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醸した愛

 俺は黒猫のバーカウンターの中で色んな意味で戸惑っていた。

「透くん所は、いつ結婚するの? いいよな~そちらは明日からでもいけて」

 篠宮酒店の醸くんが婚約者となった神神飯店の天衣さん連れて黒猫に来ていた。かいがいく天衣さんのお世話やく姿も微笑ましくはあるのだが、片思いの時は控え目でひっそりした愛を見せていた筈の醸さんが、人が変わったように愛を弾けさせており、愛しい相手には勿論、商店街中の人に天衣さんへの愛を熱く語っている。

 二人が結ばれた事で、恋の敗者となったと思われる小野くんのいるこのお店においても……。小野くんに見せ付ける為とかでなくて、単に両想いになった事が嬉しくてたまらないだけのようだ。

 小野くんは冷静な子だからあからさまに不快な顔したりしないけど、その姿を見てやや困惑の表情をみせている。醸さん付き合う前は、まだ小野くんに対して配慮を見せていたのだが、今は浮かれてそういった事吹っ飛んでいるようだ。

 そしてそんな二人は恋人という段階を吹き飛ばして婚約してしまったという事実にも驚くしかない。こないだ恋愛相談受けた感じでは付き合う事すら困難な状況で、想いを捨てるかどうかを悩んでいたというのに、どうしてそこまで一気に話が進んだのか分からない。

 そして今俺に結婚について熱く語っている。俺は璃青さんといつ結婚するのかと聞かれていた。

「俺の所はまだまだですよ。俺が年下で未熟ですから。社会でたばかりの未熟ですから」

 そんな俺が結婚して欲しいなんていえる筈もない。それに俺達は知り合って半年、お付き合い初めて二ヶ月またまだ全ての事がこれからだ。

「そんなことないよ! 好きあっている二人がいる、それ以上の理由いる?」

 そう熱く語る醸さんが眩しくみえた。同世代といえば、キーボくん二号の安住さんも幼馴染みの恋人の京子さんと結婚する。そして少し上の世代に軒並み子供ができている。

 皆一人前の男になっていく中で、相変わらず俺はここで皆の背中を見ている。

 今の時間を楽しんでいるし、焦っている訳でもない。でも今後自分達はどう進んでいくべきなんだろうか? とは思う。璃青さんと結婚できたら良いなとは感じているものの実行に移せるかというと別の問題。

「好きな人とはずっと一緒にいたいだろ? 俺はすぐそばでいつも天衣の笑顔みていたいんだ!」

「醸兄、止めなって!」

 そう隣に笑いかけ、真っ赤になった天衣さんにぶったかれていた。

 その様子に微笑みながら、ふと視線を動かすと小野くんと目が会う。

『今は辛いだろうけど、君には直ぐに素敵な人が現れるよ!』という気持ちを込めて微笑むと、小野くんは何故か困った顔をして目をそらした。俺は黒猫のマネージャーとして先ずせねばならない事を考える。


 そして俺はその夜、小野くんを慰めようと部屋に誘いったのは良いが、どう切り出すべきか。というのは今まで小野くんは俺に恋愛相談なんて事はしていなかったし、小野くんが天衣さんの事好きだというのも醸さんに言われて知った事。

「小野くんはいいよね! 格好いいし、頭も良いし」

 小野くんに『君は素晴らしい男なんだ』という事を伝える事にする。小野くんは話を聞いている間にどんどん戸惑いの色を深めていく。なんか不自然だったのかもしれない。

「はぁ……あの、俺何かやりました? だったらハッキリ注意して下さいよ」

 小野くんの言葉に俺は頭を横にふる。

「いや、ここ最近色々イベント乗り越えてきて、改めて小野くんが居てくれて助かったと思っている。小野くんだから一緒に乗り越えてられたと思って」

 言ってる言葉は嘘ではないけど、しかし本日誘ったのは『君が失恋しているのを慰めたくて』と本当の事も言えない。考えてみたら失恋は人が助けて立ち直るものではないし、それに俺と醸さんの関係を知っているだけに、一番相談しにくい相手なのに気がつく。だったら今日は流れに任せて酒に付き合おう。

 考えてみたら『俺と小野くんって不思議な縁だよね』という他愛ない話を続ける事になる。小野くんも俺が何か言いたい事があって呼び出した訳ではない事に安心きたのか、いつものように寛ぎ始める。

「でも、ここでバイト出来た事って俺にとって大きい意味あったと思います。なんか驚く事も色々多いけど、barという場所柄様々な人間の観察も出来て社会勉強できています。それに俺ここが好きなんだなと、最近分かってきました」

 小野くんはそう言って無邪気に笑う。

「社会人になっても、黒猫にきて、そしてクールに酒を楽しみ飲める大人になるのが俺の目標! 居酒屋でやけ酒呑んで馬鹿騒ぎするような情けない事だけには間違ってもなりませんから!」

「……まあ、これから……社会に出て一人で抱えきれない悩みとか持つようになっても、ウチおいで。話聞くし酒も付き合うから」

 小野くんは俺の言葉を受け吃驚するくらいキラキラした瞳を返してくる。そしてニコ~と嬉しそうに笑う。

「兄貴いたら、こんな感じなのかな?

 今後どんな悩み抱えても、透さんは受け止めてくれる! そう思うとなんか、人生楽になった感じです」

 その笑顔見て、小野くんがお酒回ってきたのを察する。小野くんは酔ってくると朗らかになるタイプ。いつもはどちらかと言うとクールで皮肉屋に見える言動をするのだが、酒が入るとそう言う仮面が吹き飛んでしまうようだ。素直で優しい性格が剥き出しになる。そう言う彼も知っているから余計に可愛く感じているかもしれない。それにそういう子だから部屋にも招いている。

 そして安住さんに、『兄貴』と、言われたのと違った擽ったさを覚える。俺には弟も妹もいないし、部活もしてこなかったので後輩という存在もいなかった。それだけにこのように真っ直ぐ慕ってきてくれる存在が、嬉しかった。って慰めなければいけない存在に、何故元気もらっているのか? 

 なんか今なら彼に踏み込んだ事まで聞けそうなので、聞いてみる。

「そういえば、小野くんって、どういう子が好みなの?」

 少し聞き方がストレートだったかもしれない。しかし小野くんは傷ついた様子も一切なく、目をキョトンとさせてからウ〜ンと素直に真剣に悩んでいるだけ。あれ? これって失恋した直後の人の反応なんだろうか? 普通直ぐに心にいる人のタイプ言ってきそうなものなのに、ここまで悩むもの? そしてかなり長く悩んだ末語り出す。

「大和撫子タイプ……。

 って、別に女性に幻想抱いているわけではないですよ! ただ今まで付き合ってきた彼女が、強いしキツいのなんのって! だからお淑やかで優しい人が良いなと最近思うんです。

 和服が似合いそうな女性に上目遣いで頼られるとグッときそう。

 でもそういうタイプなかなかいないですよね~。

 実は半年前まで同じ学部の女の子と付き合っていたんですが、それがまた煩いの! すぐ不満を募らせて怒る。二言目には愛が足りない……でこっちも切れて、別れたから余計にそう言うタイプ求めてしまうのかもしれません」

 小野くんが恋愛論を語り出した事に俺は驚く。まあ、かなり飲ませた事は自覚しているけど、その内容に首傾げてしまう。醸さんから聞いていた話とのズレを感じる。

「でもさ、さっきの篠宮さんの所や、透さんみたいに、真っ直ぐ愛を注げる相手がいるのは羨ましいです。なんか人をそう言う意味で好きになる事すら、最近まったく出来てないのが淋しいなと思います」

 そう語る小野くんには失恋の影もない。というか相手としている女性すらいないようだ。醸さんの勘違いだったということ? だから醸さんは黒猫で堂々とラブラブしていたのだろうか?

「俺だって、初めてだよ。これ程人好きになるの。こんなに相手が気になる、自分で出来る事なら何でもしてあけたい! と思う程好きになったの。それまでは、本当にたた付き合っていただけなんだなと思うもの」

 小野くんに釣られ、俺も恥ずかしげもなく璃青さんへの愛を語っている。しかし小野くんは茶化すでもなく真剣な表情を返してきて頷く。

「透さんの事見ていたら解ります。澤山さんの事好きでたまらないんだなと」

 そう言う真面目に言われ照れてしまう。小野くんはテーブルに凭れ肘立てて、前のめりの体制で俺を見上げてくる。いつもより子供っぽい表情が可愛い。

「羨ましいです~俺にもそんな相手現れるのかな~」

 俺はニッコリ笑い、力強く頷く。

「現れるよ! それに小野くん俺と違って男気あるし格好いいし。

 俺が女の子だったら絶対に惚れると思う」

 小野くんは俺の言葉にパア~と表情を明るくしてヘラ~と笑う。

「本当に~嬉しい♪

 俺も透さん女の子だったら絶対に惚れる!

 浴衣似合ってたし♪ 性格も穏やかで優しいし♪ なんか守りたくなるというか」

 小野くん……何気に笑顔で俺を傷付けてくる。女顔で男らしくないのは自覚しているけれど……。

 そして上機嫌の理想のタイプを語り続け、そのまま酔い潰れてしまう。俺は小野くんをソファベッドに寝かせ後片付けして寝室へといく。

 窓の外見ると満月には少しスリムな月が、真っ正面に輝いていた。璃青さん様々な姿が脳裏に浮かぶ。今は夜中の二時すぎ、璃青さんはもう寝ているのだろう。俺のベッドで、眠っている璃青さんの姿を思い出す。


『そんなことないよ! 好きあっている二人がいる、それ以上の理由いる? 好きな人とはずっと一緒にいたいだろ? おれはすぐそばでいつも……笑顔みていたいんだ!』

 醸さんの言葉が何故か頭の中で繰り返し響く。

「何故、一番愉しい所を他のヤツに譲る?

 てめえが一番に幸せにしたら良いだろ! そう思わないか?

 他のヤツに笑いかけている顔なんて見続けたくないだろ?

 その笑顔も何も全部自分のモノにしてやりたいと思うのが男だろ?」

 気が付けばその言葉が杜さんの言葉へと変化している。少し飲み過ぎたのだろうか? 俺は頭をブルブルと振る。大きく深呼吸して明日の為に眠る事にした。


こちらを描く際、篠宮楓様、神山備様に協力頂きました。ありがとうございました!

コチラの物語「黒猫のスキャット」にといて小野くん視点の物語が語られています。ご興味のある方はそちらも読まれて見てください。

二人は仲良く良好なのですがズレています。

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