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カボチャの顔

 雲一つない青空の下で俺はミニクーパーを走らせる。後部座席に箱が振動により時たまガタガタと揺れる。俺は杜さんおすすめのジャズのナンバーを、聞きながら駅方面へと車を走らせる。希望か丘駅前商店街近辺はビルもあり、住宅街もありと賑わっているものの、少し離れると畑が広がる長閑な光景になるのも面白い。今日は、秋晴れだけにこうして窓開けて車走らせていると気持ち良い。ランニングコースにこちらまで足伸ばして見るのも楽しいかもしれない。


 河原沿いの道を走らせていると土手の上にモスグリーンのスカートにラベンダー色のカーディガンを羽織った女性が歩いている。何でだろうか、人差し指くらいのサイズにしか見えない時から、その女性が璃青さんだと察する事が出来た。彼女を認識してしまうと、なんか嬉しくなる。まるで恋を知ったばかりの中学生みたいだ。

 後続の車が一切ない事を確認して、璃青さんの横を少し通り過ぎてから車を停めクラクションを鳴らし、空いている窓から顔を出す。

 璃青さんは、音に反応してコチラを見て驚いた顔をする。

「ユキくん?」

「こんにちは! 良い天気ですね」

 ニコリと柔らかい笑みで挨拶を返してくれた。そんな何気ない事が嬉しく心に響く。

 商店街で会うならともかく、こんな所で会うなんて、スゴい偶然のように思う。

「良かったら乗って行かれます? 送りますよ」

 何故か戸惑う璃青さんを、俺は『同じ方向ですし』と更に言葉を重ねて誘う。璃青さんが加わっただけで、ますます景色の色が深まったように感じた。空はますます深く透明感を増し、風に乗った金木犀の香りはますます甘く感じる。

「ユキくん、運転するんだ。しかもこんな車もってたんだね。初めて乗ったよ、こんな車」

 璃青さんの言葉に俺は頷く。 

「免許持っていた方が何かと便利ですしね。

 あっこの車は澄さんのものなんですよ。近所走る時はこの車の方が走らせやすくて」

 杜さんの車はやや大きくて小回りが利かないので、コチラを借りることが多い。璃青さんはシゲシゲとミニクーパーの内装を眺めている。

「左ハンドルって、難しくない?」

「慣れですよ」

 納得したような声を出しながら、璃青さんは、落ち着かない様子で周りを見ているようだ。

「カボチャ?」

 後部座席にある箱の中を見たらしい璃青さんからそんな声が聞こえる。

「ああ、ハロウィン用のディスプレイに農家の方から直接買ってきたんですよ。

 ほら駅前のエスポワールコリーヌの芽衣さんから紹介してもらって」

「エスポワール……」

 信号で止まった時だったので隣を見ると、璃青さんは眉を寄せそう呟く。

 璃青さんはまだ、ここに来て日が浅いからエスポワールコリーヌを知らないのだろう。

「駅前の派出所前の花屋さん。素敵なお店なんですよ。店長の芽衣さんもまた可愛らしくて素敵な方で、いつも色々相談にのってもらってお世話になっているんです。

 良かったら今度紹介しますよ」

 年齢も近いし仲良くなれそうな気がしてそう俺は続ける。しかし璃青さんに困った顔をされてしまった。確かに余計なお世話なのかもしれない。

「そうだ! 璃青さんはお店ハロウィン何かディスプレイするんですか? 良かったらこのカボチャ使いませんか?」

 話題を変えることにした。なんか今日の璃青さん少し元気ない。

「俺、今から澄さんとこのカボチャをランタンにするんですが、一緒に作りませんか? 楽しいですよ」

 璃青さんは悩んでいる顔をしたけど、その顔のまま頷いた。


 根小山ビルヂング戻り、下を汚しても掃除しやすいという事で黒猫でランタン作りをすることにした。底をくり抜くという力のいる作業を俺と杜さんが行い、四人で中をセッセとくり抜く作業をする。手作業するというのが気が紛れたのか、澄さんと楽しそうな笑顔を見せ出し、話をしながらカボチャに顔のアタリの書いている璃青さんを見て少しホッとする。

 そして四人でそれぞれ担当のカボチャにナイフを入れくり抜いてランタンを作っていく。四人で作った為か、みるみる可愛いカボチャのランタンが出来上がっていく。面白いもので、それぞれが同じようにカボチャに顔書いてランタンを作ったのに、どれを誰が作ったのかすぐに分かる。

 なんとも柔らかくカワイイ笑みを浮かべるのが澄さんの作ったもので、ニヤリと笑い怖い感じに仕上がっているのが杜さんの作ったもの。そして恍けた顔のが俺の作ったランタン。そして璃青さんの作ったのは何故かどれも哀しそうな顔をしていた。

「お蔭で素敵なディスプレイアイテムできました!」

 そう笑顔で言う璃青さんの顔も、そのランタンのように何故か哀し気に見えた。


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