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終わる日  作者: リタ
2/8

断罪2

 

 ――――


「私は、私はっ!ただセイル様のそばにいたかっただけなのです!」


 声を震わせ、尚も気丈に言い切った美少女に我に返る。

 その言葉は、少し、ほんの少しだけ胸をつくものがあった。


 セイル様、とは王子の名。

 名を呼び合う程、深い仲なのだろう。

 彼女は平民の娘で、なぜこの場にいるのかは―――きっと王子の手配だ。ひとときも離れたくなかったのであろうか。


 ことの起こりは、王子が平民のこの女性、アンジェに恋をしたことから始まる。


 お忍びで愛を育んでいたつもりだろうが、王子が独りで市街に繰り出すなど危険な行為。隠密が常についており、王もリリアーノも報告を受けていた。

 そして、彼女を城に招き王子が囲うように愛でていたのだ。豪奢な贈り物の数々に子供のように喜んだ、とか。


 リリアーノは贈り物などを貰っても僅かに口角を上げ、恭しいお礼の言葉を述べるだけだった。

 自分でいうのもあれだがなんとも面白味のない女だ、とリリアーノは思う。


「婚約は破棄し、私はアンジェと結婚する!君はアンジェに働いた罪を償え!」


 ビシッと指差して言い切った王子は常に無い険しい視線をリリアーノに向けた。このような表情もできるのか、とこういった状況なのを忘れつい感心し見つめてしまう。

 リリアーノは、この方をなにも知らないのだと、いいえ、知ろうとしなかったのだと改めて気付いて自分の愚かさに笑いたくなった。


 王子はリリアーノが彼女に質の悪い悪戯を繰り返した、と言う。そしてつい先日、リリアーノが用意させたらしい毒を飲んで彼女は倒れた、と。

 正直、何のことかさっぱりわからない。


 質の悪い悪戯、とは彼女の部屋の前に動物の死骸を置いたり、ドレスが引き裂かれたり、すれ違い様には常に嫌味を言われたり、貴族からは蔑まれ精神的に追い詰められたとのこと。

 毒、はリリアーノの侍女を名乗る者が紅茶を差し上げ、それを飲み倒れたので毒、だと。


 リリアーノはつい出そうになったため息を無理矢理飲み込んだ。


 王子は優れた方だと評価していたけれど。益々王子がわからない。


(これでは計画がパァですわ)


「仕方ありませんわ…、わたくしに信用に足る態度を見出せなかったとしたら、それは全てわたくしの落ち度」


 だが、


「それで、証拠はありますの?大体わたくしはアンジェさんの過ごしていたお部屋を知りません。お会いするのも今日が初めてですわ。ねぇ、アンジェさん。わたくし達どこかでお会いしましたか?」


 コクンと首を傾げると、彼女はまるでその反応を知っていたかのように体を震せた。



「わ、…わたしは、リリアーノ様とも仲良くなれたらって。同じセイル様を想う女でしか分かり合えないことをお話したい、と思っていました。なのに…なのに何故、リリアーノ様はセイル様ご自身を見ようとしないのです⁈わたしが憎いのは分かります。けれど、セイル様にまで暴言を吐くなら許しませんっ!」


 薄紅色の大きな瞳がリリアーノに強く向けられる。

 けれど、リリアーノは彼女の言っていることが一部分しか理解出来ない。

『セイル様ご自身を見ようとしないのです⁈』のあたりだ。的確過ぎて胸が痛い。だが、質問の答えになってないだろうとリリアーノは思った。


 王子は「アンジェ…」と言いながら彼女を抱き締める。このままラブシーンが始まりそうな熱い抱擁にますます頭が冴えていく。


 なんだろう。ものすごく茶番劇を見ているようだ。


「リリアーノ、寵姫の間にて彼女に毒を煽った罪。証拠は勿論ある。おまえの侍女を捕らえてある。浅はかだったな。おまえ本人は手を下していないかもしれない。だが、おまえは取り巻きを使ったのだろう。アンジェへの精神的苦痛を与えたのもそうだ。調べれば分かること。言い逃れはできまい」


 王子がリリアーノを睨み凍るような鋭い声を出す。それにしても寵姫の間は現王のみが使用できるということを王子は知らなかったのだろうか。長い間主がおらず開かずの間になっていたことは確かだけれど。


 それに、言い逃れ?もとよりするつもりは、ない。


 リリアーノは意識して、最大限に美しい微笑を作った。王子がグッと顔を歪めたのを確認して内心ホッとする。余り笑顔を作るのは得意ではない。けれど、今はそれさえも小道具に思えてくる。

 元々、悪役顔なのだ。リリアーノはさぞかしそれに相応しい表情をしているに違いない。



 ーーーーさぁ、胸を張って



 胸の内で呟くと一歩足を踏み出した。





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