守るつもりが?
俺は呆然とコチラを見つめる三組の目に晒されながら、中に入る事も下がる事も出来ずBlue Mallowの入り口で嵌っている。出来るのは手をバタバタすることだけ。
「ユ ……キーボくん大丈夫?!」
璃青さんそう言いながらコチラに近づいてくる気配がした。
「今ドア直しますから! はい、これで動けますよね」
ガタガタという音がして小野くんの声が聞こえる。ドアが外れたからそれ以上開かなくなって動けなくなったようだ。
「ドアすいません、壊れていませんか?」
外れたドアの事が気になって璃青さんに尋ねるけど、走ってきたことで息がゼイゼイしていて苦しい。ボワボワとキーボくんの身体が揉まれる気配がする。
「軽く外れただけだから大丈夫よ。それより顔がちょっと凹んじゃったかしら……ん、大丈夫ね。」
俺の荒い呼吸が外まで聞こえたのだろう。
「ユ、……キーボくん、とりあえず休みましょう。今、お水持ってくるから待ってて 」
手を引いて店の奥に連れてかれて、椅子に座らせてもらう。そして慌ただしく走る足音が離れ戻ってくる気配がして背中のチャックが開けられペットボトルの水が差し入れられる。俺はお礼を言って受け取りキーボくんの中で一気飲みする。
「コレ、透?」
「はい。“希望が丘商店街”のゆるキャラで『キーボくん』といいます」
「なんかカワイイ! 中に透が入ってい思うとなおさら」
そういう呑気な凜と璃青さんの会話が聞こえ俺はここに来た理由を思い出す。そして身体を動かし、興味津々な様子でコチラを見ている凜を見つける。
「じゃないよ! 凛! ったく昔から考え無しで行動しすぎ! 小野くんにまで巻き込んで迷惑かけて何やっているんだよ!」
凜はバツの悪そうな顔で目を逸らす。でも悪いとは思っていない顔である。
「なんでいつもそうなの? 俺の知り合いになんでいつもそんなに迷惑わけまくるの? そんな風にかき回して面白い?」
そう言うと顔をコチラに戻し唇を尖らせる。
「違うわよ! 変なのだけ追い払っているだけでしょ!」
俺はその言葉に大きく息を吐いてしまう。
「変って何だよ! 俺の知り合いの中では、一番凜が変って言われているよ!
授業参観で、親でなく同じ小学生の姉が来たのはウチだけなんだから!」
「でも、透は喜んでくれたじゃない! 先生に怒られたのも庇ってくれたし」
凜は何故か威張ったような誇らしげな顔をする。
「俺の事を気にかけてくれるのは嬉しいけど、いつもやりすぎなの!」
「でも、それだけ透が心配だったの」
そう言い張る凜に、俺は何度目となるため息を吐く。
「凜が俺の事心配してくれているのは分かるよ。でも少しは信頼して。俺はもう大人なんだから」
そう言うと凜が何故か大きくため息を吐く。そしてチラリと目を動かす。
「でも、まあ、この人なら認めてあげてもいいわよ」
璃青さんの方を見ているようだ。そしてニヤリと笑う。何故いつもこの人は偉そうなのだろうか? 俺が作った料理も、『やっぱりコレ美味しいでしょ! コレを私が食べたいといったから!』とドヤ顔してくることもあった。
「でも透を傷つけるような事したら ──」「それは俺達二人の問題だから。多分一緒にいる間に色々あるだろうけど、それは二人で乗り越えたい。だから凜は余計な事しないで」
まだ、何か言いそうなので、俺はそれを遮って釘をさす。すると何故か凜はショックを受けた感じになり、シュンと下を向く。でもここだけは、はっきり言っておきたかった。凜は悪気あるときもないときも、言葉がキツイ。凜の所為で璃青さんが傷ついてしまうのは避けたかった。
「あ、あのっ……。わたし、これから凛さんに色々相談させて頂いたりしてもいいですか?」
しかし、隣からそんな璃青さんの声がする。俺はその言葉に『え?』と思う。身体を捻り、璃青さんの方へと視線を向ける。俺の気持ちをまったく分かっていないように璃青さんは凜に微笑んでいる。
「璃青さんそれは俺にしてくださいよ。色々不安に感じることとか、不満とか俺にちゃんと言ってください。そして二人で解決していきたいから」
なんで悩みよりにもよって凜に? どうみてもまともな解決を示してくれる筈もないし、何よりも俺が助けたい。そういう想いを込めて璃青さんにそう言うと璃青さんは目を丸くして俺を見つめ返してくれた。
「透くんに不満なんて……。でもまた不安になったら甘えていい?」
顔を少し傾けてそんな事を言ってくる璃青さんに、俺の心がドキリとときめく。
「そしてそんな風に言って頂いて嬉しいです。いつでも俺を頼って下さい!」
璃青さんは、俺に二コリと笑う。
「透くんこそ。わたしじゃ頼りないかもしれないけど、本当はもっと甘えて欲しいのに、っていつも思ってるのよ?」
俺の手に璃青さんの手がそっと添えられたので、俺はキーボくんの手で璃青さんの手をそっと掴む。目の前でフワリと優しい笑みで璃青さんの表情に俺は思わず見惚れてしまう。
「はい!
……璃青さん、その笑顔が素敵です。
そうやって俺の前で笑っていてください。その笑顔で俺は元気になるんです。そして俺はそれを守り続けたい」
すると璃青さんは何故か照れた顔して顔を赤らめる。そういう姿も可愛らしい。
「じゃあ、俺午後から授業あるんで、そろそろ失礼いたします」
そういう小野くんの声が聞こえ、挨拶しようと身体を動かしたときには小野くんと凜の姿は消えていた。




