわけで、それに、あの特注まな板を拳で凹ませるなんてことは、人間には不可能という考えもあり、私はこいつがアンドロイドと認めつつあった。とっても硬かったし・・・。
「どうでありますか?知る人ぞ知る、20年前に廃業した、「とりとり亭」自慢の親子丼にも引けを取らない味でありましょう!」
胸を張りながら表情は変わらないが、自慢げな雰囲気が見える。
というか、廃業しちゃったお店ってなんとも反応のしにくい言葉だ。
「美味しいっちゃ美味しいけど、あんたアンドロイドだって言うなら味なんてわからないんじゃないの?」
私は素朴な疑問を投げかけてみる。ロボットが味を感じるなんて聞いたことがない。
「?いや、美味しいでありますよ。他の親子丼も食べたでありますが、ここには勝てないであります。沢庵は即興では作れないので、市販でありますが・・・。」
どこか残念そうな雰囲気だ。私からすれば沢庵とかどうでもよいのだが。
しかし、ロボットが味がわかるなんて驚きだ。
どうやって味を感じているのだろうか?
「それに、とりとり亭の親子丼は静香も大好きだったでありますよ。」
アンドロイドの味覚について思考中に不意打ちをくらった、え・・・。静香?今、アンドロイドは母の名前を呼んだ。
「ちょっと、あんた今なんて言ったの?」慌てて私は聞き直す。
「ん?沢庵は即興では作れないであります。あれは、」
「そこじゃないわよ!」
首を傾げながら怪訝そうな顔でアンドロイドはこっちを見ている。そこじゃない、確かにこいつは母の名前を・・・、
「イブはね、静香の友達なんだ。」今まで黙々と親子丼を食べていた父が口を開く。
「静香はとりとり亭の親子丼が好きで、よく僕とイブを連れて行っていたんだよ。」
・・・衝撃だった。ただのアンドロイドではなく、母親を知っているなんて・・・。
「志樹は毎回、静香にメニューを決められていたでありますな~。」
アンドロイドは懐かしむように言う。
「静香は欲張りでありますからな、お昼のたびに、親子丼と・・・カツ、いや天ぷら・・・と悩んでいたんでありますよ。」
「そうそう、静香が親子丼の次に食べたいものが、僕のお昼になってたんだよ。」
後頭部をかきながら、あははと苦笑する父。きっと母にかつ丼な!天丼な!と言われるたびに、この仕草をしていたんだろうと容易に想像できる。
父は昔から母に甘いのだ。
溺愛と言っても過言ではないくらいにデレデレだった。
「ご馳走様でした。」
両手を合わせて会釈する。気に入らない人が作ってくれたとしても、感謝はしなければ、マナーは大切である。
「お粗末様であります。」
結果を言うと親子丼は、とても美味しかった。卵の火の通り加減といい、味付け、玉葱の柔らかさも完璧でまた食べたいと素直に思える味だった。
「さて、食器洗いも気合をいれて取り掛かるであります!」
イブは腕まくりをしながら、気合十分である。・・・ズドン!!ふと、あの爆撃音とクレーターが私の頭にフラッシュバックした。「い・・・いいわよ!あんたはソファーにでも座ってなさい!」
慌ててイブからスポンジを奪い泡立てる。
こいつにこのまま好き勝手やらせてしまっては、私の家の台所が廃墟とかしてしまう!
「む、家事はメイドの仕事であります!今はここが私の戦場でありますから、任せるのであります!」
妙に納得してしまうような事を言い出すアンドロイド、おバカそうな話し方をするくせに正論を・・・。
しかし、引き下がるわけにはいかない。父はソファーに座ってのんびりとお茶を飲んでいる・・・。なぜあんなにのほほんとできるのであろうか・・・。
父があの状態の今、この家を守ることができるのは私だけなのだ。
・・・ただどうすればいいのだろうか。
この短時間ではあるが、このアンドロイドがとてつもなく頑固であることが判明した。
どう説得すれば・・・というかすんなりと認めてしまいそうになった・・・。
「ちょっと!なんであんたが、この家のメイドみたいな感じになってんのよ!」
冷静に考えると私は、こいつがアンドロイドということは認めつつあったが、我が家のメイドになる。なんてことは一切認めていないのだ。これだけは譲る気はない。
そんな私の確固たる意志を全く汲み取る素振りも見せず、イブは目を丸くし(多分そう見えた)ながら言った。
「なにを言っているでありますか?決定事項でありますよ?」
「なにを言っている、はこっちのセリフよ!あんたなんて初めて見たし、来るなんて聞いてないわよ!!」
「おかしいでありますな。今日来ることは1ヶ月前から決まっていたでありますが・・・。」
顎に手を置き目を細めるアンドロイド。こう見ると人間にしか見えない。
しかし、1か月前から決まっていたなんて・・・嘘をついているようには見えない。
「あんた、それは本当なの?」
「む、家事はメイドの仕事であr」
「そこじゃないわよ!!」
疲れる、やっぱりおバカである。本当にアンドロイドなの?なにかのウイルスに侵されてるんじゃないかしら。
しかし、アンドロイドが嘘をついていないとしたら、と結果は一つしか私には思い浮かばない。
「お父さん?少しお話があります。」
私は満面の笑みに、こめかみに青筋というオプションをつけて父を見る。
ソファーに座ってお茶を飲んでる父が恐る恐る振り返る。
「あはは・・・えーとだね。言わなかった・・・かな~?」
後頭部を掻きながら苦笑いしている父。
「はぁ・・・。聞いてないわよ。初耳。」
なぜか私は父に弱い。というよりは甘い。あの仕草を見ると大抵のことは許してしまう。
母の遺伝だろうか・・・。
それに今日は突拍子もないことが多すぎて疲れてしまった。
「ごめんよ。凛。もっと早くに言おうと思ってたんだけど、ごめんね。」
近寄ってきて私の頭を優しく撫でる父。まったくもって卑怯だ。
「今日の所はお父さんに免じて許してあげる。でも、まだ認めたわけじゃないからね!」
父は優しい笑顔を崩さず私の頭をなで続ける。
「うん。ありがとう。」
いつもこれにやられる。この父の笑顔や仕草は卑怯だ!と母も愚痴っていた(私にはのろけに聞こえていたが)のを思い出した。確かに卑怯だ。
「でも、お父さん。」
「ん?なんだい?凛。」
私はため息交じりに言う。
「そこのフライパンを洗う・・・もとい曲げてるアンドロイドが、私のお気に入りのコップを割ったら一生口きかないからね。」
父は、「あはは・・・。」と乾いた笑いをこぼしながら慌てて台所に駆け込む。
「こら!イブ!なにをやってるんだい。洗い物は僕がやるから君はソファーで休んでなさい!」
「言わなかったでありますか?家事はメイドの仕事で」
はぁ・・・。また言っている。今日だけで何回あのセリフを聞いただろうか。
洗い物に関しては、まぁ父がついているなら大丈夫だろう。
なんだかんだ、ふわふわしている父だが頼りになるのだ。
「おやすみなさい。」
二人に挨拶をする。
今までの人生の中で一番疲れたかもしれない。疲労困憊である。
もう歯を磨いて、着替えて寝よう・・・。
「「おやすみ。であります」」
台所から聞こえてくる声に、もう一度おやすみーと返し、今日の怒りと驚きと呆れの私の一日は終わった。明日はもっと静かになりますようにと願いながら床についたのであった。




