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レミルとアル 1

本編から溢れた話 第三段。

三連休のおともにと、思っていたのに遅刻したので、分けずに一気に出します。(全三話です)

**********

(レミル)


 ―――あれは、父さんが朝から店を留守にしている日だったわ。


 うちは主に生活雑貨を取り扱っている店だから、客層といえば必然的に女性ばかり。それもあって、昔から気軽に私を一人 店に残して、何時間も帰って来ないなんて日常茶飯時。


 これが飯店をしているキアラの家や、馬具屋のリシェルの家では、こうはいかないと思うけどね。ありがたいことに、うちは近所の店すら香水屋に花屋に占いの館で、女性が好む店ばかりに囲まれてるから、女性だけでも買物に来れると評判なくらい いつも穏やかな通りなのだ。


 あの日もいつものように一人で店番をしていた。父さんが帰ってくるまでの間、馴染みのお客さんと他愛もない世間話をしながら1日が過ぎて行くはずだった…。


 午後の客がふと途切れた時間帯。奥で在庫の確認をしていると、入口のドアに付いているベルがチリンと音をたてた。


「いらっしゃいま…せ…。」


 入って来たのは、体格のいい男。元は流れの商人だったと自称するその男は、最近 王都に居着いた奴等の一人だった。


 あまり良い評判も聞かなければ、以前かわした挨拶程度の会話だって、あまり良い印象を受けなかった。


 出来ればあまり関わりたくない部類の人なのに、よりによって父さんが居ない時に来るなんて…。(と言っても、うちの父さんは居ないことの方が多いんだけど。)


 こんなゴツイ男がうちの可愛らしい小物を買うとは到底思えない…ってことはつまり、きっと嬉しくない用件で来たのだろう。


 どうしようかと目をさ迷わせれば、窓から心配そうに私を覗いている近所の子供と目があった。その子は私を見ると、小さく頷いてすぐに走り出す。


 きっと大丈夫…。時間さえ稼げれば、あの子が父さんを探して連れて来てくれるはず。頑張れ自分と心の中で呟いた。


 どうか父さんが戻るまで、何事もありませんように……。私は祈る気持ちでその男に向き合った。



*****



「いやぁ何、それ怖いわ!それで?その後一人でどうしたの?レミルのお父さんすぐに戻って来てくれた?」


 リシェルは身体を縮ませながら、話の先を促す。


「それが……父さんってば、その日は港町まで納品に行ってたみたいで、全然つかまらなくって…。」


「「「え~っ!」」」


 友人達から一斉に声が上がる。


「じゃあ、レミル一人でどうしたのよ?」


 どうしたもこうしたも…、やれるだけのことをやるしかないもの。


「どうもその男、昼間っから酔っ払ってたみたいで…。店を荒らしに来たと言うより、やたらと私に絡んできたというか…。『今、何してる?ちょっと付き合えよ。』とか『メシ驕ってやるから来い。』とか。私は店があるからって断ってるのに、最終的には無理矢理 腕を引っ張られて…」


「嫌よっ!行きたくないわ!」


「そうよダメッ。どこに連れて行かれるか分からないじゃない!!行っちゃダメよ!」


 過去に起こった話にもかかわらず、キアラ達は悲鳴の様な声をあげる。


「勿論私だって必死に抵抗したわよ!でも…力が強くて、抵抗しててもすぐに店から引きずり出されちゃったの。そしたら店の前にそいつの仲間の男達が数人立ってて、引っぱられてる私をニヤニヤしながら見てた…。」


 共にテーブルを囲んでいる友人達はそれぞれ口を手で覆い息を詰めてこちらを見ている。


 皆を安心させる為に、努めて明るい声で続きを話した。


「――で、その時。アル様が現れたってわけ。それからは本当あっと言う間。アル様ったら余裕たっぷりで、すぐに全員を縛りあげちゃったの。」


 カミル達が詰めていた息をゆっくりと吐く。


「なるほど…。それは、惚れるわね。」


 でしょでしょ?あの時のアル様、本当にカッコ良かった。


 アル様が男達を縛ってくれたおかげで、それまで助けたくても出て来れなかった隣の店のおばさん達が第二騎士団まで連絡に走ってくれたり、騎士様方が来るまでの間、男達を見張ってくれたりした。


 アル様は、騎士様方が来て男達を連れて行くまでの間、ずっと私の側にいてくれたの。しかも帰り際に「一人で大丈夫か?」って頭をポンポンされた時には動揺のあまり、つい頷いてしまったわ。


 もしあの時 頷いていなければ、父さんが帰って来るまでアル様は一緒にいて下さったかもしれない。そう思うとなんて勿体ないことをしたのかと今でも悔やまれてしょうがない。


「そっかぁ。だからレミルはいつもアル様アル様って言うのね…。確かにそんなことがあったのなら、その気持ちも分からなくないわ。

 そっかぁ。でも、やっぱり私はレオナルド様が1番素敵だと思うけどね?あの逞しい身体に1度でいいから抱き締められてみたい…。」


 リシェルはうっとりと目を細めて空を見る。すると今度は隣に座っている別の友人が、うっとりするリシェルをクスクス笑いながら口を開く。


「そうね。確かにレオナルド様はステキね。でも、第一や近衛の皆様って、少し遠く感じてしまわない?その点、同じ武の御三家でも第二にいらっしゃるギルバード団長様が1番じゃないかしら?」


「え?ギルバード様って…、あなたおじさんが好きなの?」


 キアラのその発言に、言われた友人はすぐに反論をする。


「ギルバード様は、おじさんなんかじゃないわ!」


 いや、おじさんだからね? しかも既婚者。


「それを言うなら同じジルコン家のクラウド様でしょ!クラウド様はまだ独身でいらっしゃるし、何よりお優しそうな笑顔が素敵じゃない?」


 今度はクラウド様押しの友人が、ここぞとばかりにプッシュし始める。


「え~?そもそもジルコン家の方々って、こう言ってはなんだけど、どこかつかめない感じがするのよね~。私は御三家で言うなら断然、ダグラス家の方々がいいと思うけど。」


 ワイルド系が大好きなキアラがそう言うと、間を置かずに両隣からつっこまれる。


「「浮気されるわよ?」」


「うっ。」


 そうなのだ。傭兵を御先祖にもつダクラス家は、良く言えば自由を愛し、陽気で開放的な性格な人が多い。一方、悪く言えば女好きでだらしないとも言える。


 本当か嘘か『実は俺、ダクラス家の隠し子なんだ。』と、まるでネタのように言う人が後を立たないし、周りも『そうなんだ~。』と案外すんなり受け入れる。どれだけ手を出してるのよダクラス家…。


「だ~か~らぁ。やっぱりレオナルド様だってばぁ。レオナルド様は愛妻家で有名なダイト家だもの、あんなに素敵なのに浮気の心配をする必要もないのよ?」


 リシェルが得意気に微笑む。


 う~ん。レオナルド様が大好きなリシェルには言いにくいけど、残念なことにダイト家に平民が嫁いだという話は今まで1度も聞いたことがないんだよね。あの家は生粋のお貴族様だからなぁ。


「でも、ダイト家の方は直情的過ぎてつまらなくない?やっぱり、ドキドキするような恋をするなら、ジルコン家よ!クラウド様のミステリアスな所も、優しいのに実は腹黒いんじゃないかって思わせるあの奥深い微笑みもいいじゃない。」


 うん?それはちょっと共感しにくいな…。もし本当にクラウド様のあの優しげな微笑みに裏があったりしたら泣ける。私は腹黒い人、苦手だなぁ。まぁ、そもそも私はアル様一筋だから関係ないけどね。


 そう、やっぱりアル様がいい。


「1番素敵なのは、絶対にアル様ですぅ。」


 私がそう言うと、皆にハイハイっと流されてしまった。何故だ。


「まぁ、レミルはアル様でいいとして、同じ童顔系で言うならセレス様は?」


「ん~セレス様は嫌よ。女より綺麗な男ってどうなの?って思っちゃう。私、セレス様の隣にだけは絶対に立ちたくないもの。」


 リシェルが顔をしかめて言うと、皆もうんうんと頷く。 


「でも…それをいったら他の方々もそうじゃない?」


 間違いなく、今話題に上がった方達は方向性は違えど全て美形だ。そのなかでもセレス様は女顔系の美形だと思う。黙っていれば女でも通る。

 セレス様は、やんちゃな雰囲気に気さくな人柄で、交遊関係も広い。商人のギルトにも出入りしていて、ギルトのお偉いさん達と直接交渉出来るくらい遣り手だそうだ。しかも、実は貴族なんじゃないかって噂まである。全然そんな風には見えないのだけどね。更に、剣は騎士団に勧誘されるほどの腕前だなんて、あんなに可愛いのに人は見かけによらない。


 まぁ、だとしても、セレス様は観賞用としては申し分ないけど、実際に並んで歩きたい相手ではないのよね。それに対してアル様は違う。整った顔立ちでも、あの童顔と人懐っこい性格で近所のお兄ちゃん的存在だ。何より、笑顔がとっても可愛い。


「やっぱりアル様は別っ!!」


「はいはい。レミルは本当にアル様が大好きよね~。」


 あっ。また、流された。


「そうそう、なんていったってレミルはアル様の為に、髪も伸ばしてるのよね~?」


「え?そうなの?」


 わわっ。話が変な方向に向いてきた。


「アル様に『綺麗な髪だね』って褒められたいんですって~。」


「そっかぁ。アル様ならお会いする機会も多いでしょうし。レミルの家なら、納品とかで会いに行けちゃったりするのかしら?

 ……何それ、ずるいわ。私もレオナルド様とお話してみたい。」


 リシェルが少し拗ねて、私をジットリ睨む。


 羨ましいでしょ~?って言いたいところだけど、実は私もあれ以来お会いしてないのよね。


 アル様は黒髪が好きだっていう話をエイダおばさんから聞いてからは、いつお会いしても大丈夫なように、髪の手入れは毎日欠かさずしてる。だから、自分で言うのもなんだけど、今の私の髪はツヤツヤで友人達の中で一番綺麗だと断言するわ。


 しかもエイダおばさん情報では、アル様は長い黒髪の女性に会うと高い確率で髪に触れるらしいの!!


 そんな話聞いたら切れるわけないでしょ?黒髪に生まれたことも感謝したくらいだ。


 ニヤケながら、その話をつらつらと話せば、睨んでいたリシェルまで、やれやれと言わんばかりに首をふった。


 え?何で?何でよ?

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