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レミルとアル? 3

**********

(レミル)


 納品で顔を合わせるうちに、段々とアル様や他の騎士様と気軽に会話が出来るようになってきた。アル様に会いたいが為に、父さんに内緒で、わざと納品を分けたことすらある。


 アル様は追加注文の話をしている時、通りがかった他の騎士様達にからかわれたり、羨ましがられたりすると、決まってわざと煽るかのような態度をする。


 1度なんて、笑いながら抱き締められたこともあった。あぁ、なんて役得っ!その時のことは今でも鮮明に覚えている。


 あれはいつものように裏口から入り、アル様を呼んで貰っている間のことだ。食堂でアル様が来るまでカイゼル隊長と他愛のないおしゃべりをしていた。


「本当、レミルちゃんはいい子だね~。恋人とかいないの?あっ、まさか、アルをダシにして実は誰かに会いに来てるとか?」


 何をおっしゃる。アル様をダシに使うなんて恐れ多い。カイゼル隊長の言葉に首をぶんぶん左右に振っていると、いきなり後ろから誰かに抱き締められた。 


「残念でした~。レミルは俺に会いに来てんだよ。な~?」


 思わず『はい』と答えそうになって慌てて口を閉じる。アル様の胸にすっぽり囲われている間、爽やかなハーブの香りに混ざった男っぽい匂いがまた、いいっ! うぅ…フェロモン……。


 そんなやり取りを少し離れたところから、眉間を寄せたキースが見てたなんてこの時は気付きもしなかった。



 ある納品帰り道、キースに呼び止められた。アル様と同じ時期に騎士団に入ったキースも、アル様まではいかないものの、前に比べてずいぶんと逞しくなったと思う。日に焼けた肌が眩しい。キースも頑張ってるんだなと感じる。


「お前、アイツは止めとけ。」


 キースの硬い声色にほんわかした気持ちが霧散した。まるで心の中を見透かされたような言葉に、思わずビクッと肩が揺れた。


 キースにバレてる…?


 私だって流石にアル様から恋愛対象として見られてないことくらい薄々気が付いてる。

 でも…、でも何でそれをキースに言われなきゃいけないわけ!?幼馴染みだからって、そんなこと言われる筋合いはない!!


「キースには関係ないでしょ!?」


 それだけ言うと、振り返りもせずにそのまま走って逃げた。だって、これ以上口を開いたら泣いてしまいそうな気がしたから。こいつにだけは泣き顔を見せたくない!!


「おいっ!」


 後ろから焦った声が聞こえたけれど、そのままダッシュで家まで走った。


 あれ以来、キースとは口をきいてない。何か言いたそうな様子で時折私を見てるのを知ってるけど、私は何も言われたくないから気付いていないふりをしてる。


 キースと話さなくなってから、ずいぶんたったある日、フラニの花の色が変わりはじめた。今年も春の季節がやってきたんだ。


 もしかしたら一枝くらいなら、冗談かノリでアル様から貰えるかもしれない。最近、リップサービスと共に、フラニの花を一輪ずつ配る男の人が増えてきた。そういう時、女の子の方もみんな気軽に受けとる。要は花束でさえなければいいのだ。


 ここ数年なんて、うちの店のファンらしい人が酔狂にも、店先にフラニを飾っていったりもしている。まるで新年飾りのようで少し滑稽だが、お客さんにも評判がいいし、うちとしてもそこまで店を気に入って貰えるなんて有り難い。誰が飾っていくのかは知らないが、リボンでまとめられたその小さく可愛いブーケはきっと今年も飾られるだろう。


 店ですら貰えるフラニだ。私だって頑張ればきっと…。だけど、どうすれば自然にフラニを貰うことが出来るかな?次の納品はまだずっと先だし、いつまでもただ待っていたらあっと言う間にフラニの時期が終わってしまう。


 店番をしながら頭を悩ませること数日。色々悩んだ結果が、今日のこの作戦だったりする。


 春の宴 期間に入れば、貴族の方々は宴に参加するから、どうしても平民の騎士様方のシフトがキツクなる。アル様は平民だから、もちろん騎士団にいるはずだ。そ・こ・で、この作戦。いつも贔屓にしていただきありがとうございますと、夜勤用の差し入れをするのだ!そうすれば…、もしかしたらお返しにフラニを貰えるかもしれないって寸法だ。我ながらナイスアイディア。


 一輪のフラニをアル様から貰うために、いそいそと差し入れを持って騎士団へ向かう。普段ならこの時間になると通りも閑散としてくるのだけど、さすが春の宴期間。どの通りも深夜まで明るく灯りが付き、人通りも多い。ただ、主に恋人同士ばかりなんだけどね…。ちっ。


 差し入れを抱えながら『皆さんでどうぞ~』と言った方がいいのか、それとも『アル様に食べて欲しくて』と言った方がいいのかと悩みながら門番の騎士様に会釈をして門をくぐる。いつものように裏口から入り、誰かいないかと探していると、何やら騒がしい声が聞こえてきた…。


 正門の方から誰か来たのかな…?


 声は次第に大きくなり、やがて大勢の騎士様を引き連れて現れたのは、目を見張るほど妖艶な美女だった。


「アル様を呼んで。」


 美しい銀の髪の美女が言った言葉がなかなか頭に入ってこない。


 えっ?今、誰の名前を呼んだ?


 呆然とその女性を眺めているうちに、奥からアル様が慌てて出て来て、一直線に美女に駆け寄る。そして寄り添うように立つと、今まで見たこともないような大人っぽい表情で美女を見つめた。


 女性の方はアル様にしなだれかかり、見せつけるかのようにベタベタし始める。アル様はそれをまるでいつものことのように平然と受け入れて腰を抱いた。


 嫌だ、 見たくない。


 大勢の騎士様の前で繰り広げられる二人の甘いやりとりに、涙が浮かんで来たのが分かり、唇を噛みしめた。


 ――誰かに気付かれる前に帰ろう。


 涙が溢れないように気を付けながら、そっと立ち去ろうと裏口を出たところで、タイミング悪くも誰かにぶつかった。もう涙でボヤけてよく見えない。



「……泣くな。」


 っ!?


 この声は……。間違いない。


 歯を食い縛り、溜まった涙を袖口で乱暴に拭いてから顔をあげると、そこにはやはり仏頂面をしたあいつが立っていた。


 その顔を見て、我慢してたものがいっきに膨れ上がる。


「…どうせ『だから言っただろ』とか思ってるんでしょ?ちょっと親しくしてもらえるようになったからって、期待して馬鹿みたいよね?良いわよ、笑うなら笑いなさいよ!みっともないって、思い上がって恥ずかしいやつだって!笑えばいいじゃないっ!!」


 完全に八つ当たりだ。分かってるけど止められない。キースの胸を何度も叩いた。


 キースは何も言わず、そのまま私を強く抱き締める。堰が切れてしまった私の涙は止まることを知らず、後から後から溢れる。そのまま腕の中で思いっきり泣いた。


 どれくらいそうしていたんだろう。泣き疲れて冷静になった時には、裏口から少し離れた木の下で、互いに膝をつき、抱き締め合っていた。


 無言で抱き締めるキースの腕の中は意外にも心地良いけれど、散々泣いたせいで胸元はぐっしょり濡れている。


 やってしまった……。


「……ごめん。」


 そう呟くと大きな手がゆっくり優しく頬を包んだ。


 男っぽい、少し荒れた大きな手…。思わず目を瞑り、その暖かい手に身を委ねていると、そっと唇に何かが触れた。


 えっ?


 目を開ければ至近距離にキースの顔がある。えっ?私、キスされてない!?


 キースとキス…って何だそれ。あまりの出来事に現実逃避をしてしまいそうになる。


 硬直していると、更に唇を割って舌が入ってくる。


「んっ…。」


 慌ててキースの胸を押し返せば、意外にアッサリ離れた。


「……好きだ。レミル…。」


 熱の籠った瞳と掠れた低い声。不覚にもキース相手にドキドキしてくる。一体、何がおこってるの??

 私の無言をどう受けとったのか、再び合わせられた唇は、先程とは比べものにならないくらい激しかった。


「ふっ…、んぅ~っ!」


 今後は離れようにも、ガッチリとホールドされてピクリとも動かない。


 押し返すことも逃げることも出来ず、暴れてみるが全然動かない。どれくらい暴れていたのだろうか、ようやくキースの気がすんで離れてくれた時には、力尽きてぐったりしてしまった。ただでさえ泣いた後なのに、手加減しなさいよ…。


 キースはぐったりする私を見下ろして、不思議そうに少し首を傾げた後、今度はこめかみに触れるだけのキスをした。

 そして木に背を預け、私を膝の上に抱え直して座る。


 されるがままの私を見て、キースは再度首を傾げる。


「抵抗しないのか?」


 いや、しただろ。せめてもの抵抗で思いっきり睨む。


「…っ!」


 すると、何故かキースは頬を染めて目を反らし、ぼそっと呟いた。


「マジ、可愛い…。」


 はぁ?信じられない。どんな思考回路をしてるのよ。


 キースは反らしていた視線を少しずつ戻して、イタズラっぽく目を細めて笑った。


「お前、自分の状態、分かってる?赤くぷっくりして色っぽくなった唇に、涙目で睨むとか…。すげぇ誘惑なんだけど…。しかも、こんな短いスカート履いて…。」


 腰にあったはずのキースの腕が、いつの間にか膝を撫で始め、やがて徐々に上がってくる。


「!!」


 とっさに両手で押し留めると、不満そうに顔をしかめる。けれど、さすがにそれ以上は諦めたのか、手はおとなしく腰に戻る。そして再び、ぎゅっと抱き締められた。


「俺にしとけよ…。」


 背中や腰を撫でるキースの手に、少し不穏なものを感じるが、その腕の中も唇も嫌じゃない…むしろホッとする?


「…………うん。」


 自然と漏れた私の返事に、キースは驚いて目を見張る。自分で尋ねたくせに。


「………何よ。」


「いや…。………俺の部屋、来る?」


 バチンッ!


 いい音が夜空に響く。


「痛ってぇ!殴ることないだろうが!」


「あんたが手、早すぎるのがいけないんでしょ!?何考えてんのよ!」


 キースの腕から抜け出して立ち上がると、キースも立って反論する。


「この状況なら、誰だって色々エロいこと考えるだろうが!それに手が早いのはお前の方だろ!痛ぇよ!」


「何ですってぇ!?」


 甘い雰囲気が一転して、いつもの喧嘩になり。家まで送って貰いながらも口喧嘩は続いた。


 家の近くまで来ると、父さんが顰めっ面で出て来る。


「お前ら、煩せぇ。店先でやるなっていつも言ってんだろうが!何時だと思ってやがる。」


「おじさん!俺、レミルを嫁に貰うからっ!」


「んあ?……。」


 キースの突然の言葉に、父さんが口を開けたまま固まる。


「あんた何言ってんのよ!」


「何って、だから嫁に貰うって言ってんだよ!!」


 そうじゃないでしょ!相変わらずバカなんだから!!何で突然そんなこと言い出したのかって意味でしょ!再び、喧嘩し始めた私たちを見ながら、父さんが溜め息混じりに言う。


「………やっと言ったのか?」


「あぁ。明日フラニ持ってくるからレミルは配達じゃなくて店番にしてよ、おじさん。」


「……分かった。」


 えっ?どういうこと!?二人の話についていけず交互に見比べていると父さんが苦笑いしながら暴露する。


「毎年、店先にフラニを置いていきやがるのはこいつだ。…ったく。さっさと本人に渡せっつうんだ。」


 え?


 プイッと余所を向くキース。


 じゃあ、あの花束は……。


「明日な。」


 それだけ言って帰っていくキースの背中を、ただ呆然と見送った。




 翌日。あの可愛いリボンのついた花束を持ったキースが緊張した面持ちでやって来て、フラニの花束を無言で差し出す。


「…………ありがと。」


「おう。」






 結婚式はこの日からちょうど一ヶ月後のよく晴れた日となった。


 ……いや、展開が早過ぎるだろ。おい。


 ジロッと隣の新郎を睨むと、キースはニヤッと笑い、耳元で囁く。


「もう、我慢できねぇんだよ。色々と…。主に下半身が。」


 それを聞いて、盛大に顔がひきつる。何だろう。私、早まってない??


 満足そうなキースを横目に何やら不安を感じた花嫁だった。

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