epilogue
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誕生祭の日から、数日。国民のお祭り騒ぎも落ち着き、いつもの生活に戻る頃、リリアーノは自室で一枚の手紙を読んでいた。
それは、形式的な文で始まり、それを崩さぬまま終わる。なんとも無機質な手紙であった。
だが、添えられていた花の意味に気付くとリリアーノは少し笑う。
あれから城は大いに荒れた。
まず、ダート伯爵家は国家予算の派手な使い込みや、更に裏で人身売買をしていたなどの余罪が次々暴かれ伯爵家は親族諸共取り潰しとなった。ダート伯爵は財産全て押収され投獄されることとなる。
王子については、この国の辺境の地を三年間治めるということになった。その地はこの豊かな国でも財政難が著しく、三年で黒字にできなければ王位を剥奪すると王はおっしゃった。
酷な勅命であるが、言い換えれば結果を残せば今回のことは不問にするということだ。
王子の罪を考えれば些か容赦なさすぎるのでないかと進言したけれど、王は『これ以上軽くしたら貴女の父と兄が許しませんよ、あの地は私も気になっていたのです。けれど身は一つ。セイルは馬鹿ですが優秀ですし、なんとかやるでしょう』と呑気に笑っていた。
若干酷いけれど、なんだかんだ王は王子を信頼していらっしゃるのだ。王は決して王子を愛していないわけではない。けれど、今回のこと、こうなるまで口を出さなかったのは将来王となるものとしての王子の度量を測る為なのではないだろうか。あの辺境の地を導けば王子は一回りもふた回りも成長するだろう。苦い勉強代となったが、王子は落ち込むことなく奮起なされた。あのストイックさが嘘のようにがむしゃらに励んでいると聞く。結局、手の内で踊らされたのは誰だったのかとリリアーノも苦笑するに留めた。
そして、アンジェであるが、何も知らなかった、と主張し罪には問われなかった。王子がアンジェを必死に庇ったのも大きいだろう。王子からの贈り物は全て返上し街へ戻った。
けれど、王子の愛も虚しく、辺境の地に飛ばされた王子とは早々に別れ、今は騎士団長と付き合っていると聞く。
驚くことに王宮にいる間に騎士団長とも親しくなっていたのだ。
アンジェと王子が出逢った時、ダート家の手の者が手引きをしていたそうで、ダート家の思惑にアンジェがなにかしら関わっていたのは間違いなさそうであるが、それも騎士団長が否定した。
曰く、護衛についていた者がアンジェの潔白を証明したと。しかし、その者はすでに退職しており、行方が分からない。二人の関係を考えれば騎士団長がもみ消した可能性も高い。
騎士団長は最近演習場に顔を出さず、近々降格処分が下されるそうだ。
最近ではアンジェが浮世を流すことで有名な貴族の美男子と寄り添っているのも目撃されており、騎士団長の元から彼女が羽ばたくのも時間の問題かもしれない。
本当に、底が知れないものだ、と王が以前言った言葉を思い出した。
世間の目はそれ程甘くない。何事も無ければ良いが。
リリアーノは、というとーーーー