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【商店街夏祭り企画】何かが生まれる音

【商店街夏祭り企画】参加作品です。

商店街の花火大会と夏祭り、その時の東明透くんたちはどうすごしたのか? それを楽しんでいただけたら嬉しいです。

 夕方になり、俺は予め町内会から渡されていた手提げ式の願い箱を持って璃青さんと町内会の各店舗を回る事にした。先ずは神神飯店方面と北へ進み南下して中央広場から左右と裏通りの店舗を回り、残りの南のメインストリートという順番で回る事にする。コチラの風習は、願いを書いてその紙を折るために、七夕とは異なり心に秘めた願い事をする事と、月読神社にキチンと奉納するという事で、商店街の人にとっては意味も大きい神聖なイベントのようである。だからこそ、こういう檜で作られた小さいポストのような箱をもって各店舗を周り、皆それに恭しく月の形に折った願い紙を入れて手を合わせる。俺と璃青さんもそれに合わせてお辞儀するという感じでそれを受ける事になる。

 とはいえ儀式さえ終わると皆いつものご近所さんに戻り世間話となる。

 桜木茶舗のご隠居夫婦は儀式が終わるといつものニコニコとした笑みを俺たちに向けた。

「神社といえば、昔縁日に言った時に桜子さん、鼻緒を切ってしまった事覚えているかい?」

 重治さんは穏やかな眼差しで妻へと移す 。

「重治さんが私の事を自宅まで運んでくれたのね? 重いのに」

 見つめあう二人には、俺達の存在とかももう見えてないようだ。

「桜子さんは羽のように軽かったよ」

「まあイヤだ、そんなこと」

 二人にとってそういった事すべては思い出なんて過去の事ではなく今なおも二人の中でキラキラ輝いている宝物なのだろう。仲の良い二人の会話は見ていて心温まるものがあった。

 そのまま【櫻花庵】を周り中央広場周辺のお店を回る。


 【篠宮酒店】に行ったら、燗さんが何故か俺たちの姿を見てニヤニヤしだす。

「なんでぇ。おめえらもやるなぁ、ペアルックなんてよ~!」

 そう指摘されて、俺は初めて二人で同じ竹の絵柄で似たような色の地の浴衣を着ていた事に気が付く。

「いえいえ。コレはあくまでも偶然で!」

 真っ赤になってしまった璃青さんの横で俺は、そう説明をするが燗さんは尚もニヤニヤしていて信用してくれていないようである。

「でも、いいわね、ペアの浴衣を楽しむって」

 雪さんまでがそう言ってニコニコ笑いかけてくる。

「俺らも来年やってみるか! 絵柄は何が良いかな? 雪お前だったらどんな柄の浴衣着ても綺麗なんだが、俺にも似合うとなると難しいな」

「あら、あなただって、どんな浴衣も恰好よく着こなせるわ」

 この年齢で、ペアルックを着ようなんて、本当にここの夫婦も仲が良い。今尚も熱い二人の愛の風景を璃青さんもニコニコと楽しそうに眺めていた。

 篠宮酒店を離れても璃青さんは余程楽しかったのかフフと笑う。

「この商店街って本当に素敵なご夫婦多いわね」

 璃青さんの言葉に、俺もずっとそう思っていたので頷く。

「ですよね。俺もいずれは結婚して、商店街の皆さんのような素敵な家族を作れたら幸せだなと思います」

 璃青さんはこちらを静かな瞳で見上げそしてフッと笑う。

「うん、なれるよ。ユキくんなら絶対優しくて素敵な旦那様になると思う」

 俺はそう言われ、擽ったい気持ちになる。

「そうですか? その為にも精進して男を磨かないといけませんね」

 そういうと、璃青さんは何故かだまったままコチラをジッと見上げてくる。そしてプッと笑い出す。

「本当にユキくんって真面目よね。そこがいいところなんだけど。なんといっても紳士だし、素敵な旦那様になる事はわたしが保障するから、大丈夫!」

 笑いながら言われても、説得力がない。俺は曖昧な笑みだけを返しておいた。視線を外し次のお店へと二人で向かうことにした。


 願い紙を集め終わり、二人で月読神社を訪れると、何故か本殿に通された。璃青さんと俺はそこで二人きりにされ顔を見合わせる。外ではお祭りの最中で賑やかなはずなのに、本殿の中はどこか神秘的で不思議な静寂感に包まれている。空気も違っていて、森林の中にいるような清涼感のある空気が漂っている。そこで和装で姿璃青さんと一緒にいると、なんとも不思議な気分になる。

 二人で並んで室内に施された装飾をだた静かに眺めていても、不思議と気まずさはなく二人きりというこの空間がてとも心地よいものに感じた。


 後ろの戸が開く音がして、振り返るとそこに宮司の月ヶ瀬さんが立っていた。俺と璃青さんがお辞儀すると、神職服の月ヶ瀬さんは厳かに頭を下げる。こんなに堂々とした感じで頭を下げられる人ってあまりいないのかもしれない。

 月ヶ瀬さんは俺達二人に改めて視線を戻し、『ほう、面白い』と言って目を細める。

「あの、願い紙の奉納に参りました」

 俺がそう告げると、月ヶ瀬さんは顔を少しやわらげ祭壇の前へと俺たちを促す。奉納って箱を渡して終わりだと思っていたら違ったようで、俺の手から箱を受け取り、それを祭壇の前にある台に恭しく置く。

「奉納の儀を執り行わせていただきます」

 月ヶ瀬さんは御幣(ごへい)を手にお辞儀をしてきたので、俺たちは指示されるままに手を合わせ、頭を下げる。目を閉じることで俺の耳に祝詞の声とシャラシャラとした音がだけが響く。隣で璃青さんの気配を強く感じながら。

 祝詞の音も御幣もいつしか遠さがっていき。暑さも寒さといった感覚も消えていく。そしてただ隣の璃青さんの存在の息遣いと体温を近くに感じ、心の奥がホワンと温かくなってくるのを感じた。暑くもなく冷たくもなくとてつもなく不思議な何かが体中に広がっていくのを感じた。

「もう結構です、お直り下さい」

 月ヶ瀬さんのその声に、俺はハッと目を開け現実に戻る。少し放心したような感覚でポカンと月ヶ瀬さんの顔に視線を向け、そして隣の璃青さんの方へと顔を動かす。すると同じタイミングで璃青さんは俺の方に顔を動かしていた。


 カチリ


 目が合った途端に何かが噛み合わさったような音がしたように感じたのは気のせいだったのだろうか?


 奉納の儀を終えて、宮司の月ヶ瀬さんに挨拶をし本殿を出る。不思議な高揚感を持て余したまま璃青さんとの会話も出来なかった。人々の声のする雑踏へと戻りなんかホッとする。璃青さんのハァと小さい吐息の音に顔を見合わせてなんか微笑みあってしまう。どちらからというのもなく手を出し繋ぎそのまま歩き出した。

 さっき儀式で感じた感覚は何なのか? そう思うものの、その事を璃青さんと話す事に躊躇いを感じる。タブー感というよりも、言葉にする事で二人の大切な何かを剥き出しにし、もう元通りに出来なくなってしまうような気がしたから。そして繋いだ手の感覚をより感じたくて、より強く握ってしまう。璃青さんの小さい手が俺の手から逃げるのではなく、ギュッと握り返してくることにどうしようもなく悦びを感じた。


コチラの作品も たかはし葵さまと二人で話し合いあって作った物語です。『Blue Mallowへようこそ〜希望が丘駅前商店街』にて同時に同じエピソードを描いていますので、そちらで璃青さん視点でもお楽しみになることができます!

そしたらも合わせてお楽しみ下さい。


また、二人が立ち寄らせて頂いたお店での会話に関して一緒に考えて下さった鏡野悠宇さま、篠宮楓さま、お世話になりました。

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