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要因があってこの状況

 町内会の仕事が終わった時は女性陣の作業は終わっていたようで、璃青さんはもういなかった。一旦部屋に戻り杜さんと澄さん三人で昼食を食べる。

「璃青ちゃんの所いくのよね? コレ持っていってくれない?」

 会話を聞いていたらしい澄さんが、そう言ってジャムの瓶とタッパーに入った料理をスッと差し出してきた。澄さん特性のラタントゥユだ。先日黒猫で璃青さんが嬉しそうに食べていたからだろう。俺は頷きそれを小さい風呂敷包んで一旦六階へ上がった。

顔を洗いサッパリしてから髪を簡単整え、ウサギを連れて六階の玄関をからでてエレベーターに乗ったら、四階で麻のジャケットを着た杜さんとバッタリと会う。仕事の打合せで都内の方にコレから出かけるようだ。確か十四時に新宿のホテルの喫茶店で待ち合わせだった筈。今からだと若干間に合わない気がする。いや確実に間に合わない。その事を指摘すると杜さんはニヤリと笑う。

「小松崎に電話しておいて、少し遅れるかもしれないと」

 俺は溜め息をつき根小山ビルヂングの下で杜さんを見送ってから、小松崎氏に携帯で謝りながら杜さんが遅れる事を連絡しておいた。小松崎氏は杜さんといつも組んで仕事をしている方で、小柄でヨレヨレのスーツで大きな鞄を抱えている。本当はかなり怖い人らしいが、杜さんに関してはその睨みが効かないようで、いつも振り回され走り回っている。杜さんも態とやっている所もあり、小松崎さんが可哀想になる。

 愛情深い杜さんだけに気に入った相手はトコトン可愛がる所があるのに、小松崎氏の事は虐めて可愛がる。今度黒猫に来たときは、元気になるようなものを出して上げようと思い隣へ向かう事にした。


 Blue Mallowのお店にてウサギを渡すと、璃青さんは何故か少し泣きそうな顔で受け取りそれを抱き締める 。何でこんな哀し気な表情なのだろうか? また何かあったのか気になるが、それが俺が踏み込んで良い問題なのかと考えると聞き辛い、俺から何故か視線を逸らすように下を向いている璃青さんを、戸惑い見つめるしか出来ない。

 そういう状況だからつい視線を店の中で、視線を泳がしてしまう。そして一部でボワっと明るい空間に目がいく。金魚の水槽だ。先日見た時と変わらず、元気に金魚が二匹泳ぎまくっている。

「元気にやっていたか? 何か困った事はないか?」

 金魚にそう話しかけてしまう。金魚は俺の声に反応することもなく、口をパクパクさせて呑気に泳いでいる。水槽に指を付けゆっくり動かすと、金魚は餌と勘違いしたのか、指を追いかけ移動してくる。なんか可愛くて笑ってしまう。

 すると横から璃青さんの視線を感じる。そちらに目をやると思いつめたような表情にぶつかる。声をかけようとすると、また顔を逸らされる。怒っているという感じではないから、もしかして子供っぽく金魚で遊んでいるのを呆れたのだろうか?

「金魚元気そうですね」

 俺の言葉に、璃青さんは小さく『うん』と答える。

「餌は足りてますか?」

 うつろな口調で『うん』とまた帰ってくる。

「璃青さんどうかされましたか?」

 するとハッとした感じで璃青さんはブルブルと顔を横にふる。

「え?、ううん、何でもないよ」

 明らかに何でもない感じでもない。しかしそれを無理やり聞きだしてもよいものか?

 視線そらした台の上に風呂敷を見つけ、忘れていた澄さんからのお届け物を思い出す。

「あ、コレ澄さんから、ゴーヤジャムと、ラタントゥユです。どちらも夏に美味しく元気になるモノなので、良かったら食べて下さいね」

「ありがとう、澄さんによろしくね!」

 璃青さんの顔はニッコリ笑顔になるが、やはりいつもの元気がなかった。昨日のお祭りと、午前流の作業で疲れもあるのだろう。それに俺がいたら休めないだろうから早々にお暇することにした。


 そして午後は澄さんの焼いたアップルパイを香り高い紅茶と共に二人で楽しみながらまったりとした時間を過ごす。ベランダでは、昨日使われた浴衣が洗濯され吊るされて、それが風に揺れ味わいのある風景を作りだしていた。

 澄さんとお話しして、今日璃青さんのお母さんが帰ってしまっていたのかいなかったこ事に気がつく。もしかして寂しかったのだろうか? だったらこの澄さんとのお茶会に誘えば良かったとも思ってしまう。

 しかしそんな穏やかな時間を吹き飛ばす電話がかかってきたことで、呼んでなくて良かったと思うことになる。

「あら? コマッちゃん、お久しぶり! お元気?」

 リビングに二つある電話の右側の電話がなり、澄さんが取りそう明るく答える。相手は小松崎氏のようだ。しかし、なんで? 小松崎さんから? 杜さんともう打ち合わせして終わっているくらいの時間の筈である。まさかまだ杜さんが到着してないって事はないよね? 俺は壁の時計をみると四時ちょっと前をさしている。

「え? 杜さんを、監禁したい?」

 俺は不穏な単語にも気になり、そっと近づきスピーカーにする。

「先生に仕事してもらわないと、私死ぬしかない状態なんです!! ですから私の命を助けると思って!!」

 スピーカーから必死な小松崎氏の声が響く。後ろから杜さんが『おい! なーー』小松崎氏を止めている声がする。

「そんなに ひっ迫した状況何ですか?」

 俺が言葉を挟むと、小松崎氏が堰切ったかのように、杜さんが仕事遅らせていたことで、周囲から責め立てられたり、『早くしろ殺す!』といった脅迫状が届いたりと大変な事になっているようだ。

 何でそんなに作業が遅れたのか理由はすぐ分かる。重光先生の婚約でマスコミが騒動起こした時に、杜さんは黒猫の仕事すらも放り出していた……。ましてや澄さんの目届かないコッチの仕事は、全放棄していたに違いない。

「今は東明さんもいるので、黒猫の方は奥様とお二人でも大丈夫ですよね!」

 そう必死に杜さんを一週間程程借りたいと訴えてくる。

「まあ、コマッちゃんそんな可哀想な事になってたのね~」

 澄さんの声に杜さんが慌てる気配が電話の向こうからする。

「でもコマッちゃん 、大丈夫よ! 杜が頑張るから、すぐ解決するわよ♪

 杜さん、ダメじゃない! いつもお世話になってるコマッちゃんをこれ以上困らせたら!」

 小松崎氏も見た目こそはヨレヨレ親父だが、切れ者で通っている、業界でも有名な方だけある。杜さんの何処を攻めれば動かせるか把握しているのだろう。泣きついて澄さんを味方にしたら、杜さんが逆らえなくなるのを分かっていて仕組んだ事と俺は察する。

「コッチはユキくんもいるから、大丈夫♪ だから杜さんはソチラでお仕事を集中して頑張ってね♪」

 澄さんは笑顔で、愛する夫を小松崎氏に一週間貸し出してしまった。スピーカーの向こうで、杜さんの低い唸り声が響いてくる。

 杜さんが若干可哀想ではあるものの、コレも杜さんが引き起こした事態仕方がない。俺はため息をつき、来週一週間をどう乗り切るか? その事を考える事にした。


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