【商店街夏祭り企画】心を落ち着かなくする声
【商店街夏祭り企画】参加作品です。
商店街の花火大会と夏祭り、夏は東明透くんたちを狂わせる?
璃青さんはスモーキーブルーの壁とマホガニーの床で構成されたリビングを見渡し首を傾げている。
「ここは………?なんだかすごくお洒落なお部屋。まるで海か宇宙の中にいるみたい…………」
澄さんと杜さんの住居部分もそうだが、根小山ビルヂングのプライベートエリアは実は物凄くお洒落なヨーロピアンスタイル。下のリビングもグリーンの壁にレンガがあしらわれていてまた違った味わいがある。
そしてこの六階部分も改装を二人の好きなように任せたら、地中海か? という感じのお洒落な空間に仕上がっていた。家具はマホガニーでと統一されてういるので少女趣味ではなく落ち着いた感じに仕上がっているので過ごしやすいのは良い。しかしこの妥協を許さないインテリア、改装費、家具代がどのくらいかかったのか怖くて聞けない。
『良い家具というのは一生使えるので、安物何度も買うより安上がりなんだよ』
とは言ってたが…。『これからユキくんが自分で楽しめるように、必要最低限の家具にしておいたから』となっているのがまだ救いである。
「俺の部屋。
……流石に二人の留守中に部屋に入れるのもどうかと思って」
俺の言葉に璃青さんは目を丸くする。いきなり強引に部屋に連れ込んだなんて思ってないだろうか?
「…座ってて、薬箱もってくるから!」
感じる必要もない気恥ずかしさもあり、笑顔をなんとか作りそう声かけて、うさぎの縫いぐるみを璃青さんに返してから離れる事にする。そして杜さん夫妻のエリアに繋がる階段から降りて五階に行くと、二人の寝室の方から人の気配がする。少し開いた寝室のドアの所に大きな濃紺に白いバラの花の散った布が挟まっている。
澄さんが着ていた浴衣……。
部屋の向こうから伝わってくる艶かしい気配に顔が少し赤くなるのを感じるが、同時にリビングで繰り広げられていなくて良かったとホッとする。身内でも、モロその現場に行き当たったら恥ずかしい。さらに四階まで降りる。
そして四階のリビングに澄さんの緑の帯と桃色の帯止め散るように落ちているのに溜め息をつく。それを拾い上げたたみテーブルに置き、先程玄関前で拾った櫛をのせておく。そして薬箱を手にして音を立てないように六階に戻る事にする。
クラシカルな西洋的な鮮やかな色合いの部屋に、浴衣姿という和の美を纏う女性、その一見アンバランスな要素が不思議な調和を見せ、そこには映画の一シーンのような光景を作り出し一瞬見とれてしまった。
「………おかえりなさい」
璃青さんは俺にむかって笑いかける。その笑顔にもドキリとする。そんな俺に気が付き璃青さんが不思議そうな顔をする。
「どうしたの?」
俺は冷静になるため、小さく深呼吸する。
「ただいま」
そう返した言葉がくすぐったい。二人でちょっとの時間見つめあってしまう。璃青さんが突然吹き出す。
「ふふ、なんか変なの。私が『おかえり』って言って、ユキくんは『ただいま』って………」
二人で笑ったことで空気が緩み、少し気持ちが軽くなる。それで俺は自分が緊張していた事に気がつく。
「手当てしないと」
テーブルに薬箱を置き璃青さんの足をみると、草履により出来た靴擦れは皮膚もずる剥けかなり痛そうになっていて思わず顔をしかめてしまう。
「ゴメン足汚いよね 。土の上とか歩いたし」
恥ずかしそうに呟く璃青さんの言葉に、手当てするのにまずは洗浄した方が良い事に気がつく。
「確かに手当ての前に、汚れは流した方が良いかも 。風呂場まで歩ける?」
そう聞くと、何故か璃青さんは慌てる。風呂場に案内すると自分で洗えるから一人で入っていったので、脱衣場にタオルだけ置いてリビングで待つことにする。そしてリビングでシャワーの音を聞きながら待っていると、なんか恥ずかしくなってくる。璃青さんは足洗っているだけなのに、俺は何考えているのだろうか? そして先程下の階で聞いた息遣いや音を思い出し、慌てて頭を横にふる。
気分を切り換える為に、薬箱から必要なものを取りだし事にする。コットン、消毒液、ピンセット……こないだ俺がキーボくんでスッ転けて激しく怪我した関係で、様々な救急バンド充実していて良かった。
おずおずとリビングに戻ってくる璃青さんを再びソファーに座らせて、俺は彼女の足元に跪き手当をすることにする。あまり男の俺に足に触られるのも嫌だろうから、できる限り事務的にそして触らないように行う事にする。消毒液をコットンに含ませてできるかだけそっと傷口を消毒していく。
「……………ぁ」
璃青さんの足がピクリと動き、唇からそんな声が漏れたので、俺は見上げてその表情を確認する。璃青さんは少し緊張したような面持ちで耐えるように俺の手元を見つめている。
「ごめんなさい、痛かった? でも少しだけ我慢して」
璃青さんは眉を少し寄せ、小さく頷き笑みを作る。
「ん、大丈夫。だから………そのまま、お願い………っ」
俺は頷き、作業を再開することにする。
「…………んんっ」
耐えるような、瑠璃さんの言葉と息遣いがなんか色っぽくも聞こえて、俺は変な気分になってくる。下の階でああいう音を聞いた後なのがいけないのだろう。いつもとは異なり下から上目づかいで瑠璃さんの様子を伺うと、痛みの為か少し瞳を潤ませていてジッと俺の方を見ていた。手当されているという事が恥ずかしいのだろう、少し顔を赤らめていることもあり余計に色っぽく見え、俺の身体にゾワゾワとした何かが走るのを感じた。
「ごめんなさい、すぐ終わらせるので」
俺は慌てて視線を怪我に戻し、傷にできるだけ丁寧に傷パットを張り付ける。そして改めて目の前の足が、女性特有の柔らかくて可愛い足であることに気が付き、ドキリとしてしまう。なんか変態になった気分だ。
フー
深呼吸して、俺は平常心を装い、顔を上げニッコリ笑ってみせる。
「これで、とりあえずは大丈夫だと思う。しばらく靴履くのもつらいと思うけど……」
「あ、ありがとう! 本当に助かった!」
俺が言葉を続けようとすると璃青さんはそう遮るように言葉を放ち、いきなり立ち上がろうとする。しかし足を保護するために足元に置いておいたタオルに滑って転けそうになり、俺は慌てて立ち上がり彼女を支える。転倒を阻止できたのは良いが……俺は支える為、璃青さんは立ち上がった俺にすがった為に何故か抱きしめ合う形になってしまった。
コチラの作品も たかはし葵さまと二人で話し合いあって作った物語です。『Blue Mallowへようこそ〜希望が丘駅前商店街』にて同時に同じエピソードを描いていますので、そちらで璃青さん視点でもお楽しみになることができます!
そしたらも合わせてお楽しみ下さい。




