表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/59

その縁(えにし)の名前

 昨日の夜から、俺は貰った御守りを何度も袋から取り出しては眺めていた。まるでサンタクロースからのプレゼントを喜ぶ子供のように。

 璃青さんから貰った御守りは黒く光る石とグリーンの縞の入った石を繋いで輪になったものに革の紐がついたもの。それぞれの石が互いに引き立てあったクールなデザインで、見ていると心落ち着くというか引き締まる感じ。同時に気持ちが高揚してくるのは御守りの効果ではなく、俺が単純に喜んでいるだけなのだと思う。

 この御守り青い石が一つだけ入っているのも印象的だった。この御守りを見ていると、夜空の下まだ緑の色を帯びたすすきの生い茂った土手に佇む璃青さんの姿が目に浮かぶ。黒い石が夜の空で、緑のストライプの石がすすきの土手、そして青い石が璃青さん。俺はその青い石をソッと指で撫でる。

 こういう手作りの御守りをどういう意味でくれたのだろうか? 俺が試験の話とかし過ぎたからなのか? それとも……少しは好意をもっての事なのか?

 俺はその御守りを袋に戻し胸ポケットに入れて上から手で押さえた。


 下の階と繋ぐスピーカーから澄さんの声が聞こえる。遅めの朝食への誘いだったが、もう俺は一人で先に食べていたので珈琲だけ頂く事にした。

 相変わらず仲の良い二人の様子を微笑ましく見つめながら、俺は会話を楽しみつつ珈琲を飲む。ポケットに御守りの重さを感じながら。

「そう言えば昨晩の璃青さんとの月見デートはどうだったんだ?」

 杜さんの言葉に、俺は珈琲を噎せる。

「あら、デートだったの!?」

 澄さんが真顔でそんな事聞いてくるのに俺は首を横にふる。

「そんな、ちっ違いますよ! 璃青さんが俺なんかそんな風に見てくれている筈もないじゃないですか!」

 澄さんが『あら?』と謎の合いの手を入れて、首を傾げ杜さんに視線を向ける。杜さんは人の悪い顔でニヤリと笑い肩を竦める。それに澄さんがニッコリ嬉しそうに笑う。何となく内容は察する。夫婦の視線だけの会話止めて欲しい。下手にツッこんだらやぶ蛇になりそうだから何も言わない事にする。

「あら、私がもう少しだけ、若かったらユキくんに恋に落ちて夢中になりそうよ! こんなキュートで、そして優しい男の子♪ 素敵過ぎるもの。ねえ杜さんが女の子だったら惚れちゃうわよね?」

 杜さんは苦笑するが頷く。

「確かにね。しかも恋のライバルだったら最強に厄介だ、澄の可愛さと優しさに、(かん)さんの冷静さと頭の良さも併せ持ってるなんて」

 杜さんは目を細め俺に視線を向ける。

「最近ふとした拍子にユキくんの口から義兄(にい)さんのような言葉出てきてドキリとする時がある。ズバリとした言葉で俺を叱ってきた時とか?」

 最初燗さんの話をしていたのかと思ったけれど、違ったようだ。まさか、ここで父の名前が出てくるとは思わず驚く。パーツは父と似ているものの、線が細くどちらかというと、叔母である澄さんに性格も顔もソックリと言われ続けてきた。父とは印象が真逆なようだ。

「確かにビシリ! って言う時のユキくんお兄さんにも似てるかも。

 杜さん、頭上がらない人増えちゃったわね~」

 そうからかう澄さんに、杜さんは頭を掻く。

「まあ、嬉しいんだけどな、ユキくんに怒られるのは。

 好きな人達に叱られるのって嫌いじゃないみたいだ、寧ろ嬉しい」

「何言っているんですか。良い年して俺に叱られたいなんて。シッカリしてください!

 でも杜さん父のこと苦手ですか?」

 あえて勢いで聞いてみる。杜さんは、困ったように笑う。

「彼の妹をたぶらかすし、君を……いや……。

 それこそ叱られる事しかしてきてないから。

 でも好きな相手だから頭上がらないというのかもしれない。寛さんは根っからの教育者だ。向こうから見たら俺は指導しがいのある相手で、俺からしたら見透かされている分、素のままぶつかれる相手だしな。

 俺の仕事も見てくれていて、チェックしてくれて、これがまた鋭い事言ってくるんだよな……、

 全て正論だからグウの音もでない。君と違って俺は彼にとって世話のかかる家族なんだろ。呆れながらも見守ってくれて感謝しているよ」

 杜さんの言葉が嬉しくて微笑む。杜さんが父の事を穏やかに嬉しそうに話す事に安堵したからだ。昔、真夜中に杜さんと父が激しくぶつかっていたのを偶然聞いた事があっただけに、杜さんには父の事、父には杜さんの事を話しにくかった。

 歯に衣着せぬ感じでいつもキッパリと言葉を投げ掛けてくる父。その言葉は優しくなく厳しかった。俺が子供だった頃から容赦なく傷ついたことも多かった。凹む事の方があまりにも多く苦手意識も多少あるが愛している。

 情熱的で想いのまま行動する杜さん。ここまで真っ直ぐで熱い愛を注ぎ続けてくれた人はいない。二人とも違う意味で、俺が尊敬する大人で俺にとって大切な存在。しかしその二人は俺と澄さんがいることで関わらざるをえないという複雑な関係になっていた。その二人が知らないうちにメールで色々対話していたのは驚きである。

「そう言えば兄さんからのメールに年末近くで学会の集まりあると言ってたわ、その時ここにも来てもらえば? 偶にはユキくん親子水入らずで話をしたいでしょ?」

 澄さんがそう話を挟んでくる。『どうせなら四人で呑みましょう』と言おうとして止め、俺は素直に頷く。父親とも色々落ち着いて話したくなったから。気が付けば俺がこのメンバーで、一番父と対話していなかった事にも気が付いたのもある。

「メールで思い出したわ! 璃青さんのお母さんから教えて貰ったんだけど、明日って璃青さん誕生日なのね!」

 しみじみと父と杜さんの事考えていたが、澄さんのその言葉で二人の事が頭から吹っ飛ぶ。

「え?! 明日?!」

 そう聞くとなんか居てもたってもいられなくなる。俺は持って居たカップ中に残っていた珈琲を飲みほして、二人にご馳走様の挨拶をして外に飛び出した。


 璃青さんのプレゼントを買うために駅前のデパートに到着したものの、途方にくれる。先ずはアクセサリー売場等を巡るが、アクセサリー製作している人に、アクセサリーを贈るというのもどうなのか? とも思う。しかも雑貨店を経営している人だけに、何か雑貨を贈るというのもマヌケな気がする。璃青さんに何を贈ったら喜んで貰えるのか? お酒は弱いし、だったら紅茶や珈琲? しかし、それだと誕生日プレゼントぽくないように思う。秋から使えるストールとか? 考えれば考える程、何を選べばよいか分からなくなる。


 一旦頭を冷やす為に駅ビルのカフェで休憩する事にした。その喫茶店は壁面が大きな水槽となっていて、その中で優雅に泳ぐ魚を楽むようになっていた。俺は珈琲を飲みながらその水槽をぼんやりと眺め和む。その水槽を眺めていると【Blue Mallow】にある金魚の水槽が頭に浮かぶ。今は下に砂利が敷かれているものの、あるのは水草だけ。美しくアクセサリー等でディスプレイされている水槽を見ていると、あの水槽もこういう感じで遊びを入れてみたら、あのお店の雰囲気ももっと素敵になるのではないか? とも思う。そう考えると楽しくなってきた。珈琲も飲み終わったので、カフェを飛び出しそのまま、以前二人で訪れたペットショップへと向かう。そこで色々吟味した結果、落ち着いた色で、金魚も空いた穴をくぐって遊べそうな感じの遺跡をイメージした水槽アクセサリーにそれに合った岩のアイテムを加え、それだけだと寂しいのでいつもより高級な金魚の餌も一緒に購入してセットしてもらいプレゼントラッピングをしてもらった。

喜んでもらえるだろうか? そんなドキドキを胸に手プレゼントを手に提げ商店街に戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ