【商店街夏祭り企画】浴衣美人
夏祭りの日、黒猫で早めに来てくれた小野くんと、出店用の準備をしたり、キーボくんの恰好で小野くんに付き合ってもらいビラを配ったりという事をしていた。そして一旦二人で俺の部屋でシャワーを浴びて汗流して浴衣に着替えようかとしていたら、先に浴衣に着替えていた杜さんがやってきた。
「やあ、二人とも今日だけどさ、折角だから祭りらしく華やかな恰好にしてみないか?」
杜さんの言葉に二人で首を傾げる。そして四階に連れていかれると、リビングのテーブルに畳まれた男ものの浴衣が並んでいた。
「前は花火大会だから花火が主人公だったが、祭りは人間が主役だ! だったら男ももっと派手な浴衣きてもいいと思わないか?」
杜さんはそう言って、並んだ浴衣に視線を向ける。そこには、確かに大胆な柄の浴衣が並んでいる。
「これは俺の浴衣なんだが、二人もこういう感じのも着てみたいと思わないか? 今年二人に用意した浴衣は、最初ということもあって無難なモノだったから。でも若いんだから、こういう感じのも着せてみたいなと思ってな。来年の二人の浴衣の参考もあるしな」
小野くんは楽し気に浴衣を見つめていた顔を『えっ』と顔で杜さんを見つめる。
「俺、一着いただいたからそれで十分ですよ!」
そう言う小野くんに、杜さんはニコニコと『そこは気にすることないよ、ここの商店街の伝統だから』と流してしまった。
「小野くんは、こんなやつ似合うと思うぞ! 背面に大胆に鯉の図案を中心に足元、胸のところにも鯉の図案が散っていてそれがまたいい感じなんだ」
そう言って紫黒に豪快に鯉があしらわれた浴衣を勧める。確かに切れ長の瞳の小野くんだったらそういう浴衣も似合いそうだ。そして杜さんはそれに葡萄色の帯を合わせて小野君に『どうだ?』と聞いている。小野くんもその粋な浴衣のセットに魅かれているようで、いつになくワクワクした顔をしている。
「ユキくんは、そうだな、コレなんてどうだ」
俺に勧めてきたのは鳥の子色の地に、水墨画っぽい竹の絵が描かれた浴衣。
「コレだったら、ユキくんの持っている銀の帯との相性もいいし」
女性でなくても、こういうお洒落ってテンションが上がるものだ。俺と小野くんは借りた浴衣を着て悦に入り、互いを誉めあい照れあい、先に出店で仕事をしていた杜さんと澄さんの所へと向かった。
花火大会の時同様、澄さんは隣の璃青さんと璃青さんのお母さんらと話しながら楽しそうに仕事をしているようだ。お隣さんの姿は見えないけれど声からそう判断できた。俺は先にコチラに気が付いた杜さんに頭を下げ、それに気が付いた澄さんが振り向き顔を輝かせた。
「キャー二人ともカッコいいわ! 杜さんとはまた違った恰好よさになって素敵よ~」
そういって近づき、俺たちをベタ誉めする。そういう澄さんも花火大会と異なる薔薇柄の浴衣でより華やかさを増している。帯の色も変え髪も少し洋風なアップスタイルに変えている。さすがオシャレな澄さんである。いつも以上に華やいで見える。
「澄ママも、今日の姿も素敵です」
小野くんも同じように思ったのだろう。そういう小野くんの言葉に澄さんはコロコロと笑う。杜さんは当然という感じで笑い澄さんの肩に手をやり抱き寄せる。
ふと視線を感じ、その方向をみると璃青さんが目を丸くして見つめてきていた。俺はその表情よりも璃青さんの姿に目を奪われる。花火大会の時とは違っていて、女郎花色の地に、涼やかな竹の絵の描かれた浴衣を身に着けていた。若緑の帯に薄紅梅の帯飾りとの組み合わせがまた絶妙で清楚な美しさを醸し出していた。そして今日は髪の毛を結い上げている事もあり、いつも以上に大人の女性の魅力を増していた。それでいて目を丸くしてコチラを見上げてくる子供っぽいあどけない表情が璃青さんらしく可愛らしい。
「ユ、ユキくん…その浴衣…」
「素敵です! 璃青さん。その浴衣、とても似合っています」
思わず出てしまった言葉に、璃青さんなますます目を丸くした。そこまで変な事言ったつもりはないのだが、璃青さんは微妙な顔をしたまま目を逸らした。周りの皆も何故か苦笑している。俺は首を傾げつつも仕事を始めることにした。




