ファーストコンタクト
第1章 出会い
「お父さんなんて大っ嫌い!」
自宅の玄関で私は大声を出して叫んだ。
こんなことを父に対して言ったのは初めてだったし、悲鳴に近いほどの声を上げたのも久々だった。がしかし私は声を荒げざるおえなかったのだ。
母が亡くなってから、亡くなる前から私は父が大好きだったし、尊敬していた。
母のことが大好きだった父を私も大好きで一緒に遊んで、お風呂に入って、ご飯を食べて一緒に寝るくらいに大好きだった。
しかし今その父に対して殺意とも取れるほどの視線を向けている。
「あははは・・・視線で穴が開きそうだな・・・。」
父は頭の後ろに手を当てながら苦笑いをしている。
しかし私にとってそんなことは関係ない。むしろ穴が開いてその後ろの女に刺さればいい!とすら思っている。
父の後ろにはメイド服と呼ばれる服を着ている女が立っている。
しかも眉ひとつ動かさないでじっとこちらを見ているのだ。
整った顔立ち、青い瞳、白い肌に華奢な体。冷静に見れば彼女はとても美しい、が、
今の私にはそんな冷静に相手を見る余裕なんてなかったし、見る気すら起きなかった。
父が急にいつもより早く帰ってくるというからわくわくしながら待っていたのに・・・。
チャイムの音が鳴って扉を開けた瞬間、愕然とした。
知らない女が後ろに立っているのだ。無表情でそれもメイド服。普通の服ならまだしも。
意味が分からなくて頭が真っ白になって出てきた言葉が罵声だった。
それも仕方がないだろう、あんなに母が大好きだった父が、葬儀の時は一切涙を流さず、毅然としていたでも一人きりの時は嗚咽を漏らすほどに泣きじゃくっていた父、そんな父が知らない女にコスプレをさせて家に、しかも娘のいる家に連れ込むなんていったいなにを考えているのか!私にはさっぱり1ミリも1ミクロンも理解できないし、したくもない!
じっと父を睨み付ける。
「困ったな〜。」
相変わらずの苦笑い、いつもは大好きな父の顔も今日は嫌悪すら感じる程だ。
お互い一歩も動けないでいると後ろの女性が小首を傾げてこういった。
「なにを止まっているのでありますか?」
空気を全く読んでいない発言。それに一切表情を変えない。いったい今まで何を見て聞いていたのだろうか。
「あんたね!この状況見てよくそんなことが言えるわね!」
怒鳴りつけても彼女は眉ひとつ動かさない。
「そもそも私があんたを家に入れるとでも思ってんの!?なめんじゃな、きゃっ」
あろうことか父を押しのけ、私を抱えて家に上がり込んでいった。靴もいつも間にか脱いでいる。
「ちょっと!おろしなさいよ!この!」
いくら暴れてもびくともしない。こうなったら、背中へ肘打ち、しかも背骨に直撃させた。
「いっったーい!」
予想外だった。背骨に一撃、これは大人でも悶絶の痛さだと思ったのに、なんで!?背中に鉄板でもしこんでるの!?
「無駄な抵抗はやめるであります。」
強烈な一撃を背中に受けていながら表情を一切変えずにずかずか進んでいく。
とうとうリビングまで入り込んだ彼女は私をソファーへと投げた。
「きゃっ!」
背中からソファーへダイブ、怪我はしないだろうがこわい、こうふわっっとした感覚が苦手だ。
それにしても、まったくもって横暴だ、急に上がり込んできて、私を担いで投げる・・・どういう神経をしているのか不思議で仕方がない・・・。
常識がないってレベルではない、父も父で後ろを相変わらずの苦笑いでついてきていただけだし、自分の娘が女性に(私も女だが)しかも背骨に一撃をお見舞いしたというのに止めようとすらしなかった。父だって軍人の母と組み手をしていたのだから、私を止めることもできただろうに、一切そんなそぶりを見せずについてきた、そもそもあいつは何者よ・・・。
さっきから台所で「やはり初めは親子丼・・・これしかないでありますな。」とか呟きながら冷蔵庫を漁っているし、最早突っかかる気力すらない。
「なにかを作るのはいいが、加減を間違えて壊したりしないでくれよ。」
「あたりまえであります。」
あまりにも父と女性の普通のやり取りに、呆れながらソファにあおむけで寝ていると、父が顔を覗き込んできた。
「ただいま。」
今度は笑顔。いつもの私が大好きな父の笑顔だ。
「そんな顔しても許さないわよ・・・。私本気で怒ってるんだからね。」
だよねと、また苦笑いをしながら後頭部をかく父、困った時の癖だった。
「すまんすまん。でもな、凛。あの子はお手伝いアンドロイドで・・・」
「はぁ!!」
父の言葉を遮ってソファーから跳ね起きる。
「アンドロイド?あれが?どっからどう見ても人間じゃない!」
私がおどろくのも無理はない、彼女はどこからどう見ても人間である、友達の家にもお手伝いロボットはいる。しかしあんなに人間っぽくはない、どちらかというと人型の鉄の塊?あんな皮膚や髪、ましてや瞳なんてなかった。
今台所にいる女性はどこからどう見ても人間だ。
「もっとマシな嘘はつけなかったの?」
ジト目で父を睨む、あまりにひどい嘘だと思った。あんなに精巧なアンドロイドなんて見たことがない。
「だからな、凛。あの子は僕の友達のアンドロイドでだね」
「あーはいはい、わかったわかった。パパは機械の友達いっぱいいるもんね、あんなに綺麗で人間みたいなアンドロイドのともだっ」
ズドン!!
私が父に悪態をつき終わる前に大きな音が台所から聞こえた。
父を押しのけ、慌てて台所へ行くと真ん中がへこみ、クレーターができている木製のまな板があった。
「え・・・、あ・・・。」
私は絶句した。それもそのはずだ、まな板が拳の形にへこんでいる。元々力の強かった母用に父が知り合いに頼んで作ってもらったもので、とても頑丈!厚さにして10cm。
それがへこんでいる・・・。人間業ではない・・・
「あぁ〜、加減をしろと言ったじゃないか〜」
父が得意の苦笑いで少し呆れ気味に呟く
「む、しっかりとしたであります。卵は繊細という情報もしっかりとインプットされているであります。」
なぜか胸を張っている。とても偉そうだ。
「繊細?その情報は間違っていないのだが、なぜまな板がへこむのと卵の繊細さが関係あるんだい?」
私もそう思う、そもそも卵が見当たらない。さっき親子丼という単語は聞こえていたが、今卵は見当たらない。
見えるのは、無残にへこんだまな板と、あり得ない破壊力の拳だけ・・・ん?なにか両手で握っている?まさか・・・
「あんた!まさか卵握ってるんじゃないでしょうね!」
このアンドロイド(仮)の手を無理やり開かせる。
あった・・・。卵だ。あの特注頑丈まな板にクレーターを作るほどの衝撃をうけても、ヒビひとつ入っていない。
「卵は繊細!であります。」
ちょっとドヤ顔に見えるが私は呆れる事しかできなかった。
「結局割れてないじゃない・・・。」
結局アンドロイドの持っている卵は無傷だった。




