表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/59

【商店街夏祭り企画】予期せぬ出来事

 杜さんに奉納を終わった事を携帯電話で報告すると『御苦労様、お店の方は隣も含めて大丈夫。神社にいるんだから二人で夏祭り楽しんできたら?』と言われてしまう。

「せっかくですから花火大会で見られなかった屋台でも見て回りましょうか」

 奉納という大役を終えた開放感もありそう璃青さんに話かける。

「うん、そうね」

 どうしてだろうか? その後二人の間でいつものように言葉が続かない。

 気まずいというのではないけど、思考がどこかホワンホワンとしている感じで、酔っているような躁状態。繋いでいる手の温かさを必要以上に感じてドキドキしている。

「ーーねぇユキくん。ユキくんって射的がすごく上手いイメージがあるんだけど」

 俺の手を少し引っ張ってそんな事言ってくる。上目づかいのその表情にドキリとする。恥ずかしくて目を逸らしてしまう。

「どんなイメージですか。いいですよ、自信はそれほどないですけど、やってみましょうか」

 射的ってやったことないけど、大きいモノの方が狙い安いだろうと思う。同じように射的の的を見つめる璃青さんの視線の先にあるモノを察する。人ごみで声が聞こえにくそうだったので少しかがみ顔を近付ける。

「……狙うのはあのぬいぐるみでいいですか?」

 璃青さんの瞳が俺を見て細められる。

「ふふ。うん、お願いします」

 その真っ直ぐな視線を感じ、俺は軽い高揚感と緊張を覚えながら銃を構える。落ち着くために深呼吸を一回して狙う縫いぐるみを見つめると、何故か背後から縫いぐるみに向かう風を感じた。発射された弾はそのままうさぎの縫いぐるみの下腹部にあたり弛い動きでその身体が後ろに倒れていく。

 当たって縫いぐるみが取れた事を自慢したくて璃青さんの方に視線を向けると、俺の方を切なそうに見つめている眼差しにぶつかる。声をかけるのも戸惑ってしまう。淡いピンクの口紅に彩られた璃青さんの唇が動くのをただ見つめる事しか出来なかった。ドキドキと発せられるその言葉を待つ俺がいる。

「……人形焼き……」

 ……人形焼き? え?! どういう事? 想定外過ぎる瑠璃さんの言葉に悩む。

「ーー人形焼がどうかしました?」

 お腹空いていて、切なそうな表情していたのだろうか?

「きゃあっ!あ、あの、何でもないの!」

 手を前で振りよく分からない取り消しをしてくる。慌てている様子が、何ていうかカワイイ。大人っぽい浴衣着ているのに幼い仕草が何とも面白い。バタバタしているその姿も愛しく感じた。

「そうですか?……はい、ウサギのぬいぐるみ、どうぞ」

 余り突っ込むと可哀想なのでスルーすることにした 。

「ホントに取ってくれたんだ。さすがユキくん。ありがとう、大事にするね!」

 うさぎを渡すと、目を輝かせ受け取りそれを抱き締める。

「ふふ、璃青さんて、無邪気というか、ほんと可愛いですよね」

 コロコロと変わる表情に魅せられしまう。どの顔も素敵で美しいと思う。

「え…………」

 顔が真っ赤になる。少し潤んだ瞳で、俺をポカンと見上げてくる無防備な表情に、俺も逆に慌ててしまう。

「に、人形焼き買いに行きましょうか!」

 恥ずかしくて璃青さんの手を引き人形焼きの屋台に移動することにした。

 お祭り効果だろうか? 俺だけでなく璃青さんも高いテンションで屋台が並ぶ境内を回る。そして少し疲れたので二人でベンチに並んで座っていると、璃青さんが足元を気にしているのに気がついた。

 俺が視線で問うと璃青さんは何でもないという感じで笑う。

 再び歩き出しても、璃青さんは足元を気にしている。

「どうしました? また鼻緒が取れそうなんですか?」

 困ったように眉を寄せていたのに、璃青さんは笑顔を作り、首を横に振る。

「ううん、違うよ。今日は草履が新品だからそれは大丈夫」

 大丈夫という顔ではない。

「……もしかして、足を痛めた?」

「ん、ちょっとだけ」

 悪戯が見つかった子供のように俯く。

「そうですか……。ここは混んでいるし、足に負担がかかりますから裏道に抜けて、そろそろ帰りましょう」

 なんで、こういう事黙っているのだろうか? 少し寂しくなる。うさぎの縫いぐるみを俺が持ち、手を引き商店街の方へと促す。

「ごめんね、迷惑かけて」

「迷惑なんかじゃないですよ。もう充分楽しみましたから」

 何でもっと早く足の異常に気付いてやれなかったのか。ずっと隣にいながら。俺はそんな自分を情けなく感じ、繋いでいる手をギュッと握り歩き出した。


 雑踏を二人で抜け、人混みを少しでも避ける為に駐車場から根小山ビルヂングへと入る。そこまでたどり着きホッとする。璃青さんは何も言わないけれど歩みも遅く引き摺って歩く様子かなり痛いのだろう。表情からも笑顔がスッカリ消えている。折角楽しかった時間が苦痛で終わってしまったのが残念でたまらない。

「あのさ……ウチ寄っていかない?」

 そう声かけると璃青さんはキョトンとする。真っ直ぐ見上げられる表情に内心焦る。

「いや、変な意味でなくて、足手当てした方が良いかなと。澄さんもいるだろうから」

 『変な意味』ってどういう意味だよ !って心の中で自分にツッコム。

「え、このくらい自分で出来るのに。それに………ご迷惑じゃない?」

 そうオズオズという彼女に、俺は笑って『大丈夫』と答える。まさかその直後に後悔する羽目になるなんて思わずに……。

 そのまま璃青さんを気遣うように手をひきエレベータに誘う。そして四階についた時なんか違和感を覚える。

 俺は首を傾げ、何故か転けたままのアジアンタムの鉢を元に戻す。そしてふと視線を動かした先に何か落ちているのに気がつく。澄さんの髪についていた櫛である。

 いつもと違って少し曲がったドアのwelcomeボード。

 ……この状況から推測される事を考えてみる。玄関であの二人がこういった乱れを戻す事もなく入っていったことの意味。過去の経験からも一つだけ。

 今ここで入ったら、とんでもない場面に行き当たる可能性を考えて焦る。俺一人ならば二人がラブラブしている所にバッタリ行き合わせても、二人も気にしないし俺もスルー出来るけど……。璃青さんは流石にヤバイ。

「……あっ、ゴメン忘れてた、杜さん達今、留守で籘子さん達と呑んでいるんだった!!」

 我ながら怪しい言い訳であるが、仕方がない。いくら璃青さんが大人だとはいえお隣さんのラブシーンを見せる訳にはいかない。

 そして再び手をとりポカンとしている璃青さんをエレベータにのせ六階いき玄関の鍵を開けリビングまで璃青さんを連れてきてホッする。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ