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終わる日  作者: リタ
3/8

断罪3

 

「取り巻き、とは?侍女?変ですわね。わたくしの侍女は幼少の頃からアリアンテのみ。アリアンテは捕らえられてないようですが、その侍女は一体どなたでしょう?取り巻き、とおっしゃいましたが、名前を挙げることはできまして?」


 出来ないに決まっている。リリアーノに表立った取り巻きなど存在しない。影なら幾人かいるが。

 ……ああ、なんだか物凄く悲しい。



「それともわたくしの名を騙る誰かがアンジェさんを傷つけたのでしょうか?そうですわね。ダート伯爵様なら知っていますか?」


 微笑をそのままにダート伯爵、その人を振り返った。


「な、なぜ私が!」


 突然話を振られて不機嫌そうに髭を触る伯爵。伯爵は財政管理を担う役職についている。


「あら。知りませんの?事情通のダート伯爵様ならと思いましたのに。去年の帳簿、莫大な予算が不透明に消えていましたわ。ダート様は勿論、お気づきでしたわよね?その元がどこに辿り着くのか。そして半年前から国家予算が一人の采配で湯水のように使われておりますわね。管理するダート様は不審に思われなかった?」


「リリアーノ!何を言っている!」


 王子は今は関係ないだろ、と声を張り上げた。


「セイル様、国家予算を豪快に使っているのは貴方でございます」


「なっ!」


「アンジェさんへの贈り物、それがどこから支払われていると思いまして?ああ、ですが水増しされていたので王子様だけの罪ではありませんが」


 全く、支出管理に帳簿の整理は目が回る程大変だった、とリリアーノは一瞬遠い目をした。


「アンジェさん、貴女の王子様への愛は本物かもしれませんわ。ですが、嘘に塗り固められた、愛ですわね」


「ひ、ひどいっ!」


「リリアーノ!貴様!」


 王子がリリアーノに攻め寄る。

 振り上げられたその手に僅かに目を細めたが、その手はリリアーノの予想した軌道を描かず、王子の頭上で掴まれていた。


「いい加減にしなさい。セイル。これ以上王家の恥を晒すなら今すぐ斬って捨てますよ」


 続いて聞こえたのはニコニコと全く裏の読めない微笑を貼り付けた彼の人のこれまた読めない平坦な声。


「ち、父上!」


 王子が驚いたように声を挙げる。

 王子の手を止めたのは王のアルジオだった。アルジオはリリアーノを庇うようにゆっくりと前に立ち、広い背中がリリアーノの視界を遮った。


「黙って聞いていましたが、セイル。貴方はなにひとつ間違ってはいません」


 王の言葉に王子は「ではっ!」と声を輝かせる。


「そもそも根本が違うのですよ。なにひとつ間違っていませんが、なにひとつ正しくありません。はっきり言えばただの馬鹿ですね」


 続いた言葉に今度は王子が息を呑むのがわかる。表情は、残念ながら王の広い背中に庇われてリリアーノからは見えなかった。


「君は君の正義の為にリリアーノを悪に仕立てたのでしょう。この公の場を断罪の場に選んだのも馬鹿としか思えません。大体君はマルグス家をどう捉えているのですか。王子という身分だけでこの場で詰め寄ってよいと思っているのですか。私がこの手を止めなければ、倒れていたのは君ですよ?」


 リリアーノの父と兄が殺気を隠すことなく放っている。あのまま手を降ろせば王のいう通り、もっと面倒な状況になっていたのは間違いないだろう。


「で、ですが父上。リリアーノの罪は裁かれるべきです!」


「溜息しかでませんよ。君の選択には残念でなりません。見事に踊らされましたね。そもそも何の罪で裁きますか?侍女とやらですか?アレはダート家のものです。取り巻き、とやらがどうとか言っていましたね。安心してください。それもダート家の差し金です。ついでに君の後ろの娘も後見人はダートにする予定だったそうですね。君は程々に歪んでいると思っていましたが思ったより純真でしたか。初恋ですか?しかし全てを鵜呑みにするのは愚か者ですよ」


 言い切った陛下、その口調はどこまでも淡々としていたけれど、決して軽くない威圧感だけは放って、ざわめいていた広間がシーンと静まり返った。


「大方このような場を使わねば揉み消され、リリアーノを断罪できぬと思ったのでしょう。それは間違いではないでしょうね。地位や肩書きもありますが、それ以前にその娘とリリアーノの価値を比べるまでもありません。良いですか。君の色恋だけでは済まないのですよ。これはーーー」



 王は一呼吸置いて相変わらず感情を込めない声を出す。



「国家反逆罪、といいます」



 王子がぐらり、と揺れた。






「陛下……。ここは断罪の場ではありませんわ」


 誰も声を発さない緊張感のある空気の中、リリアーノは思わず口を開く。



「貴女は本当に……。今もセイルの張り手を甘んじて受け入れる気でしたね。そのあとはどうしますか?『婚約は破棄。貴方はそこの平民と仲良くすればいい』とでもいいますか?ダート伯爵への疑惑への布石は打ちましたからね。だが、貴女の名誉はどうなるのです?私が真相を言わなければ貴女は本当に悪役ですよ」


 王はやれやれと溜息を吐きました。


「別にそのようなつもりはありませんわ」


 少し筋書きは変わったけれど。


「そうですか。少々筋書きが変わっただけ、ですか?」


 今まさにリリアーノが思ったことを王は容易く口にした。


「…セイル。君が市井の者と懇意にしていたことなどとうに知っていました。リリアーノはすぐに出自を調べ怪しい点がなければ、婚約を破棄し君達が結ばれるように奔走していたのです。身分については自分が後見人になる、と言って。けれどダートが出てきました。そして金に糸目をつけない振る舞いを君がしたのですよ。帳簿の不正は巧妙に隠されていました。リリアーノでなければ暴けなかったでしょう。まさか、このような事を起こすなど思いませんでしたが……。計画が、パァ、ですね」


 王は見透かすようにリリアーノをみつめた。







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