青い訪問者
就職した友達のメール等によると、新しい世界に飛び込んで今が一番必死で大変な時のようだ。この商店街にも同世代の人はいるが、皆何だかの未来へのビジョンを持っていて、自分の足で未来に進んでいっている。
そして俺は相変わらず、入社試験に落ち続けている。それなりに試験を二次三次と進める事は出来ているけれど既卒者というマイナスポイントも加わった事で条件も悪くなったし、俺自身の存在感の薄さがここで効果を発しているのか、俺だけが足踏みの時間を過ごしている。
最近では仕事が決まらない事の焦りよりも、人生というか自分の世界における存在意義や、社会における個の役割とは? といったレベルの事までを考え始めて、いよいよ重症だと思う。
そんな状況の俺を気遣ってか、杜さんや澄さんは、『ユキくん三人でペルー料理食べにいかないか?』『ねえねえ、こんなシャツ買ってきたの♪ 猫の絵可愛いでしよ? 三人でお揃いよ』といった言葉をかけてくれる。
二人にとって、俺は生きて産まれて来ることの出来なかった子供の替わり。ある意味この世界で俺を求めてくれている唯一の場所でもある。
商店街で『ウチの子』『息子』といった表現で俺の事二人が話しているのを良く聞く。その言葉にムズ痒さの伴う喜びを感じている俺もいる。でも俺は彼らの息子ではなく、あくまでも息子替わり。だから彼らの優しさに甘えてはいけない。どんなにそこが心地よくても。
『何で、甘えたら駄目なの?』
籐子女将の言葉が、頭に甦る。
『透くんいつも良い子だから、今日は我が儘で甘えまくって良いのよ!』
昔澄さんにも、そんな言葉を言われた事も思い出す。
『気を使ったらピヨ口の刑だぞ!』
そんな言葉を言われ、杜さんに昔よくホッペを寄せられピヨ口にもされた。
「甘えろ! か~」
第二ビルヂングの掃除をしなが、そんな言葉を呟き一人照れる。
しかしこんな良い年になってどう甘えろというのか? そんな事を考えながら商店街を北に歩く。先日そんな事言われた照れ臭さもあり『とうてつ』に行くのが恥ずかしかった。宿題出来ずに先生から逃げている小学生のようだ。だから今日は喫茶店トムトムでフワフワ卵のオムライスランチを頂く事にする。いつものように紬さんらとの会話を楽しみ、看板猫のトラちゃんに挨拶してから第一ビルヂングに戻る。
『黒猫』の店内清掃し、野菜切る等の料理の下準備をしていると、黒猫の店のドアが元気に開き、扉についた小さいベルがカララララァァァァァァァァァァ~♪ と長い音を立てる。
『申し訳ありません、まだ準備中ですので』
と、言おうとして固まる。そこに青いモノがヌボーっと立っていたから。
「よう一号、そろそろ時間だぞ、準備しろ」
キーボ君二号はそう言ってニヤリと笑った。いや、もともとキーボ君は笑っているけれど、俺を見てニヤリと表情を動かしたように見えた。