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終わる日  作者: リタ
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断罪1

初投稿です。流行りものが書きたかったのです。

 



長い、長い片思いをしていた。

 報われることなどないその想いは、いつか年を重ね、消化される日が来るのだろうと、ただいずれか来るその日だけを待っていた。





 ◾︎◾︎◾︎





「仕方ありませんわ…、わたくしに信用に足る態度を見出せなかったとしたら、それは全てわたくしの落ち度」



 本日は国の誕生祭。

 城の大広間で起こったこの一連の出来事は波が広がるように招待客の視線を集めた。





 務めて冷静に声を響かせたけれど、隠しようもない疲れが表情に出たかもしれない。視界の端で彼女の侍女のアリアンテが今にも泣き出しそうに顔を歪めたのを見てつい苦笑してしまった。

感情を律し強い志を持て、と彼女は自身に強く言い聞かす。

例え、それが、全く、身に覚えのない断罪に対する謝罪を求められたのだとしても。


 今彼女に出来ることは針の筵、その言葉通りのような鋭い視線とヒソヒソと囁かれる悪意のある声に、決して屈しないように背筋を伸ばす事だけなのだから―――





 ***



 蒼く、真っ直ぐに伸びる絹糸のような髪を複雑に結い上げ、その肌は透き通る様に白い。目尻の垂れた憂いを帯びる瞳に泣き黒子がなんとも妖艶な魅力を引き立てる。紅を引かなくとも真っ赤な唇。豊かな胸に引き締まった肢体は女性が羨む程完璧である。彼女の名はリリアーノ・マルグス。

 国内屈指の有力貴族であるマルグス伯爵家の長女であり、この国の王太子の婚約者、つまりゆくゆくは王妃となるべくして教育を受けてきた。




 美しいが精悍で凛々しく金獅子王と呼ばれた王よりも、若くしてお亡くなりになった王妃様によく似た洗練された美貌を持つ王子。

リリアーノより三つ年下の王子はリリアーノにいつも無関心であり、彼女は王子の性格などは申し訳ないことによく知らない。

 勿論、社交界では幼き日からパートナーとして隣に並んだこともあり、ひととなりを何も知らない、とは言わない。優秀でなにごとも卒なくこなし、将来は賢王となられると誰もが期待しているのは事実。

 貴族の女性達の間でよくある牽制や、自慢に見栄、王子に無遠慮に向けられる甘い視線には大層眉を曲げていた故、女性にたいして苦手意識の強いお方なのだろう。ストイックな天才肌。それがリリアーノの王子への印象だ。

 自然、リリアーノが壁として王子に寄り添うことが多かったけれど特に咎められることも、好意を持たれることもなく、正しく王子はリリアーノに無関心であった。


 けれど、彼女にはそれで良かった。


 リリアーノも王子を愛することはできなかったし、政略結婚は貴族の常識であると捉えていたから。



 ただ、隣に並ぶ者として恥ずべき姿を見せぬよう、常に努力はしてきたつもりだ。


(こうなっては無駄な努力だと鼻で笑われるかもしれませんけれど。……まあ、元々誰の為でもありませんわ。)


 リリアーノは我知らず自嘲したように微笑んだ。



 王はよく、リリアーノの姿勢に『貴女は隙を見せなさすぎますよ。本当に、あのじゃじゃ馬がこんなに成長するとは夢にも思いませんでした』と愉しそうにその秀麗な顔を崩して笑った。


 現王のアルジオは当時の王が急逝した為十六で即位し、結婚。その翌年には王子を授かった。

 しかし、他国から嫁入りした妻は婚姻六年程で病死し、それからは独り身を貫いている。元王妃にはなにかと黒い噂があり、王子は王の御子ではないのではと口さがない者達は噂するが、真相は定かではない。

 長身でしなやかに鍛えられた体躯、どこか野性味のある美しさに加え今年三十五という若さ。後妻に、と望む女性も貴族も後を絶たないけれど、結婚しないことが元王妃や王子に対する王の愛情なのではないかとリリアーノは思っている。


 いつも微笑んでいる為、その感情を読み取れないと評判の王が、一瞬だけ虚を突かれたように笑う、その仕草を見るのはリリアーノの密かな楽しみだった。


 アルジオは即位してから忙しく過ごしていたが、時々、マルグス家へお忍びで訪れていたのだ。

 リリアーノの父が王の剣の師であり、母は乳母だった為、恐れ多いことにリリアーノにとって王は家族の一員のような気軽さがあった。

 リリアーノの上の兄など乳兄弟として育った為か、王に対して色々と容赦がなく、本当の兄弟のようにじゃれ合っていた様子を間近に見て育ったのだから。


 リリアーノは遅くに出来た子で、幼いながらもその打ち解けた様子に自然、王に懐くのも早かった。



『貴女はよく泥だらけになって私の手を引いたものでしたね。危ないからやめなさいと言っても木登りをしては、追いつけるものなら追いつけと疾風の如く馬を乗り回し、星空が綺麗だと夜中に草原に寝転がっていました。あの時は行方不明になったかと肝を冷やしましたよ』


 王は時折しかやってこないものだから、リリアーノは構って欲しくて仕方なかったのを覚えている。



『リリー、貴女は貴女のままで充分魅力的なのに、重い枷をつけてしまいました。許してください』



 王はリリアーノにすまなさそうに眉を曲げた。

 枷、とは王子の妻となることだろう。


(わたくしは貴方の為になるのなら何も枷とは思わないのに。……馬鹿なお方。)












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